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演習前の準備

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「リクさん、私達にも難しい事をさせるのよねぇ」
「だが、これも良い訓練になりそうだ」
「攻城戦想定が、さらに本気具合が上がりました」

 俺の作った土のアーチ、モニカさん達にはちょっと不評だった……。

「ちょっと難しいわね、あれを避けて援護するって……まったくリクは、もう少しこちらに有利な条件を付けてもいいでしょうに」
「価値を目指すのは当然だが、訓練なのだから想定を難しくする方が良いのではないか?」
「そうなんだけどね……」

 カイツさんはともかく、フィリーナには特に不評。
 俺が作ったアーチは、一応乗り越えられる壁を作って封鎖してい入るけど、その上はがら空きだ。
 なので、そこを通して内部に援護する魔法を放り込めてしまうため、アーチ内を通る魔法は禁止となった。
 誰かがアーチを通って侵入したら、門が開いて押し込めたとみなし、許可されるけどそれまではアーチを避けて魔法を使わなければいけないからだろう。

「ほえ~、楽しそうなの。これは、壊していいの?」
「いやそもそも壊せるかどうか……あ」
「壊れちゃった」

 兵士さんの所へ行っていたユノが戻って来て、これからの演習の事などを土壁を見せながら説明。
 俺に単独で軍を相手にする演習をさせたくらいだから、ユノ本人は楽しそうに目をくりくりとさせていた。
 ……んだけど、俺が作った土壁を軽く叩いただけで一部破壊させ、周囲の人を驚かせた。
 近くにいる兵士さん達や、シュットラウルさんも含めて、叩いたり武器を打ち付けたりして、壊れない事を確認していたのに、あっさり壊したらそりゃ驚くよね。

 ともあれ、土壁は壊れにくくはあるけど不可抗力で壊してしまった場合なら仕方ないけど、故意で壊すのは禁止。
 基本的に門ならともかく、頑丈なはずの壁を壊して内部に侵入するのは、通常狙う事じゃないからね。
 ちなみにユノに聞いたら、次善の一手の応用みたいな事だったらしい……さっきまで未熟な人に教えていたから、つい手に魔力を這わせてやっちゃったって。
 魔法で作った土壁に魔力が干渉して、多少壊しやすくなるとか……それでも、俺がユノの壊した壁を治す傍らで、話を聞いたソフィーが剣で次善の一手を使っていたりしたけど、土壁は端が少し欠けたくらいだった――。


「ではまず、私とリネルトが左右を攻めてかく乱します。モニカ殿達は中央を狙って下さい」
「がんばります~」
「わかりました。えーと、ソフィーとフィネさんが最前で、私が一歩下がった状態が一番望ましいわね」
「そうだな。槍を使うモニカは、魔法も混ぜて戦う場合少し距離を取れるようにした方がいいだろう」
「私も斧を投擲すれば離れた場所からでも戦えますが……短期戦ならまだしも、こういった長期戦には向きません」

 アマリーラさん、リネルトさん、モニカさん、ソフィー、フィネさんが揃って作戦会議をしている。
 俺とシュットラウルさん、ユノはそれを眺めながら、壁の向こう側にいる兵士さん達も、続々と集まっていたり準備を進めていた。
 ちなみに、アマリーラさんが言っている中央というのは、俺が作った土のアーチだ。
 狙い通りあそこが、攻守の重要点になるみたいだね……かなり離れたこちらから見ている限りでも、アーチ付近に集まっている兵士さんの数は多い。

「アマリーラさんとリネルトさん、やる気ですけど……いいんですか?」
「まぁ、以前ヒミズデマモグと戦って以来、派手に動く事がなかったからな。最近は情報収集や、囮になったリク殿の見張りなど、思いっ切り体を動かせなかったために鬱憤が溜まっているんだろう」
「……楽しそうに作戦会議しているようだから、いいんでしょうけどね」
「獣人にも色々あるが……傭兵になる獣人でもあるから、存分に戦いをしたいのだろうな」

 アマリーラさんとリネルトさんは、当初参加の予定はなかったんだけど、それぞれ獣人特有の尻尾や耳を小刻みに動かしながら、うずうずしている様子で参加を表明した。
 シュットラウルさんも俺も、最初はアマリーラさん達が兵士さん側に入るという意味かと思っていたんだけど、自分達は軍に編成されているわけではなく、シュットラウルさんに雇われた私兵になるため、規模の大きい訓練には参加しない方が良さそうと言われる。
 軍としての統率力も問われる演習だから、そこに横から所属の違う者がはいってはいけないだろうと。
 結果、俺達の側に組み込まれて攻める側になったんだけど……俺達が頷いた時の喜ぶ様子から、守るより攻めるのが好きなタイプのような気もした。

 あと、「リク様の剣となり矢となり、敵を打ち倒します!」なんて言われて、隣にいるシュットラウルさんが唸っていたりもしたけど……。
 俺の部下や配下とかにしたつもりはないんだけどなぁ。

「大丈夫、カイツ? ほとんど研究でこもっていたから、弓に慣れていないでしょう?」
「若い頃にはやっていたのだがな……数百年前か。まぁ、なんとかやってみるさ」

 俺達の近くでは、フィリーナとカイツさんが借りた弓の点検をしながら話している。
 今回、予算の関係で兵士さん達は弓矢を使わない事になっているけど、フィリーナ達なら大量の矢を消費する事はないから、許可された。
 ……んだけど、実際には矢を撃つわけではなく、フィリーナ達も弓しか持っていない。
 矢は魔法でなんとかすると言っていて、弓がある方が狙いを付けやすいかららしい。

「大きな弓だなぁ」
「フィリーナ殿のは、ロングボウだな……少々特殊な物だが。カイツ殿の方は、ショートボウか。あちらも特殊な弓だな」

 フィリーナが借りた弓は、二メートル以上はある大型の弓で、日本の和弓だと大弓と呼ばれるタイプの物だ。
 平均的なロングボウとは違い、上下非対称の形で特に上部分が大きく湾曲(わんきょく)している……どちらかというと、大きさも相俟って洋弓よりも和弓に近い。
 カイツさんの方も、同じく大きく湾曲しているけど……こちらはもったり矢をつがえる部分が、へこむ形なので、現代のアーチェリーに使われる弓を小さくしたような形を彷彿とさせた。
 どちらも木で作られていて、それぞれエルフの村で使っていた物に近いらしく、慣れているから選んだとの事。

「どういう物なんですか?」

 形の事はなんとなく見ればわかるけど、弓それぞれによって使い方や能力の違いなんかは、よく知らないので、準備を待つ間の暇潰しがてら、シュットラウルさんに聞いてみる。
 弓道やアーチェリーとかやっていたら、わかったかもしれないなぁ。

「そうだな……フィリーナ殿の特殊なロングボウだが、あれは一度に射る矢の威力を高めた物だな。ただし、特殊なだけあって引くために必要な力が強い。そのため、まともに使える者は少ない。平均的なロングボウでも同様なのだが、フィリーナ殿のはそれ以上だな」
「大きいですからね……その分威力は上がっても、扱いは難しいのかぁ」

 非力そうに見えるフィリーナが扱えるのか心配だけど、まぁ魔法を使うためだから、矢を射るのとは違ってそこまで力は必要ないんだろう、多分――。


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