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少数で攻める側の方が消費は激しい

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「……だからこそ、明らかにあの二人や私以上に強さを示し続けているリク殿に対して、必要以上の敬意……どころではなかったな。部下になりたいと言っていたのだろう。……引き抜きは、困るぞ」
「ははは……雇う意思はありませんから……」

 二人というか、主にアマリーラさんだけど……とにかく引き抜きをするつもりはないし、そもそも雇う考えもない。
 ジト目で見るシュットラウルさんに対し、苦笑して誤魔化しておいた。
 俺から持ち掛けた話じゃないんだけどなぁ……。

「ほら、カイツ! 休んでないでもっと頑張りなさい!」
「はぁ……はぁ……もうちょっと休憩を……」
「何言っているの! 演習は続いているのよ? 戦いの最中に疲れたなんて言っていられないわ!」
「はぁ……ふぅ……私は本来、戦闘をするのに慣れていないんだが……仕方ない……」

 俺がシュットラウルさんと話しているのとは別に、魔法の援護をしているフィリーナとカイツさんの会話が聞こえてきた。
 そちらを見てみると肩で息をするカイツさんに対し、同じく呼吸が荒くなっているのを抑えながら、現を引き絞るフィリーナ。
 傍から見ていると、ロングボウを使ってできるだけ弦を引いているフィリーナの方が疲れそうだけど……カイツさんはほとんど力を入れて弦を引いていなかったし。
 ただ、常時発動状態になっている探知魔法の反応からすると、カイツさんの魔力がフィリーナより小さくなっているのがわかった。

 一度に大きな魔法を使うより、連射して延々援護し続けている方が魔力消費が激しくて疲れるんだろうね。
 あと、研究を主にしているカイツさんが、こういった事に慣れていないのも大きな理由か。

「……押してはいるが、膠着状態だったのがそろそろ動くか?」
「そうですね。まぁ、俺はほとんど見ているだけですし、人数が少ない方がジリジリと体力を削られるのは当然ですから」
「そう言いつつ、結界で皆を守っているのだろう?」
「……わかりますか? ちょっと、やり過ぎかもしれませんけど」
「不自然に、魔法や武器が弾かれているのを見ているからな。私の方に飛んで来る魔法も少ない。……自分も守られている以上、多少は目をつぶるさ」

 俺が時折結界を使っていたのは、シュットラウルさんにバレていたようだ。
 まぁ、多少の仕様は許可されていたし、基本的には危険だなと思った時にしか使っていないつもりで張るけど。
 でも、俺がそうする事でフィリーナ達に向かう魔法がほとんどなく、牽制もされずに援護を続けられているから、内心ちょっとやり過ぎかな? と思ってもいた。
 アマリーラさん達の方は使う必要はなく、モニカさん達のほうでは完全に死角からの攻撃にのみ使っている……せっかく意表を突けた兵士さん達には悪いけど、あんまり毛がとかして欲しくないからね。

「それじゃ、そろそろ動かすのだわ。モニカ達も疲れているようなのだわ」
「うん、お願いするよエルサ」
「リクはもう少し集中して、魔力を放出するのだわー。私の魔力も足りなくなってきているのだわ」
「よく言うよ。俺から吸収した魔力ばかりで、自分の魔力をほとんど使っていないくせに。まぁ、援護をやってもらっているから、別にいいけど」
「……気楽に他者への魔力供与とはな。それに、後方援護で膠着状態になって来ているのを簡単に動かせると言えるのは、ここだけだろうな」

 シュットラウルさんの呟きはともかく、話したりフィリーナ達の方を見ていたりで、疎かになっていた魔力放出を少しだけ増やす。
 エルサは自分の魔力ではなく、間近で受けた俺の魔力を使って魔法の援護を続けていた……まぁ、これくらいは代わりに援護をしてくれているんだから、良しとしておこう。
 それに、エルサの魔法が凄いというか、効率が良いというのだろうか? 散発的に水球を飛ばしていても俺自身の魔力はあまり減った感じがしない。
 まぁ、俺の魔力が増えている影響もあるんだろうけど、もう万を越えるくらいの水球を放っていてもこうだというのは、制御だったり効率だったりもう少し考えた方がいいのかなと思わせた。

「じゃあリクは、モニカ達と左右の獣にやり過ぎないよう結界を張るのだわ。多少兵士の動きを阻害するくらいでいいのだわ。それが合図になるのだわー」
「獣って……アマリーラさん達の事か。はいはい、わかったよエルサ」

 さすがにアマリーラさん達の獣呼ばわりはどうかと思うが……本人達はエルサの言う事なら受け入れそうだけど。
 そもそも見た目で言えばエルサの方がよっぽど獣っぽいのに、という考えは置いておいて、言われた通り結界を使う準備をする。
 とはいっても、いつでも発動できるようにしていたから、時間のかかる準備なんてないんだけど。

「それじゃ行くのだわ。ファイアボール……だわぁ」
「はいよ。……結界っと」
「むぉ!?」

 エルサの合図……言葉と同時に俺の頭を足? 手? でポンと叩き、魔法を発動……シュットラウルさんの驚く声が周囲に響く。
 それと共に、俺も複数の結界を同時に発動。
 完全に結界で守るのは禁止されているから、モニカさんやアマリーラさん達に群がる兵士さんの動きを阻害する程度だ。
 ただ、正面にだけは発動しない……直進するのを邪魔しちゃうからね。

「っ! ソフィー、フィネさん!」
「あぁ!」
「了解です!」
「あぁ……さすがですリク様……!」
「おぉ~!」

 兵士さん達の攻め手が緩んだからか、結界に気付いた様子のモニカさん、それからアマリーラさんとリネルトさん。
 何やら陶酔したような叫びや、気の抜ける声が左右から聞こえたけど……。

「上できなのだわー」

 頭上からも気の抜ける暢気な声を聞いて、上空に浮かぶ物体……魔法を見上げる。
 それはエルサがファイアボールと言ったそのままで、水球と同じように燃える球が無数に浮かんでいた。
 偶然だったけど、初めてフレイちゃんを召喚した時に出てきた炎の球に近いか。

「あ……」
「ど、どうしたのだ、リク殿? まさか、あの凄まじい魔法が何か……っ! 兵士達を全滅させるような威力が!?」
「いえ、そっちは大丈夫だと思います……多分ですけど」
「多分じゃなくて絶対なのだわ。多少燃えて火傷するだけで、大きな被害は出ないようにすぐ消える炎にしてあるのだわ」

 ふと、空に浮かぶ炎球を見ていて、そういえばフレイちゃんに来てもらったら、俺も援護に参加できたなぁ……と今更ながらに気付く。
 フレイちゃん、ちゃんと加減してくれるし……まぁ、今更遅いんだけど、召喚して欲しそうにしていたからそのうちどこかで呼んであげよう。
 それはそうと、俺が漏らした声にシュットラウルさんが不吉な予想をしてしまったようだけど、さすがに俺と違ってエルサなら下手な事はしないだろう。
 エルサも俺の頭を叩きながら絶対って言っているからね……多分って言ったのを気にしているんだろう、ちょっとだけ痛い……あと髪は引っ張らないで。

「それじゃ、投げるのだわー! だわっ!」

 エルサの声と共に、数えるのも面倒くさい無数の炎球が、土壁の向こう側へとゆっくり向かって行った――。


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