神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移

リクの反撃

「魔力が減っているからか？　あの時程塊になる感覚がないな……」
「まだなのだわ、リク！」
「もう少し待ってくれ！」

　急かすエルサに焦りも沸きあがるけど、何とか抑えつけて、魔力を練る……いや、固める。
　あの時は確か、最初から体の奥にあったはずなんだけど……いきなりの重圧で驚いたり、耐えるのに精いっぱいだったのでどうやったのか少し怪しい。
　アルセイス様からの重圧で、体だけでなく魔力も最初から奥底に押し潰されていた感じだったんだよなぁ……そうか！
　練って固めるんじゃない、圧縮するんだ！

「……よし、準備はできた。後は解放するだけだけど……」
「魔力が削られているのだわ！　早くしないと、一度耐えるくらいの結界も張れなくなるのだわ！　というかそもそも現状で足りるのかもわからないのだわー！」
「もうちょっと、もうちょっとだけ……」

　土を凝縮させて壁を作ったのと同じように、魔力を圧縮して塊にする事に成功。
　焦るエルサの声を聞きながら、準備が完了して破壊神を注意深く見る。
　チャンスは一度だけ、多分衝撃をエルサが防いでくれたら、その後は結界を張る魔力がエルサに残っているかもわからない。
　そもそも、失敗したらその時点で一巻の終わり……。

「衝撃と閃光の間が狙い目……」

　連続攻撃の中で、衝撃と閃光に変える瞬間が一番間が大きい。
　思考を飛んだわけじゃないけど、大体パターン化しているので衝撃の次に閃光が来るタイミングを狙うのが一番ベストだ。
　衝撃、閃光、衝撃、衝撃……ランダムに攻撃が移り変わるようでいて、ある程度法則化している……閃光、衝撃、閃光、閃光、衝撃……ここだ！

「エルサ、頼む！」
「了解したのだわ！　結界、結界結界結界結界結界結界、ついでに見様見真似の曲面結界なのだわ！」

　エルサに叫び、衝撃を受け止める結界を任せる。
　分厚く結界を張るよりも、多重に結界を張る事を選択したようだ……衝撃が不定形で受け流せるものだとしたら、確かに結界に当たる瞬間い分散するだろうから、いい手だろう。
　しかも、完全に同じではないけど、曲面結界まで再現して見せてくれた……さすがエルサ、モフモフ……じゃない、相棒なだけあるね！

「さすがエルサだ！　完全には防げなくても、これくらいならなんとかなる」
「後は任せたのだわ……あーれーだわーー！」

　エルサの曲面結界は、接触面を強化したわけではなくただ通常の結界の形を変えただけのようで、衝撃を受けて破砕。
　だだ、それまで多重に張った結界で威力が衰えていた衝撃は、俺に届いた時にはほとんどそよ風くらいにしか感じない……一応、人間一人くらいなら飛ばせそうだけど、俺なら耐えられる。
　後ろのエルサは、魔力がほとんどなくなった影響か、その風に飛ばされてしまったけど。

「へぇ？　でも、ドラゴンが防いだからって、次に繋がるとでも？　もう、魔力も限界よねっ！」
「それはどうかな……破ぁ！」

　口角を上げて、残忍な笑顔を浮かべながら続けて指先をこちらに向ける破壊神。
　狙い通り、衝撃の次に閃光だ。
　エルサが作ったこの猶予を、絶対無駄にはしない！
　体の中で圧縮し、固めていた魔力を解放……特にイメージする必要はないかもしれないけど、頭の中では拳銃を撃つような感覚。

　指先を破壊神に向け、そこから固めた魔力、圧縮させた高密度の魔力を勢いよく撃つ感じだ。
　狙ったわけじゃないけど、破壊神と俺、お互いがお互いに指先を向けるという、不思議な光景になった。
　ほぼ同時に、破壊神の閃光、俺の魔力が放たれる……。

「なっ！　きゃあ！」
「……はぁ、ふぅ。上手くいった、かな？」

　俺の魔力の弾丸は閃光とぶつかり、その光すらも取り込みながら破壊神へと直進する。
　驚きの表情に変わった破壊神は、額に光を放つ弾丸を受けて、遠くまで弾け飛んだ。

「魔力の性質か何かなのかな？　光を取り込むとは思わなかったけど……」

　光の中を突き進むとか、それくらいは考えていたけど、まさか破壊神の閃光をそのまま吸収するとは思わなかった。
　変換されない純粋な魔力が、何かの効果を出したのかもしれないけど……よくわからない。
　とにかく、俺自身の魔力だけよりも威力が上がったように見える、魔力の弾丸……魔力弾は、確実に破壊神に当たってダメージを与えたはず……。

「いっ…………たいわねぇ！」
「ダメージ、あんまりなさそうだなぁ……」

　連続攻撃そのものは止んだけど、大の字で地面に倒れていた破壊神は、何事もなかったかのように立ち上がってこちらに戻って来ながら、長いためを作って文句を言う。
　いやまぁ、何事もないというか額は赤くなっているようだし、痛みはあったみたいだけど。

「なんて事してくれるのよ！　ただ遊んでいるだけなのに、私に痛みを与えるなんて！」
「いや、俺の方はさっきから何度も痛い事されていたんだけど。それに、遊んでって言われても……抵抗しなきゃ破壊されるんでしょ？　そりゃ、反撃くらいするよ……」
「破壊神なんだから、破壊をするのは当然でしょ！　それを遊んでいると言って何が悪いのよ！」
「駄々っ子なのだわ？」

　こちらに抗議をする破壊神……先程までの残忍な笑顔や、恐怖を感じる雰囲気は一切消え、見た目相応の子供みたいになっていた。
　……言っている事は子供らしくないけど。
　衝撃の余波で飛ばされたエルサが、仰向けに転がりながらも顔だけを持ち上げ、思わず呟いてしまうのも無理はないと思う。

「誰が駄々っ子よ！　この駄ドラゴン！」
「だ、誰が駄ドラゴンなのだわ！」
「あんたよあんた！　創造神に創られたドラゴンなんて、全て駄ドラゴンよ！」

　エルサの呟きが聞こえたのか、破壊神が叫ぶ。
　俺もエルサと同じ事を考えていた事は、言わない方が良さそうだ。
　まぁ、エルサの事を駄ドラゴンという理由は、創造神のユノが創ったからっていうのも、さらに駄々っ子レベルを上げている気もするけど。

「エルサに八つ当たりしなくても……とりあえず、そろそろその子供っぽく文句を言う演技を止めたらどうかな？」
「……あら、わかっていたの？」
「痛いのは本当だったのかもしれないけど、もう赤くなっていた額も元に戻っているからね。これくらいじゃ本当に堪えている事はないんじゃないかって」
「中々鋭いわね。さっきの魔力もそうだけど、馬鹿魔力だけじゃないのね。人間のくせに」

　俺が指摘すると、あっさり駄々っ子モードを止めた破壊神……後ろでエルサが駄ドラゴンと言われた事による、やり場のない怒りのような気配を放っている気がするけど、気にしない。
　破壊神は、一瞬気のせいだったのかな？　すぐに跡形もなく、額の赤みは消え去っていたから。
　痛かったのは間違いないだろうけど、エルサに突っかかる程怒っている様子を感じなかったのもある。

「それで、時間稼ぎをしてなんの得があるんだ？」
「時間稼ぎ？　そんな事するわけないじゃない」
「しらばっくれるか……まぁ、さすがにすぐ教えてはくれないか」

　ずっと不自然に感じていた事。
　破壊神というだけあって、圧倒的な力を感じるはずなのに俺の事を試すようにしていた。
　そもそも、次元のズレだとか切り離したとか、それ以外にも色々と俺の疑問に答える必要もないのに、時間をかけて話していたから。
　それこそ、破壊神なのだから有無を言わさず攻撃をすればいいはずだ……破壊する相手に、わざわざ事を教える意味なんてないし、それに……。