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絶望を跳ねのける相棒の叫び
しおりを挟む「そうよ、魔物によって人間が蹂躙されるの。リクが戻る頃には、廃墟になっているかしら? 隠れて何とか生き延びている人間もいるかもしれないけど、戦っていた者は全滅しているでしょうね」
「くっ……! 英雄とか呼ばれて、皆を助けられると思いあがっていたんだ……俺一人じゃセンテを救う事すらできない……」
「ちょっと魔力量が多いからって、人間一人にできる事なんてたかが知れているわよ? でも、今回の事だけでなく、多くの人間が犠牲になる事態を引き起こすのは、同じ人間。人間は他者を許容するけど、同時に排除もする。魔物を利用してまで、多くの人間を虐殺するのよね……」
そうだ……人間が、人間同士が争う事でどれだけの人間が犠牲になるのか。
それは、この世界に限った事じゃなく、俺がいた世界でも戦争という形で多くの人間が犠牲になった。
俺がいた頃の地球では、大きな戦争は起こっていなかったけど……人間が人間を、という事はあったし、歴史によって過去の戦争は語られている……。
「人間が……人間がいるから……」
「くふふふ……そうよ。人間がいるから、悲しい事が起きるのよ」
目の前が暗くなっていく……本当に暗いわけではないけど、視界が狭まって行くような感覚。
どす黒い何かの感情が体の奥底、心の中で渦巻いている。
「リク! ちゃんとするのだわ!」
「エルサ!?」
「ち、まだうるさい駄ドラゴンがいたわね……」
閉じかけた視界、心の中に乱入して来る光……いや、モフモフ?
「よく考えるのだわ! 十日なんてそこの駄神が言っているだけなのだわ! 魔物が押し寄せるっていうのもだわ! 本当の事を言っているとは限らないのだわ! そもそも、さっきそこの駄神は外の様子はほとんどわからないって言っていたのだわ! それならなんで、十日も経っている事や魔物が街を壊滅させているなんてわかるのだわ!?」
「外の様子が、わからない……」
「誰が駄神よ! この駄ドラゴン!」
叫ぶエルサの言葉に、少しずつ、少しずつだけど先程まで抑えきれない程湧き上がっていた、絶望感が削り取られて行く……。
「うるさいのだわこの駄神! 私の事を駄ドラゴンなんて言ったお返しなのだわ! とにかくだわ、本当に街がどうなっているかなんて、ここを出て実際に見ないとわからないのだわ!」
「……でも、本当にそうなっていたら……だって、センテは魔物に備えての準備なんかしていないし……」
エルサの言う通り、破壊神の言葉を全て信じない方がいいのかもしれない。
だけれど、それでも魔物が押し寄せるというのが本当だったとしたら、それだけでセンテで多くの人達が犠牲になっているのは間違いないと思える。
「なんのために、訓練をしたと思っているのだわ! 演習も、兵士達もいたのだわ! リクと対峙した人間が、そんじょそこらの魔物にたやすくやられるわけがないのだわ!」
「訓練、演習……でもあれは、戦争に備えてで魔物に対してとかじゃ……」
「それでもだわ。リクと対峙した時点で、魔物に向かうよりも恐怖に晒されているのだわ!」
「あー、それは確かにそうね。私相手にも引かずに反撃できるのだもの、リクはつまり神に匹敵するわけよ」
破壊神は、どちらの味方なのだろうか……? 先程まで、俺を失意のどん底に落とそうとばかりに、言葉で絶望への誘導をしていたはずなのに。
目的はほぼ達したと言っていたから、ここではっきりさせなくてもいいとでも考えているのかもしれない。
「確かに訓練や演習をしているから、何もしていない状態よりはマシだろうけど……」
「それに、ヘルサルが近くにあるのだわ。マックスや他の人間達が、黙っているわけないのだわ! 本当に十日が経っていたとしても、それだけあれば駆け付けられるのだわ」
「あ……そうか」
ヘルサルとセンテは、歩いても半日程度の距離……一日あれば往復できるし、馬や馬車を使えばもっと早い。
魔物が押し寄せているという情報は、すぐにヘルサルへもたらされるだろうし、そこから準備があるとしても、一日や二日で駆け付けられる。
少なくとも、マックスさんを始めとして元冒険者さん達や、現役の冒険者さん達はその日のうちに行動できるだろうし……ヘルサルは以前ゴブリン襲撃の時、センテに支援してもらったから今度はこちらからとなるはず。
ヘルサルの代官をしているクラウスさんなら、すぐに戦力を整えて援護に向かう気がする。
「そして何よりだわ、モニカ達もいるのだわ。これまでずっと一緒で、訓練も一緒にしていた人間達なのだわ。エルフも混じっているけどだわ。あれらを信じるのだわ! リクを見ていて、これまで大変な場面に遭遇しても切り抜けてきたのだわ!」
「モニカさん達……そう、そうだね。モニカさん達ならきっと……」
「やっぱり、私の言葉よりも契約しているドラゴンの言葉は、心に響くようね……ま、仕方ないか」
モニカさん達なら、押し寄せて来る魔物達との最前線で戦いつつも、他の人達を指揮して戦って押し返しそう……なんてのは、希望的観測なのかもしれない。
実際には、シュットラウルさんが士気を取るだろうし……。
けど、フィリーナやカイツさんのようなエルフもいてくれるし、アマリーラさんとリネルトさんという、強い獣人さんだっている。
十日くらいなんだ、魔物が押し寄せて来ていても、耐えるくらいの事は簡単にできそうだ。
それに、センテは作物の集まる集積場。
数十日程度なら食料の心配もしなくて良さそうだ。
「リクはもう少し、近くにいる誰かを信用するべきなのだわ。一人で何でもやろうとし過ぎなのだわ」
「……自覚はあったんだけど。なんとなく他と自分を切り離す癖があるんだよね」
この世界に来るまで、日本で一人……なんとなくで生活していた影響なのだろうか?
信頼や信用をしないわけじゃないけど、誰かを頼ったりするのは苦手で、一人でやれる事は全部一人で、やれない事はそもそも諦める、という事がいっぱいあった。
「そうだね……エルサの言う通り、皆を信じてみる事にするよ」
「ま、それでも、本当はもう手遅れなのかもしれないかもだけどだわ」
「今それを言う? でもまぁ、その時はその時だ。皆は無事だって信じておく事にするよ」
つい先程までなら、冗談めかしたエルサの言葉も絶望感への餌になっていただろう。
けどなんでかな……今はエルサに笑って答える事ができるように、絶望感よりも希望や期待感の方が勝っている。
やっぱり、モフモフだから……じゃなくて、契約してずっと一緒にいる相棒の言葉だからだろうか?
繋がっているから、エルサの言葉は破壊神の言葉よりも、すんなり心に響く気がした。
「信じるのはいいけど、ここから出ない事にははじまらないわよ? まぁ、待っていてもいずれ出られるのだけど。干渉力をずっと使い続けているわけにもいかないからね。でも、その時には確実に手遅れよ」
「俺がここに留まっても、皆が頑張って魔物を倒し切るかもしれないよ?」
破壊神の言葉にも、皆を信用する……なんとか頑張って戦い続けて食い止めてくれている事を信じて、再び絶望を感じる事はなかった――。
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