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エルサの脱出

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「……な! またそれ!? でも当たらなければ……!」

 再び、破壊神の閃光を吸収しつつ直進する魔力弾。
 先程のように、無防備で受ける事はしたくないのか、破壊神は横にズレて避ける……足を動かして避けたとか、横に飛んだとかではなく、本当に体を動かさないまま横にズレた。
 予想外の動きではあるけど、避けられるのは計算済みだし、むしろ避けてくれて助かった。

「よし! エルサ、全速力だ!! 俺が放った魔力弾の軌道を追ってくれ!!」
「わ、わからないけどわかったのだわ!!」

 そして力の限り叫び、魔力弾が突き進む神の御所を真似た空間……破壊神のいた場所のさらにその奥へ、エルサを向かわせる。

「だわーーーーーー!!」
「うぉ!?」

 いつもよりさらに小さく、拳サイズくらいになったエルサがとんでもない勢いで、俺の示す先、魔力弾が突き進む方向へ飛び出す。
 小さくても衝撃派が発生する程の速度で、破壊神の横を通り過ぎていく……。

「んなっ! あれは!?」
「よし、狙った通りだ! いけぇ、エルサァァァ!!」
「ま、か、せ、る、の、だわー!!」

 エルサより先に、魔力弾が何もない空間に見えるはずの場所で何かにぶつかり、穴を開ける。
 それを驚く破壊神を気にしている暇もなく、突き進むエルサに向かって叫ぶ。
 速度を出すためなんだろう、エルサが力を込めた叫びと共にその穴へと飛び込んだ……。
 エルサの姿が穴の中に消え、しばしの沈黙……静寂が俺や破壊神のいる場所を支配する。

「……行った、かな?」
「ど、どうして……空間に穴なんて開くわけが……」

 開いた穴の先は虚無のような空間……ではなく、俺達が元々いたはずの洞窟の壁が見えていた。
 つまり、破壊神が創った神の御所に似せて作った空間に、無理矢理穴を開けてそこからエルサを脱出させたってわけだね。
 呆然として呟く破壊神、してやったりだ。

 魔力弾が閃光を吸収する事を見越していたからって、穴その物は大きくないと考えていたから、エルサに限界まで小さくなってもらった。
 ……実際には、いつも頭にくっ付いているくらいの大きさなら通れそうだったけど、結果オーライとしておこう。

「不完全とはいえ、神の作った空間に穴を開けるなんて……」
「不完全だったんだ? まぁ、できたからできるって事じゃない?」

 詳しい事はわからないけど、できてしまったんだからそういう事なんだろう。

「……私の力を吸収していたから、それで? というか、そもそもリクはなんなのよ!」
「なんなの、と言われても」

 怒り、というより戸惑いを前面に出す破壊神。
 でもただの人間? としか言えない。

「百歩……いえ、百万歩譲って魔力を凝縮させたのはいいわ。人間にできる事とは思えないけど、異常な魔力量を持っていれば、そういう事もできるかもしれないから。けど、私の力を吸収するなんて、そんな事あり得ないわ!」
「百万も譲らないといけないんだ。まぁそう言われても……できたんだから仕方ないよね」
「一度目は、咄嗟の事だから偶然か何かと思ったけど、今のは狙ってやったわよね? そんな事……」

 ひたすら戸惑っている破壊神。
 最初の額に当たった魔力弾の方は、偶然と考えていたようだけど……俺にだってよくわからないんだから、説明できない。
 というより、俺はともかく破壊神ですらわからない事って、結構ヤバい事をやってしまったような気もする。
 ……ま、まぁ、できてしまったものは仕方ないよね、うん。

「この空間が、魔力弾に弱かったって事で……納得できないかな?」
「できるわけないわ! どれだけリクの魔力が多くても、それで破壊できるなんて……もしかして、私の力を吸収したから? いえ、それでも空間に穴を開ける程の力はないはず。バカ魔力と合わさって変質した?」

 破壊神にまで、俺の魔力がバカ魔力呼ばわりかぁ……。
 人間としては異常な魔力量って事なんだろうけど、単純な力だったら絶対破壊神の方が高いはずなのに、ちょっと理不尽を感じる。

「ま、まぁいいわ。これは後でじっくり考えるとして……でもどうして、さっきの攻撃で穴を開けられると思ったの? 空間が無限に続いている可能性もあったのよ? それこそ、リクの放った魔力が何にも当たらずただ直進するだけだったのかもしれないのに」
「それは多分ないんじゃないかなって思ってたよ。穴が空けられるかとか、色々賭けの部分はあったけどね」

 本当に、俺の魔力で穴が空けられるかって確信はなかった。
 けど、空間が無限に続いているわけでもないという確信もあったからね。

「干渉力を気にしていたようだったし、本当の神の御所は、今考えても確かに無限に空間が広がっているのかもしれないと思うけど……でも、今いる空間は似せて作った場所。干渉力を使っているなら、本当に無限にするわけないからね。そんなの、どれだけの力が必要なのか……」

 干渉力がどういうものか、俺にはよくわかっていないけど……空間を作るというのは、それだけで大きな力を使うくらいの事は、俺でもわかる。
 空間の維持なのかなんなのかにも、干渉力を使っているような事を言っていたから、さすがに無限に続くとまでは作っていないと確信していた。

「中々鋭いわね……創造神、ユノと会った経験も大きいのかしら」
「ユノから聞いていたのと、実際に本当の神の御所を見た事があるからってのも、確かにあるかな」

 あの不思議な空間を一度でも体験していなければ、今回の事は考え付かなかっただろう。
 あと、干渉力に関しては多少ユノから聞いていたのもある。

「ま、まぁいいわ。どちらにせよ、あんな魔力切れ寸前の駄ドラゴンが外に出たところで、役に立ちそうにないわね」
「さぁ、本当に役に立つかどうかは、わからないけどね」

 確かにエルサは俺が魔力弾を放つ時、破壊神からの衝撃を防ぐため、結界に残った魔力を注いでいた。
 魔力枯渇とまではいわないけど、もうほとんど魔力は残っていなかっただろう。
 けど、俺が二度目の魔力弾を溜めている時、エルサに流れる魔力を感じたから……多少は回復しているはずだ。
 まぁ、そのおかげで、魔力弾に溜める魔力の凝縮が少しだけ遅れたりもしたんだけどね……凝縮した魔力を端から吸収していくのは止めて欲しかった。

 ……何をやろうとしているのかバレるので、エルサに注意もできなかったし、注意して止まる事なのかもわからなかったけど。
 どれだけエルサの魔力が回復しているのかはわからないけど、多少なりとも魔物を蹴散らすくらいはできるだろうと思う。

「エルサの活躍に期待しているけど、それはともかく……俺もここから脱出しないとね」
「……リクも、かなり魔力が減っているはずよ。それに、もう同じ事はさせないわ。空間にこれ以上穴を開ける事はできないわ」
「まぁ、確かに。でも、君を倒すというか、なんとかすれば出られるでしょ?」

 衝撃の方はわからないけど、閃光を使わなければ、俺の魔力弾に吸収される事はないし、壁に穴を開ける事はほぼ不可能なんだろう。
 だからこそ、破壊神の言葉なんだけど……穴を開けなくたって、どうにかする方法はある――。


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