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逼迫する状況

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 お腹が空いたからと騒ぐエルサのために、とりあえず簡単な物を宿の人に用意してもらって、手早く食べながら周辺の状況を確認。
 その中で、戻ってきた翌日に起こされたと思っていた俺が実は、翌々日の朝だったと教えられる。
 確かに、マリーさんやマックスさん、モニカさんも二日や三日くらいなら大丈夫とは言われていたけど……寝た時は日が傾いて夕方に近かったはずだから、一日半くらいだろうけど。

「エルサちゃんの空腹もそうだけど、そろそろさすがに不味い状況になって来ているみたい」
「不味い状況?」
「父さん達に会ったのなら、少しは状況を聞いていると思うけど……ずっと魔物に囲まれ続けて、こちらの人数は減るばかりで疲労も蓄積。しかも、昨夜から朝にかけていつの間にか今まで以上に魔物が増えているように見えたの」
「魔物が増える? そういえば、倒してもほとんど減っていないような事を、マックスさん達が言っていたっけ」
「手薄だったのもあって、西側は初期の状態でなんとか切り開いて殲滅したのだけどね……」

 モニカさんが言うには、西側を切り開いて以降、東側と南側と北側の魔物の数はほとんど減っていないのだとか。
 細かい数を数えたわけではないけど、群れを成している大きさが変わらないらしい。
 もちろん、魔物は絶えず向かって来るので、兵士さん達や冒険者さん、ヘルサルからの支援部隊と協力して倒しているのは間違いない。
 かなりの数を倒しても倒しても減らない……そりゃ疲れるし士気も下がるってもんだ。

 一応、俺より一足早くエルサが戻ってきた時、東門を壊すというアクシデントもありながら、相当数の魔物を倒したはずなんだけど、それも徐々に元に戻ってと。
 マックスさん達が言っていたように、俺が戻ってきた報せで士気は大分戻ったらしいけど、それでもやっぱり疲労の蓄積と数が減らない状況でどうにもできないどころか、危険な状況になって来ていると。
 ワイバーンが後方で魔物達を運ぶのも一因らしいけど……減らない相手とひたすら戦い続けるのは、精神的にかなり辛いと思う。
 しかも、こちらが弱って来ているためか、魔物を倒す数が減ったせいなのか、西側にもまたちらほら魔物が来ているらしい。

「このままじゃ、取り返しのつかない状況になるかもって。だから、街に侵入を許す前にリクさんを起こす事になったの。ごめんね、ゆっくり休む時間をあげられなくて……」

 状況を話しながら、悔しそうに俯くモニカさん。
 本当はもっと早く起こしても良かったんだけど、それでも一日くらい余計に休ませてもらったんだ、モニカさんが謝る事じゃない。

「十分に休ませてもらったよ。こんな状況でゆっくり休むより、全部終わらせてからゆっくり休む方がいいからね。むしろ起こしてくれてありがとう」

 起きたら壊滅に近い状況になっていた……なんてごめんだからね。
 いや、さすがにそうなる前には起きると思うけど。
 以前はぶっ倒れて気付いたら一週間や三日以上経っていたって事があったから、あまり自信はもてないけど。

「とにかく、ある程度の状況はわかったよ。えっと、シュットラウルさんは……」
「侯爵様なら、庁舎に詰めていらっしゃるわ。この宿にも戻って来ていないみたい。今はあそこが、この街を防衛する要の場所になっているから」

 さすがに、シュットラウルさんが前線に出ていないだろうと思った想像通り、庁舎で全体の指揮をしているようだ。
 それなら、魔物をどうにかする前に庁舎に行って話をしておかないとね。
 頼みたい事もあるし

「わかった。とにかく急いで庁舎に行こう」
「えぇ、わかったわ」
「ちょ、ちょっとまふのだふぁー!」

 一分一秒を争う事態、という程ではないにしろあまり悠長にはしていられない。
 モニカさんに言って、シュットラウルさんのいる庁舎に向かう……まだキューを食べ続けていたエルサは、口にキューを突っ込んだまま慌てて俺の頭にくっ付いた。
 食べるのはいいけど、慌ててのどに詰まらせないようになー。


「失礼します。シュットラウルさん」
「おぉ、リク殿。目が覚めたか。ゆっくり……はあまり休ませてはやれなかったようだが。モニカ殿、助かった」
「いえ、それなりに休めたから大丈夫です」

 庁舎の中に入り、忙しなく行き交う人達とすれ違いながら、シュットラウルさんが詰めているという部屋に、声を掛けながら入る。
 入ってきた俺を迎えてくれたシュットラウルさんの他に、執事さんと兵士さんがいたから何か話し合っていたのかもしれない。
 皆、顔には疲れがはっきりと見て取れるから、あまり寝てないのかもしれない。
 モニカさんと同様、途中で起こした事を謝られたけど、非常事態なのに一日以上寝させてもらったんだから十分だ……というより、この状況で休ませてもらったこちらの方が申し訳ないくらいだ。

 シュットラウルさんのいた部屋は、以前初対面の挨拶をした時とは違い、一階にある大きな会議室のような場所だった。
 あの部屋だと、大人数で会議するにも不向きだし、指揮をするにも一階の方が便利だからだろうね。

「すみません、早速なんですけど……クォンツァイタは余っていますか?」
「クォンツァイタ? うむ、まぁ王都より輸送された物がまだ残っているな。数は……それなりにあったはずだ」
「リクさん、クォンツァイタなんてどうするの? 結界をどこかに張るとか?」

 早速とばかりに本題に入る。
 まずはクォンツァイタの確認……王都からはかなりの量を輸送されて来ていたと思ったら、その通りで結構残っているようだ。
 シュットラウルさんもモニカさんも、俺がなぜ今クォンツァイタの事を聞くのか、不思議顔だけど。

「結界じゃないんだよ、モニカさん」
「魔力溜まり対策なのだわ」
「……魔力溜まり?」

 エルサは俺と一緒に、破壊神と話していたからすぐに理由がわかったようだ。

「もしかして……魔物の死骸って?」
「多分、モニカさんが考えている通りだよ。――南側で度々発見されていた魔物の死骸は、魔力溜まりを発生させるためらしいんです。魔力溜まりは、多くの魔力が空気中に残る事で発生するので」

 モニカさんはヘルサルで発生した魔力溜まりや、そうなった状況を知っているから、その考えが出て来たんだろう。
 あちらは今農園になっているけど、大量のゴブリンや俺の魔法から魔力溜まりになったからね。

「死骸からの魔力を……という事か?」
「はい」
「しかし、そのような事をどこで……いや、今は詳しく聞いている場合ではないか。リク殿の言葉を信じよう。――至急、保管してあるクォンツァイタを集めて運べるように手配しろ!」
「はっ!」
「でも、魔力溜まりが向こうの狙いだとして……クォンツァイタが対策になるの? そもそも、魔力溜まりを発生させる理由は……?」

 詳しい事情を聞かなくても、すぐにその場にいた兵士さんに指示を出してくれるシュットラウルさん、ありがたい。
 兵士さんが急いで退室するのを見送って、モニカさんから聞かれた――。


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