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四大元素のスピリット

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「今すぐ門を閉じるように言うんですか? それなら私に任せて下さい!」
「今度はリネルトさん?」
「リク様。エルサ様……は難しいかもしれませんが、少々耳を塞いでおいた方がよいかと」
「あ、はい……」
「私は結界で塞いでおくのだわ」

 様子を見てくれたアマリーラさんに代わり、今度はリネルトさん。
 何をするのかと思ったけど、耳を塞いで……と言われてピンときた。
 魔法を拡声器のように使って、声を向こうに届けようって事だろう。
 エルサは結界を使って耳を塞げば問題ないし、俺もすぐに手を耳に当てて大きな声に備えた。

『シュットラウス様配下、リネルトよりリク様からの伝令を伝えます! 今すぐ門を閉じなさい! 今すぐ門を閉じなさい! 魔物の街への侵入を防ぎなさい! リク様が、外にいる全ての魔物を蹂躙する事を約束してくれています!』

 耳に当てた手の隙間から、聞こえるリネルトさんの声。
 名乗ってから、ちゃんと門を閉じるよう伝えるのはいいんだけど……。

「いや、蹂躙をするつもりはありませんよ?」

 殲滅するだけで……いや、向こうに何もさせずに殲滅をするのなら、それは蹂躙と言うのでは? なんて考えも頭に浮かぶ。

「リク様、リネルトの声が向こう届いたようです」
「……みたいですね」

 トントンと俺の方を叩いて、耳を塞ぐ必要がなくなった事を教えてくれるアマリーラさん。
 手で示された門の方を見てみると、確かに閉じ始めているので動いてくれたようだ……まぁ、向こうからは空を飛んでいるエルサが見えるだろうから、疑われる事もないだろう。

「はぁ、大きな声を出すと疲れますねぇ」
「魔法で拡大させただけなのだから、そう疲れるものでもないだろうに」
「もういいのだわ?」
「あぁエルサ、もう結界を解いて大丈夫みたいだぞ」

 溜め息を吐くリネルトさんと、同じく嘆息しながら言うアマリーラさん。
 結界を張って、何も聞こえないはずのエルサがこちらを窺っていたので、背中をトントンと軽く叩いてもう大丈夫だと伝えた。

「さて、それじゃさっさと魔物達をどうにかした方がいいだろうから、門が閉まりきるまでに準備しておこうか」
「準備、ですか?」
「結局リクはどうするのだわ?」

 門が閉じ始めたといっても、大きいから数秒で完全に閉じるなんて事はない。
 上から閉じるタイプなら早くて、今回のような状況への対応はやりやすいけど、あれは開ける時が重くて難しいらしい。
 ともあれ、徐々に閉じて行く門を見ながら今のうちに魔物を殲滅させるための準備を始める。
 アマリーラさんもエルサも、俺が何をするのか疑問に感じているようだ、リネルトさんも声には出さないけど、興味はあるのか耳がピクピク動いている。

「まぁ、エルサはよく知っているけど……魔物を殲滅するとしても、加減が難しいから。俺が直接魔法でなんとかしようとすると、センテの門や外壁に影響が出そうだし」
「リクは微調整が効かないのだわ」

 門や外壁が少し欠けるくらい、とかならまぁ、魔物を大量に倒しているから許容範囲ではあるだろうけど。
 ただ、外壁の上で中に入ろうと群がる魔物の対処をしている人達には、少なくない影響がありそうだからね。

「だから、俺は代わりに魔物を殲滅してくれる人……じゃないな。存在を呼び出すだけだよ」

 正直なところ、破壊神に使った圧縮した魔力弾を使えば、殲滅自体はそこまで難しくない。
 そのために使う魔力や、勢い余って地面が穴だらけになるとかを除けばだけど……あれは多分、炸裂などはしないけど、貫通力はかなりあると思っている。
 門の近くにいる魔物に対して撃ったら、魔物を貫通してさらに門や外壁を貫通しそうなくらい。
 だから、魔力は俺のを使うにしても、俺の代わりに加減をしてくれてちゃんと魔物を倒してくれる存在が必要なんだ。

「フレイムスピリット……確か、フレイちゃんだったのだわ。それを呼ぶのだわ?」
「フ、フレイムスピリット、ですか……呼び出すと言いましたが、それは一体どういう……?」
「さすがエルサ、ずっと一緒にいるだけあってわかっているね」
「あれなら確かに、加減ができるのだわー。上手に焼けるのだわー」
「まぁそうなんだけど、ちょっと違うよエルサ。――とりあえずやってみますから、見てて下さいアマリーラさん」
「は、はぁ……」

 納得するエルサと、よくわかていないアマリーラさん。
 まぁ、アマリーラさん達はフレイちゃんと会った事がないから、わかんなくても無理はない。
 というかフレイちゃんって、フレイムスピリット……つまり火の精霊って事だけど、フレイちゃんしかいないのだろうか?

 何度か来てもらったけどフレイちゃんしか出て来なかったし、全にして個とかそういう……? まぁ懐いてくれているようだから、そこを追及して考えなくてもいいか。
 ……多分、俺には理解できないだろうし。

「それじゃ……フレイちゃん……フレイムスピリット! 続いて、ウォータースピリット、ウィンドスピリット、アーススピリット!」
「四つ……なのだわ?」

 フレイちゃんを呼び出す時のイメージを参考に、水、風、土の精霊を呼び出すのを試みる。
 四大元素、火の精霊がいるのなら、水や土、風もあるだろうと考えての事だけど……順調に俺の中から魔力が変換されて消費されて行っているから、成功しているのを確信。

「リ、リク様の周辺で、様々な色の魔力が……これがリク様の魔法、ですか」
「凄いですねぇ、可視化された魔力が見られるだけでも感動ものなのに、それが別の色になって……って事は、数種類の魔法を同時に使っているって事ですかぁ。よくわかんないですけど、とにかくすごいですねぇ」

 俺から放出される、可視化された魔力が周辺に漂い、集まる。
 アマリーラさんはあんぐりと口を開け、リネルトさんはとにかくすごいと感心してくれているようだ。
 そうして、フレイムスピリットの赤色の魔力、ウォータースピリットの青色の魔力、ウィンドスピリットの緑色の魔力、アーススピリットの茶色の魔力。
 それぞれが距離を離して、それぞれに固まって形を成していく。

「チチ、チチー!!」
「リ、リク様!?」
「大丈夫ですよ、アマリーラさん。――フレイちゃん久しぶり。えっと、他は……」

 燃え盛る炎が人の上半身になったフレイちゃんが、相変わらず中性的で男女の区別がつかない顔を喜色満面に染めて、俺に飛び込んで来る。
 炎が俺にと思って驚いたんだろう、アマリーラさんが腰を上げそうになっているのを声と手で止めて、フレイちゃんに挨拶。
 フレイちゃん、以前よりも表情豊かというか存在そのものがはっきりしているような? それでもやっぱり、性別がわからないけど。

 少し前のアマリーラさんを思い出したけど、フレイちゃんに重量はなく、結構な勢いだったのに柔らかく振れた感触があるのみだ……もちろん、炎が激しく燃えているけど熱くはない。
 顔を巡らせて、周囲で形を成した他のスピリット……精霊さんの様子を窺う。
 それぞれ、少し離れた場所で人の形になっているのを見つけた。
 さすがにフレイちゃんみたく、抱き着いて来る事はなかった――。


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