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ワイバーンの有用性
しおりを挟む「人間を襲わないって、本当? もし襲ったりしたら……」
『ニンゲン、ノ、メイレイ、シタガウ。コレ、イシツナマリョクニキザマレタ、コト、ジャナイ。ホンノウ、ソンザイイギ、ソシテイシ、デスマス』
研究によって強制的に従うのではなく、ボスワイバーンとしての考えで、俺に従うって事か。
ちなみにと聞いてみると、懐かしい匂いだとかの感覚はボスワイバーンにしか感じられないらしく、小さく生えた角から感じたらしい……匂いを感じるの、それ?
というか本当に、通信機能を強化する角だったのかな?
鳴き声などが他のワイバーンとは違ったりと、ワイバーンを統率できるようになっているとか……本当に指揮官機っぽい。
あと、再生能力は他のワイバーンと同じく強化されているらしいけど、それなりに魔法も使える能力を残しているみたいで、能力としてもボスワイバーンは特殊だ。
これを、帝国の組織は狙ってやった事なのか、偶然の産物なのかはわからない……けど、なんとなく悪巧みしていた相手の成果を、逆に利用してやるというのもよさそうな気がした。
あんまり考え方や性格としては良くないかもしれないけど。
でもまぁ、某変身ライダーも、悪の組織が自分達のために改造したのに、逆に正義の味方として悪の組織に敵対したわけだからね。
あと、他のワイバーン達はボスワイバーン程俺に従う、という意思を持っていないようだけど、ボスワイバーンに統率されているから、基本的に逆らう事はないらしい。
空の覇者としてエルサを怖がっているうえ、俺にも恐怖を植え付けられていると、反抗の意思は一切ないとか。
まぁ、俺とボスワイバーンが話している間に、半分以上が地面で丸まってスヤスヤと寝始めたのを見ると、反抗しようなんて考えていないのはわかるけど。
……核から復元する時、色々いじったせいで本来ワイバーンが持つ、獰猛な性格を失くしてしまったのかもしれない?
「連れて行くのだわ?」
「悩んではいるけど……こうして、敵意なく言われちゃうとね……」
「悩んでいるなんて、リクはもう決めているのだわ。これまでも、リクは来るもの拒まずだったのだわ」
「確かに拒む事はほとんどなかったと思うけど……断る理由がなかったからね。でも今回は」
エルサはもう俺が決めているような口ぶりだけど、実際は迷っている。
いや、気持ちとしては連れて行きたいと思っているから、エルサの方が正しいのかもしれないけど。
ワイバーンか……ここにいるのは十体ちょっと、人間を襲わないと約束してくれているから、それが守られるのであれば大きな問題はなさそうだけど。
でも、ワイバーンをこちら側というか、他の人達が受け入れてくれるかどうかだ。
シュットラウルさんとかは、戦力になるのなら受け入れてくれそうではあるけど……実際に、センテが魔物に囲まれて……いや、センテに限らず魔物によって被害を被った人からすれば、襲われなくても魔物は魔物。
偉ぶるつもりはないけれど、英雄ともてはやされているのもあって近しい人やある程度の人は、俺が話せば受け入れてくれるかもしれない。
けどなぁ……全員が諸手を上げて受け入れてくれるとは限らない。
でも、一部とはいえワイバーンが味方になってくれるなら、それはそれで間違いなく戦力になる。
「うーん……あ、そうだ。ボスワイバーンもそうだけど、他のワイバーンも人を乗せて飛ぶのは大丈夫?」
『ソレガ、メイレイデアレバ、ノセル。イシニハンシテ、イタトハイエ、ホカノマモノヲナンドモ、ノセテイル、カラ、デスマス』
「そうかぁ……そうすると、用途が広がるんだよねぇ」
アテトリア王国は戦争を控えている。
今回の事もそうだし、帝国側がやる気なのはもちろんの事……ここまでされて、何も起こらないなんて事はあり得ない。
数は少ないけど、ワイバーンであれば空を飛んで後方から物資や人を運ぶ事ができる、それこそ今回の魔物のように。
帝国側も同じ事をする可能性は高いけど、こちらがしちゃいけない理由はないし、当然陸路で人や物を運ぶよりもある程度迅速な行動ができる。
ワイバーンの数を考えれば、少数精鋭を運ぶとか、物資運搬に集中する事になるかもしれないけど。
それでも、移動が馬に頼るばかりよりはよっぽどいい。
場合によっては、空からの攻撃だってできるし再生能力があれば、簡単にはやられない……ボスワイバーン以外魔法が使えないから攻撃力はともかくとしてね。
……まぁ、それは帝国も一緒か。
「……考えれば考える程、ワイバーンを味方に引き入れた方がこの先楽になる気がするんだよね」
「リクは細かい事を考え過ぎなのだわ。やってみて、後は何かあれば対処するくらいの心構えで良いのだわ」
「それは、エルサが暢気な性格をしているからじゃないかな」
俺も、結構暢気な性格な方だと自覚している部分もあるけど……エルサ程じゃない、多分。
「エルサは、ワイバーン達を連れて行くのに賛成なのか?」
「我が物顔で、空を飛ばれたら目障りだけどだわ。でも、従うのなら気にしないのだわ」
エルサが好きな空を飛ぶのを、邪魔をしないのなら気にしないってところか。
確かにまぁ、ここであれこれ考えていても正しい答えなんて出て来ないか。
考える事が無駄とは言わないけど、迷っているなら誰かと相談して決めればいいかな……エルサに細かいと言われたから、とかじゃないぞ。
でも、これだけは絶対だけど。
「……よし! 何かあれば俺が責任を取る。ワイバーン達を俺は受け入れる」
『オォ、カンシャイタシマスデス、ナツカシイニオイノスルニンゲン』
なんとなく、通訳された言葉ではない吠える声の方や、雰囲気、表情が喜んでいるように見える。
いや、俺にトカゲと似た顔の表情などを見分ける事はできないから、そんな気がするだけだけど。
「人間、じゃなくてリクでいいよ」
『リク』
「うん、それで」
従うと言っていたから、様を付けて呼ばれるかと思ったけど違った。
魔物のワイバーンにとって、敬称を付ける概念がないのかもしれない。
「ただし……絶対服従とか、そういう抑えつけるような事はしないけど……でも、もし人間を襲ったりしたら……」
そう言いつつ、腰に下げている剣の柄を握り、少しだけ鞘から抜いて刃を見せる。
責任を取ると決めた以上、もしもの事は考えておかないといけない。
状況は考慮するつもりだけど、もし何も罪もない人間を襲ったりすればその時は、俺が討伐する。
それが俺の責任の取り方でもある。
もちろん、迷惑を掛けたり被害を受けた人には、誠心誠意謝るけど……謝って済む問題に収まってくれるといいなぁ。
『モ、モチロン、ニンゲンハオソワナイ! リクノ、シジニシタガウ! ホカノヤツラニモ、テッテイ、サセル、デス!』
「うん、それならいいんだ」
とはいえ、もし戦争で活用するのなら、帝国の人を襲わせないといけなくなる可能性もあるし、何もしていないワイバーンを攻撃して来る人間に対しては、無力化するという意味で反撃を許可しようとも思う。
……人間を襲うなって言ったり、部分的にとはいえ許可しようと考えていたり、自分でも矛盾している気もするけど。
細かい事を考え過ぎとエルサから言われたように、考え過ぎたらいけないのかもしれない。
臨機応変にやって行こう――。
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