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人間になった理由

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「でも結局、リクは興味を持ったけどだわ。本当に冒険者になったのは、私との契約があったからだわ。別にリクは、完全に誘導されたわけじゃないのだわ」
「まぁ、そうね。誘導しきれなかったのは私の落ち度よ。でも、そのおかげで面白くて大きな破壊が生まれたわ」

 確かに興味のきっかけはロジーナとの話だったかもしれないけど、実際に冒険者になる決意をしたのは、エルサと契約してマックスさんに言われたからと言うのが大きいか。
 エルサに言われて、破壊神の手の上で踊っていただけじゃないと思い、少しだけ楽になった。
 なんでもかんでも、誘導されて操られていたってわけじゃない。

「……エルサと契約しなかったら、ゴブリン達からヘルサルを防衛する時、あんな事はできなかったね」

 ドラゴンの魔法という、イメージを魔法として具現化させる方法があり、そのうえで俺の異常らしい魔力があったからこそ、あんな事ができたんだ。
 もしあの時、エルサとの契約がなかったと考えたら……。

「リクだけが生き残って、街と魔物が全滅……が理想だったのよね。そこも誤算と言えば誤算だわ」

 つまり、誘導されつつもユノの干渉でエルサと契約して、魔物だけを殲滅して人間の被害がほとんどなかったって事。
 目の前で、やれやれと肩を竦ませる破壊神の望む通りではなかったんだろう。

「俺を戦うように仕向けて、ゴブリン達をラクトスへ差し向けたのも、お前なのか?」
「リクに関してはともかく、ゴブリンは私が関与していないわ。まぁもっとも、そうなるような流れというか、方法を使えるようにしたのは、私だけれどね」

 ロジーナとして、俺が冒険者になって戦うように仕向けた破壊神……きっかけは他にもあったけど、そこまでは計画通りといったところだったんだろう。
 ただ、ゴブリンに関してはクラウリアさんが言っていたように、帝国と関連した組織がやった事。
 そのための技術……魔物の核から復元するとか、指示を聞かせるといった部分は破壊神からの助言みたいなものを参考にしているらしい、と隔離された時に言っていたっけ。
 だから、遠因にはなっても直接仕組んだわけじゃないと……まぁ、破壊神の思い描く結界にはならなかったようだから、そこを今追及する必要はないかな。

「それで、そうして破壊させようとし組むお前が……なんでここで魔物と戦っているんだ?」

 もう過ぎてしまった事だし、ラクトスでの人的な被害はなかったから、置いておくとして……大事なのはどうして破壊神がここにいるのかという事。
 どうして人間を守ろうとしているのかという事だ。
 ……厳しく追及しようと考えても、見た目がユノより小さい女の子のロジーナなので、ちょっとやりにくいけど。

「そこが私にとって、最大の誤算だったのよ。まぁ、詳しくは言わないけど……私もユノと同じ、神としての姿を保てなくなった、と考えればいいわ。まったく、リクと関わるとろくな事がないわ」
「俺に関わってきたのは、そっちからだろうに……つまり、今は人間としてしか動けないって事か」

 望んで破壊神に関わりたいとは思わないし、こちらから関わりに行ったわけじゃないのにな。
 隔離された時なんて、そっちからわざわざ仕掛けてきたんだろうに……。
 これを言っても、破壊神は堪えないだろうけど。

「そういう事。だから慌てて、こうして人間達の味方になって動いているってわけ」
「人間になったから、人間の味方をするのか?」
「別に、そんなわけないじゃない。ただ、人間でいる以上、こうした方がいいってだけ。細かな理由や、それ以外にもあるけど……そこはリクが今考えない方がいいわ」

 すっごく嫌そうな表情で答える破壊神。
 人間の体だから、人間側についていた方が動きやすいって事か。
 魔物側についても、がわは人間なので魔物達からは襲われてしまうだろうし、そうしていたら人間から見ても魔物の味方をする異端者として排除されかねない。
 それが破壊神にとって、忸怩(じくじ)たる思いの事だったとしても……。

「ちょっと待って。ならどうして人間の姿なんだ? それ以外になれないってわけじゃないと思うんだけど……それこそ、別の種族だって……」

 人間を作ったのは創造神のユノだけど、破壊神が人間にならなきゃいけないってわけじゃないはずだ。
 魔物を作った破壊神なら、魔物の方が良さそうだ……それこそ、知性ある強力な魔物にだってなれるはずだ。
 必ずしも、人間にならなきゃいけない決まりがあるなら別だけど……そういうわけじゃなさそうだ。
 わざわざ人間になる理由がわからない。

「私だって、なれるなら他の種族が良かったわよ。それこそ、人間を蹂躙できるような魔物になれば、人間と協力なんてしなくて良かったわ。けど、急いでいたから今のこの器しか用意できなかったの。そもそもこの世界に降りて来て干渉する事なんて、リクに対してしかなかったから」
「つまり、他の器を用意する暇がなかったから?」
「そうよ! あんたが私の創った空間をめちゃくちゃにしたから! だから、こうして慌てて人間の器に入らなくちゃいけなくなったのよ!」
「いや……そこも俺のせいにされても……俺だって、ここに戻ってくるために必死だったし」

 以前俺に干渉するために、人間としてのロジーナを作っていただけで、他は何もなかった。
 だから、咄嗟に他の器が用意できずに、今目の前にいる姿になっているって事なんだろう。
 ただ、俺のせいにされても……さすがに困る。

「あの空間は、神の御所を真似ていたから私が干渉力を使っても、通常より少ない力で済むようになっているのよ! それを……そこの駄ドラゴンを脱出させるためにリクが穴を開けたせいで、その効果はなくなったの!」
「誰が駄ドラゴンなのだわ、この駄神!」
「うるさいわね! 今リクと話しているのだから黙っていなさい、駄ドラゴン!」

 感情的になったのか、エルサと言い合う破壊神にこれまでのような余裕はない。
 今までは、エルサと子供のような言い合いをしていても、わざとやっているような雰囲気があったんだけど……。
 ちなみにエルサは、今回もこれまでも余裕なんてものは一切ない。

「……話が進まないから、少し落ち着いて、エルサも破壊し……ロジーナも。それじゃ、エルサが脱出した後って……?」
「そうよ、私の干渉力がどんどん減って行ったわ。そしてなによりも、あんたの魔力よ! なんなのあれは!」

 いや、なんなのと言われましても……俺自身、自分の魔力量に驚いているというか、なんでこうなっているんだろう? と首を傾げる事だってあるのに。

「私の力も吸収して……だから、こちらに引っ張られたの。干渉力がほとんど尽きた私は抵抗できずに、この世界に引っ張り込まれたわ! なんなの、私をお持ち帰りするつもりだったの!?」
「人聞きの悪い事を!?」

 叫ぶロジーナの声に、数人の兵士さん達が俺達を窺っているのが見えた。
 そんな、幼いと言って差支えが全くない女の子をお持ち帰りとか、人聞きが悪すぎる!
 俺は確かに子供や小さい子は可愛いと思うけど、ただそれだけで何かの対象になったりはしないから!
 それこそ、俺としてはもっとこう……ん? なんで今モニカさんが頭に浮かんだんだろう?

 よくわらないけど、おかげで少し冷静になれた。
 頭の中には恥ずかしさも広がっていたけど、それは表に出さないように……。


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