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夢のような何かと聞こえる声
しおりを挟む「はぁ……だわ」
エルサの溜め息を聞きながら、撫でれば撫でる程に夢中になってしまうモフモフを感じ、目を閉じた。
うんうん、やっぱりこの極上のモフモフは、安眠には欠かせないよね……。
「……だわ」
「エルサの方も、俺にくっ付いて来ているんじゃないか?」
「うるさいのだわ。さっさと寝るのだわ」
「へいへい」
撫でる手を止めない俺に、さらにモフモフをくっつけるように身を寄せるエルサ。
片目を開けて聞いてみると、エルサはプイッと顔を逸らした。
お互い、相棒になってそれなりに一緒にいるし……結局こうしているのが一番寝心地がいいんだろうね――。
ここ最近、寝ている時に見ているのをはっきりと知覚するようになった夢。
いや、夢のような何か……いつも、俺自身の意識があって起きたら忘れるし、また寝ると思い出すを繰り返していて、本当に夢なのかも怪しい。
いつもと変わらず、目の前を黒い人の影野ような物が現れては消えていくを繰り返していたため、またか……とぼんやり眺めていた。
何かしようとしても体は動かないし、別の事を考えても一切目の前の景色は変わらない。
ずっと同じ事を繰り返していると、もう何も考えずにただ目の前の光景を眺めるだけになるよね。
そんな時だった……一瞬だけ、周辺の何もないはずの景色にノイズのような、何か異物は入り込んだような、ズレが生じた。
「――!」
「――!――!!」
「ん?」
誰かに呼ばれているような、何かを叫ばれているような感覚。
目の前で、人の影が現れては消えるの繰り返しは変わらない……不思議に思って、首を傾げようとしたけど、体は一切動かない……それどころか、今自分に体があるのかさえわからない。
けど、声が出た。
間違いなく、俺自身の声だ。
「あれ、声って出せたんだ……」
もう一度、呟いてみると確かに自分の声。
体が動かせなかったから、声も出せないかと思っていたのに……というか、何故かはわからないけど、声を出そうとする気にならなかったのもある。
「――!」
「うーん、なんだろう?」
俺以外の声、それは俺に呼びかけているかのような声に思えた。
でも、何を言っているのかわからない……。
「おーい! 誰かわからないけど、もう少しはっきり言ってくれないと、何を言っているのかわからないよ!」
口に手を当てて、大きく叫ぶイメージで声を出す。
ただ、体は動かなくて自分の体があるのかすらわからないし見えないので、ただのイメージだけど。
でも声は、思ったよりも大きく出た気がする。
「――!!――!」
「っ!――!!」
「なんだか、少し喜んでいる? 俺に聞こえているってわかったからかな?」
声に、感情がこもったのがわかった。
何を言っているのか、相変わらずわからないけど……なんとなく喜んでいるように聞こえる。
その後も、周囲の光景が変わる事なく、ずっと目の前では人の影のような何かが、俺ではない何かに訴えかけるような仕草をしては消えを繰り返す。
その中で声っぽい音は聞こえていたんだけど、何を言っているかわからず、聞き返すを繰り返した。
「あ、これ……もうすぐ起きる」
ふと、周囲の景色が薄れていくのがわかる。
いつもの、この夢みたいな何かが終わる合図だ……寝ている俺が、起きるからだろう。
大体はこの後何事もなかったかのように起きて、今見ている光景の事はすっかり忘れて、疑問に思う事もなく、いつもの生活に戻って行くんだけど。
でも、今回は少しだけ違った……。
「薄れた! 今だ!!」
「マス……お願……!!」
「俺達を……!!」
「チチー!!」
「この声……聞き覚えが……って、フレイちゃん!?」
何かが入り込んでくる気配。
それと主に、今までよく聞き取れなかった声が、断片的に聞こえて来る。
数人の声だ……一人ではない何かの声が、俺の耳……耳はあるのか? ともかく、耳に届いた。
次の瞬間、目の前に現れた赤い影……いや、見覚えのある炎……そして、その炎が形作る人。
それがフレイムスピリット、フレイちゃんだと認識し、驚き叫んだ瞬間、俺は一気に意識を引き上げられた……!
「っ! え……?」
「だわぁ……? リク、起きたのだわ?」
「あ、うん。おはよう、エルサ」
目を開け、体を起こす。
意識が覚醒した勢いのままで、上半身を起こした俺にエルサが目を覚ましたようだ。
寝ている間に俺の体の上に乗っていたのか、体を起こした拍子に横へ仰向けで転がっている。
「何か、大切な事があったような……?」
「どうしたのだわぁ?」
「……いや、なんでもないよ」
起きる直前、何かがあったような気がするけど……思い出せない。
変な夢を見ていたような……?
呟く俺に、仰向けのまま顔だけ上げてこちらを見るエルサに、首を振る。
とりあえず、エルサを抱き上げてベッドから降りつつ、頭の中で考えて見るけどよくわからないな。
「んく……はぁ。んー、変な感じはないから、気にする必要はないかな?」
部屋に用意されている水を、俺とエルサの分をカップに注いで一気に飲み干す。
テーブルにちょこんと座ったエルサも、両手でカップを持ってコクコクと飲み始めた。
「ん……だわぁ! やっぱり起き抜けの水は美味しいのだわぁ。けど、キューの方が美味しいのだわ」
「相変わらず、キューが好きだなエルサは。でもさすがに、起きてすぐキューを食べるのはどうかと思うぞ?」
「キューはいつでも食べられる万能食なのだわ。寝ながら……寝ていても食べられるのだわ!」
キューは水分量が多くてあっさりしているから、起きたばかりでも食べられなくはないと思うけど……そこは水でいいと思う。
エルサの場合、本当に寝ながらでも食べそうだけど、ベッドを汚しそうだから食べさせないようにしよう。
そんな風に考えながら、朝の支度をしてエルサと一緒に部屋を出た……なんだか変な夢のような何かを見たような……いや、聞いたような?
よくわからないけど、以前は時々見ていた悪夢とは違って寝覚めが悪かったりはしなかったから、特に気にしない事にした。
もしかすると、寝ている間にエルサが俺の上に乗っていたから、変な夢を見ていたとかかもしれないな――。
「リクさん、今日はどうするの?」
朝食後、食堂で少しゆっくりしている時に、モニカさんから聞かれる。
ソフィー達はユノ以外、王軍が参加しての掃討作戦に入ったため、早朝から東門に行ったらしい。
そっちでマックスさん達が用意している朝食を、手伝いながら食べさせてもらうとか。
もしかすると、ソフィーの目的はそっちの可能性もあるかな? 最近は獅子亭の料理、というかマックスさんの料理を食べていなかったから。
ソフィーは前から、マックスさんの料理のファンだから。
「うーん、特にやる事もないし怪我人とかもほとんどいないようだからね。今日は一旦街の様子を見たら、南門に行ってみるよ」
「南門?」
「優先順位としては低いと思うんだけど、一応見ておきたいからね。魔物を倒した後は、皆に任せっきりだし」
「そういえばそうね。まぁ、リクさんが気にする事でもない気はするけど」
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