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分の悪い賭けを考える
しおりを挟む「もう随分近付いているんですね。……いや、魔物によって移動速度は変わるから、動きの速い魔物が先に到着するか。広い範囲だから、斥候ならぬ先頭の魔物から後続が合流するだろうし……」
となると、時間稼ぎをしつつ非戦闘員の人達を避難させる? いや、最初から全力で戦うようでなければ時間すら稼げないだろう。
ある程度ワイバーンを使って人を運ぶにしても、時間が足りなさすぎる。
非戦闘員の人達、特に街に戻りかけていた避難民をもう一度避難させるのは必須として……。
「これ、絶対戦ってどうにかする道はない、かな?」
逃げられない以上、戦うしかない。
ただただ魔物に蹂躙させる事を許すわけにはいかないので、当然戦う。
「ウィンさん、フレイちゃん、ウォーさん、アーちゃん。もし、もしだけど……俺が魔力を大量に使えば、負の感情が流れ込んでも魔力に変換されて、消費できたりはしないかな?」
「それは……おそらく可能です。召喚主様は非常に多くの魔力を持っておられます。であれば、その備わっている魔力に影響されて、流れ込んだ感情は魔力になるでしょう」
「チチ、チチ!」
「でも危険ってフレイムは言いたいようだな。俺もそう思うぜ。既にご主人は、流れ込んだ負の感情に影響され始めている。いくら魔力に変換されると言っても、流れ込んだ感情全てを無視することはできねぇ」
「最悪、魔力の許容量を越えるより先に、主様が負の感情に支配されてしまいかねないわ」
「そう、できるんだね……」
スピリット達は、俺の考えを肯定してくれた。
危険性は当然あるみたいだけど……負の感情? 恨みや憎しみが流れて来るのなら、その感情を魔物にぶつければいいだけだ。
センテにいる人達を守るためなら、お世話になっている人達や仲間を守れるのなら、そんな感情に支配なんてされてやるもんか。
幸いにも、近付いている魔物たちは、膨れ上がった感情をぶつけるのにちょうどよく強力みたいだからね。
それに、流れ込んだ感情が魔力に変換されるのなら、隔離された時のように魔力不足を心配する必要もなさそうだ。
魔力の最大量も増えているし、スピリット達を呼び出したままにしていても、なんとかなるはず。
ルジナウムのような失敗は二度としない。
「リ、リク様……?」
「召喚主様……他のスピリットも言っているように、危険です」
「それは、うんわかっているよ。でも、このままじゃセンテにいる人達が全滅するだけだし、ある程度の危険は覚悟しないといけないと思うんだ。それに、流れ込むのは感情でしょ? だったら、俺自身の感情で抑えて支配なんてさせない。余計な感情は全て魔力にして魔物にぶつけようと思うんだ」
正直、できるかどうかなんてわからない。
けど、やらなきゃいけない。
そうしないと、多くの人達が犠牲になってしまうんだから。
それが、魔物に囲まれたセンテの開戦当初、参加できなかった俺の役目だと、勝手に思った。
「賭けとしちゃ、分が悪いとしか言えねぇな。肥大化した大勢の感情は、人一人の感情で抑えられるもんじゃねぇ。けど……」
途中で言葉を止めるウォーさん。
危険だと訴えて、俺のやろうとしている事を止めようとしているのかと思ったけど、これは違う。
「けど……面白いでしょ、ウォーさん?」
「あぁ、当然だ! 俺、こういうの嫌いじゃないぜ!」
「はは、そうだね!」
やっぱり、ウォーさんならこういう話に乗ってくれると思った……勘だけど。
俺としては、あまり分の悪い賭けはしたくないんだけど、この際仕方ないしどうせなら楽しんでやるくらいの気持ちでいた方がいい。
その方が、負の感情とやらに負けずにいられそうだから。
「はぁ、止めても無駄そうねこれは」
「チチ……」
「大丈夫、フレイちゃん達も頑張るんだから、俺も頑張らなきゃ」
「チ……チチー!」
溜め息をつくアーちゃん……うん、止めようとしても考えは変わらない。
そっと俺に近付いて俯き加減になったフレイちゃんが、心配そうな声を漏らす。
そんなフレイちゃんの、燃え盛る赤い髪を撫でて笑いかけた。
「え、えっと……つまり?」
「俺がなんとかします。……できる保証はありませんけど、やれるだけの事はやります」
負の感情だのなんだの、アマリーラさんにはわからない話をしていたので理解が追い付かないんだろう。
そんなアマリーラさんに、力強く頷いて見せた。
保証ができれば一番良かったんだけど……魔物を倒すだけじゃなくて、負の感情とやらの問題もあるからね。
「リ、リク様……なんと璃々しい。まるで、獣神様が顕現されたかのような……」
「いやいや、俺は人間ですから。一応、かろうじて?」
瞳を潤ませて、俺を崇めるような雰囲気を出すアマリーラさん。
自分でも最近疑い始めてはいるんだけど、まだかろうじて人間のはずだ。
人間離れなんて言葉では済まないくらい、異常な魔力量を自覚しているけどそれはそれとして。
だって、一応疲れもするしお腹も減る、夜になれば眠くもなるんだから……人間だけじゃないというツッコミも、今は受け付けない事にする。
「というわけで……まずはシュットラウルさんと話す必要があるか……」
何をするにしても、今センテ全体の指揮権を持っているシュットラウルさんとは、話をしておかないといけないだろう。
王軍を指揮するマルクスさんも同様だ。
「アマリーラさん、王軍を指揮するマルクスさんはどうしているかわかりますか?」
シュットラウルさんは、今リネルトさんの報告を聞いている最中だろうか。
いつものように、庁舎にいると思うけど……マルクスさんは、どこにいるか把握していない。
「マルクス殿でしたら、北で軍の指揮をしていたはずです。ですがおそらく、報告を聞いたらシュットラウル様と話しに行かれるかと」
「あぁ、確かにそうですね。なら、庁舎に向かうだけでいいか」
重大な事なので、すぐにシュットラウルさんと相談しに向かうか。
「なら、一応アマリーラさんの方からも誰かに、マルクスさんがいるかもしれない北側に向かわせて、もしいたら至急庁舎に向かうよう伝えて下さい」
「了解しました。もしその場にいなかった場合は、庁舎に向かったのかの確認をし、別の場所へ行っているようなら探すよう手配します」
「お願いします」
アマリーラさんに指示を飛ばすと、すぐに頷いてくれる。
さっきまで恐怖に震えていたのに、行動の方向性を示すとちゃんと受け取ってくれる……やっぱり優秀な人だ。
「それから、モニカさんやソフィー達も探して、東門に集まるように伝えて下さい。そちらはユノも一緒に。ソフィー達は東で魔物と戦っていると思いますけど、モニカさんは南門付近にいると思います。あと、魔法部隊や盾部隊を指揮していた、マックスさんとマリーさんも一緒に。他には……」
「はっ!」
モニカさん達だけでなく、マックスさんやマリーさん、元ギルドマスターやヤンさんなども集まってもらうよう、アマリーラさんにお願いする。
「……あいつがいるから近付きたくないけど、仕方ないの」
ユノは、ロジーナがいるからだろう、あまり東門には近付きたくない様子。
顔を合わせるのを嫌がっているようでもあるけど、緊急時なので渋々ながら了承してくれた。
もし俺が考えている通りに戦えるのであれば、今回ユノとロジーナ……エルサもだけど、かなり活躍してもらう予定だからね――。
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