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対ヒュドラー戦開始

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「モニカ、ソフィー、フィネ……行くわよ!!」
「えぇ!」
「はい!」
「承知しました!」

 マリーさんの号令で、武器を構えて駆けだすモニカさん達。
 真っ直ぐヒュドラーのいる方へと向かっている。
 俺も、遅れないようにしなきゃな……。

「ヒュドラーに突撃します! 周辺の魔物への牽制、抜けた魔物の対処をお願いします!!」
「はっ! リク様、ご武運をっ!!」

 石壁の向こう側にいる大隊長さんに声を掛け、返答を聞き終える前に先に駆け出したマリーさん達に向かって、走り出す……!

「リクさん、魔物の勢いを少し削ぐわ! 行って! フレイムブラスト!!」
「リク、頼んだよ! アイスニードル!!」
「ありがとう、モニカさん、マリーさん。……っ!!」

 駆けるモニカさん達に追いついて追い越す際、声を掛けられて魔法を放つモニカさんとマリーさん。
 二人の魔法は、それぞれヒュドラーの前にいる魔物へと向かう。
 さっき侯爵軍が放った矢が刺さった事で、ダメージというよりも怒りが勝っている魔物は、これまで隊列を組むように一定の距離を保って進んできていたのが、今は突出している魔物もいるから、それらの牽制だろう。
 さすがに、走りながらの魔法だし相手はキマイラなどだ……矢が深く刺さってもものともしない魔物達、倒せはしなくとも勢いを削ぐくらいはできる。

 先に放ったモニカさんの魔法、それに追従するように放たれたマリーさんの魔法。
 さらにその後ろを走って追いかける俺……数秒程でモニカさん達を引き離す。

「GUGYAA!?」
「GYAGUU!!」
「……成る程、さすがモニカさんとマリーさん!」

 先行するモニカさんの魔法……最初から狙っていたんだろう、赤く燃え盛る火の魔法は突出する魔物の足下に着弾し、炎をまき散らして爆発。
 少し前に、よく爆発する魔法や魔物を相手にしていたけど、それとは少し違って火をまき散らす魔法みたいだ。
 突出している魔物達を越え、広範囲に撒き散らされた炎は奥にいるヒュドラーにまで届いている。
 炎自体は魔物を倒す程ではないけど、火傷くらいは負わせられるからだろう、直接触れるのを嫌がって足を止める魔物達……ヒュドラーは、それに構わず進んできているけど。

 さらに次の瞬間、撒き散らされた炎を穿って進んだマリーさんの魔法……こちらは氷の針のような物が無数に魔物の足へと突き刺さる。
 ダメージ自体は矢の方が大きそうだけど、炎に続いて的確に足へと突き刺さる氷の針は、痛みによって魔物達の進行を止めてくれた。

「さすがにちょっと熱いから……結界! せやぁ!!」
「GI……!!」
「BYA……!!」

 火勢は強くないけど、それでもやっぱり熱いので遮るように足を結界で包み、止まった魔物達へと突撃して剣を振るう。
 まるはキマイラの首を右からの横薙ぎで切り落とし、次いで隣にいたオルトスの首を二つまとめて返す刀で切り落とす。
 人ならざる悲鳴を短くあげ、動かなくなる魔物……。
 そのまま剣を振るい、邪魔な魔物を斬り伏せながら向かうはヒュドラー。

 足止めされた魔物達の後ろから巨大な体躯を持つヒュドラ―は、止まった魔物すら踏み潰しながら、こちらへと進んでいる。
 魔物同士、仲間意識とかそういうのはないみたいだね……わかっていた事だけど。

「フシュルルルル……」
「グルルルル……」
「グギャーグギャー!」
「……今そっちに行くから、もう少し待ってろ! せいっ!」
「MUGYAAA!!」

 ヒュドラーから聞こえる声のような、興奮している息のような何かに対して叫びながら、別の魔物とすれ違いつつ剣を振るって胴体を二つに斬り裂く。
 羽根の生えた石の像みたいな魔物だったから、あれがガルグイユだろうか……?
 俺に向かって魔法を放とうとしていたから、阻止させてもらった。
 魔物一体一体に構わず、ただすれ違うようにすり抜けつつ剣で切り裂き、ヒュドラーへと近付く。

 ヒュドラー……複数の蛇のような長い首を持つ魔物。
 その大きさはおそらく十メートル以上……五メートルを越える巨人のキュクロップスを凌駕する、巨大な体躯からいくつもの首が生えていた。
 多分、首を真っ直ぐ伸ばしたら、二十メートル近くになるんじゃないだろうか? 見上げているとこちらの首が痛くなりそうだ。
 その首はそれぞれ、にょろにょろと蠢きながら鋭い眼光の全てが俺を見て、複数の首が騒いでいる……完全に向こうは俺を認識したね。

 首の数は九つ。
 ヒュドラーの首は個体によって違うみたいだけど……大体五つから六つである事が多いらしい。
 なのに、俺を睨むヒュドラーは九つの首か。
 斬り落としてもすぐに再生するらしいし、これは倒すのに骨が折れそうだ……。

「……ふぅ。よし、とりあえず到着。でも、これはさすがに大きいなぁ……」
「シュー、シュー……」
「フシュー……」
「ギャギー、ギャギー!」
「グギャ……!」

 ヒュドラーの前まで魔物達を斬り伏せながら通り抜け、横から迫るキマイラや、名前も知らない虎のような魔物などを斬りながら、ヒュドラーを見上げる。
 向こうもこちらを敵として認識しているためか、足を止めて睨み合う……と言っても、複数の首と顔があるからどれとにらみ合っているか俺自身もよくわかっていないけど。
 ともあれ、ヒュドラーは足を止めて俺に対して九つの首をもたげ、蠢かせながら醜悪な息のような声を漏らしている。
 他の魔物よりは、ボスワイバーンに近い声のようではあるけど、一斉に九つの首から音が聞こえるのでよく聞き取れないのも多い……まぁ、聞き取れなくてもいいのかもしれないけど。

 とりあえず、複数の首がそれぞれに独立した意識を持っていて、個性なのか声の出し方が少し違うのだけがわかるくらいかな。
 ヒュドラーに対しては、あまり重要な情報じゃないかもしれないけど。

「フシュー……フシュー……」

 興奮しているのか、一番右端にある首が荒い息を吐きつつ、口から覗く牙から涎のような液体をポタポタと垂らしている。
 ……確か、ヒュドラーは毒を持っているって聞いたけど、あれは違うか。
 黒くて、液体が落ちた地面が解けているから強力な酸になっているのかもしれない。
 触れないように気を付けないとね。

 ヒュドラーと対峙して、仕掛けるタイミングを窺う。
 そうしていると……。

「……っと。さすが、訓練された兵士さん達……なのかな?」

 ヒュドラーの周囲を避けるように、広範囲に矢や魔法が着弾。
 再び、牽制の攻撃を侯爵軍の人達が放ったんだろう。
 他の魔物が邪魔で見えないけど、地鳴りのような音も聞こえるから、エルサの担当する中央も頑張っているようだ。

「負けてられないね。よし……まずは小手調べだ……!」
「グギャ!?」

 色んな事を試している余裕はあまりないけど、油断しないよう確実にヒュドラーを仕留めるために動き出す。
 まずは、剣を横に構えてヒュドラーに対して肉薄……足に力を入れて一気に飛び上がる。
 今更だけど、ヒュドラーの十メートルはある体躯、そこから生えている首に届くくらい飛び上がれるのって人間離れしてるよね……ほんと、今更だけど。
 中央にある首が驚きの声を上げているのを聞きながら、一番右端の首目掛けて横薙ぎに……。


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