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斬る事のみを追求した魔法
しおりを挟むこちらの世界の剣と日本刀……重量も使って押し切る剣とは違い、切れ味の鋭さを追求した武器。
あくまで俺のもっている日本刀へのイメージで、耐久性だとか扱い方などには間違いがあるのかもしれないけど……今そんな事はどうでもいい。
空気を圧縮した魔法のイメージの補助として、切れ味の鋭い日本刀を採用するだけの事だから……日本刀を再現とか作り出すわけじゃないからね。
「よし、イメージは固まった! これを崩さないように維持しつつ……動くっ!」
日本刀のイメージから、空気を圧縮した鋭い刃のイメージを完成させ、いざ実践。
とはいえその場で使えるわけじゃないので、ヒュドラーを見据えて結界を解除し、動き出す。
正面からの方が狙いやすいけど、魔法とはいえ使うのは空気の刃……火炎ブレスに当たれば威力が失われる、もしくは形が変わってしまう可能性があるからね。
魔力を変換しているとはいえ、結局は空気なのだから。
それに、当たり前だけど撃つ際は俺が発動させるわけで……いきなりヒュドラーの横や後ろ、上などに発生させる事もできない。
何かに魔力を伝わせれば可能だろうけど、初めて使う魔法だから上手くいく気もしないから。
……ロジーナの時にやった結界の改良と同じく、ぶっつけ本番だからあまり不確定な要素は入れずに、できる限り失敗しそうな要素は取り除くに限る。
「フシュー!」
「ギギャギャ!」
「ふっ……結界! よし!」
繰り出されるヒュドラーのブレスや岩石などといった攻撃を避け、あるいは結界で逸らし、素早く移動して横に回り込む。
結界を使ったけどイメージはまだ保っているし、魔力も準備できている……今がチャンスだ!
「コンプレスエアソード!」
適当な言葉を、しかしイメージが固定されるような魔法名を叫び、発動。
「グギ……!?」
「フシュ……!?」
「ギ……!?」
俺の手から、ヒュドラーの首を狙った魔法が撃ち出され、一瞬のうちに六つの首を斬り落とした。
それぞれの首は、驚きの声を途中まで上げて沈黙……斬り離される。
空気だからか、不可視の刃は俺がイメージしていたよりも大きく、おそらく使用者の俺にだけは動きが見えていた。
横幅数メートル、奥行き数十センチの空気の揺らぎみたいな圧縮された刃はだけど、紙のような厚さに圧縮されている。
多分だけど、魔力圧縮されているそれはフィリーナの特別な目をもってしても、凝らさないと見えないくらいだっただろう。
その空気の刃は、ほとんど抵抗なくヒュドラーの首を一首から斬り進み、六首を斬り落としたと同時に消失した。
おそらく、刃を形作って保たせていた魔力がなくなったからだろう。
「驚いた……想像以上の切れ味だね」
圧縮する事を重視したからか、思っていたより魔力を使ってしまっている感はある……それこそ、魔力弾より。
けど、その効果は求めていた物以上だ。
何より一際堅い五首すらほとんど抵抗されずに斬り落としたのは大きい……不可視の刃でもあるため、他の首が五首を守る事すらできなかった事もかな。
「とは言っても、これだけじゃやっぱりヒュドラーを倒せないか……っと!」
「ギャギャ!」
空気の刃……エアソードとでも言おうか。
エアソードを使っている以上、体内で魔力を溜める魔力弾は使えない……正確には、同時には使えない。
イメージを魔力に伝える際に魔力弾として溜めようとしていたのが、変換されてしまうから。
さらに言うなら、エアソードを強化する事も今は難しい……イメージし直す必要があるし、既に発動して魔法名も決めたから改めてイメージしなそうとしても、そちらに引きづられてしまうだろう。
強化した魔法が使いたいなら、落ち着いてゆっくり現在のエアソードのイメージその物を崩さなくてはいけない。
新しい魔法をイメージしようにも、それも同じくエアソードのイメージに引きづられるだろう。
発動させた後の結果を確認し、考えているうちにも既に首は再生を始めている。
戦闘開始直後より、はっきりと遅くはなっているけど……それでも数十秒も猶予はない。
ほぼ剣が使えない現状で、その間に残った首を斬り落とす手段も考えないといけない……と思いながらら九首が吐き出す火炎を、距離を取って回避する。
俺を狙ったというよりも、範囲に巻き込む感じで吐き出された火炎は、他の首が再生する時間を稼ごうというものなんだろう。
独立した首が、それぞれの首のために動くのはやっぱり厄介だ……それこそ、自我みたいなものが衝突して首同士で喧嘩でもしたらやりやすいのに。
まぁ、それは俺に都合が良すぎな考えだけどね。
「……っ! エアソード!」
「グギャ!」
「ギ……ギ……!」
全ての首を一気に斬り落とす手段が見つからないまま、体感で数分が経つ。
その間も、ヒュドラーの攻撃を掻い潜って魔法を放ち、何度も何度も何度も斬り落としている。
空気の刃の魔法も、イメージの固定化と使い慣れて魔法名を短縮できるほどになっていた……けど、このままじゃ時間が経つばかりだ。
俺の心に焦りが生まれる。
苦戦すればするほど、倒すのに時間をかければかける程、俺以外の場所で皆が劣勢を強いられる可能性が高い……。
「一か八かってところかな。……どうせ、使い物にならなくなってきているんだから、最後の一撃くらいは……」
考えて、ヒュドラーを消耗させながら虎視眈々と機会を窺っていた。
エアソードを使って斬り取った首の再生は今、大体三十秒から四十秒程度かかるようになっている……正確に測る物がないから、体感だけどね。
それくらいなら、エアソード後に別の攻撃を仕掛ける事だって可能なはず。
だったら、現状使わなくなった……というより使えなくなりかけている剣の最後の一撃を加えて、一気に止めを刺そう。
そのための準備はもうできている。
「エアソードを使う前、剣で斬った時の感覚なら……多分あと一回。全力で振れば斬れるはず……」
これまで活躍してくれた剣は、手入れをしなくても鋭さを保って綺麗な剣身だったのが既に見る影もなく……ヒビこそ入っていないけど、欠けのある刃は訓練用のボロボロの剣と近い印象を受ける。
魔法具とは言っても、剣その物の刃が欠けてしまってはその鋭さは保てない。
ギリギリであと一度……ヒュドラーの首を斬れるとは思う。
その後は折れはしないまでも、もう切れ味には期待できない気がした。
「二度目はない……確実に成功させないと」
魔力に不足はなく、総量が減っている自覚はあれど魔力回復が早いおかげで、そちらの心配はない。
多重結界でヒュドラーの攻撃は防げるから、失敗しても俺が負ける事はないと思う。
けど、長期戦になってしまえば他の人達への負担が増してしまう……もしかしたら、俺以外にヒュドラーと戦っている皆が全滅なんて事も。
想像していた以上にヒュドラーは強敵だから、時間稼ぎを任せたマックスさんや、ユノ達が苦戦している可能性は高い。
時間が経てば経つ程、危険になるのは間違いないもしかしたら既に……いや、きっと大丈夫だ。
最悪の想像を仕掛けて思い直し、ヒュドラーと消耗戦にならないようにするために、今考えている倒す方法を必ず成功させると、気を引き締めた――。
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