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危機に駆け付ける者達
しおりを挟むセンテが魔物に囲まれた直後の事を少しだけ思い出す。
強力な魔物がほとんどいなかった事や、他の人達の協力があったから今ほど絶望的な状況じゃなかったけど……ヘルサルとの街道を重要視したシュットラウル様の指示で、西以外の魔物をギリギリで食い止めながら、私達のいる方へ多くの兵士を投入してくれた。
侯爵軍の人達がいたおかげで、大きな怪我や犠牲者も少なく、ヘルサル都の街道が切り開かれた。
その時と同じ……とは言わないけれど、決して私達を見捨てるような人達じゃない。
耐えていれば必ず、打って出る侯爵軍の人達が来てくれるはずだから。
リクさんのように、一人で切り開けなくても……皆で協力して状況を打開する方法はあるはずよ。
「だからもう少し、逃げるよりも戦うべきよ。母さん犠牲にするなんて選択、できるわけないじゃない!」
きっと、私の一番の理由はこれなんだと思う。
厳しい事も多い母さんだけど、私にはただ一人の母親なんだから……。
「あぁ、そうだな! お世話になりっぱなしの人を、置いてなんて逃げられるわけがない!」
「えぇ。騎士としても、誰かを犠牲にして自分がおめおめと逃げおおせるなんて、考えたくありませんから!」
「あんた達……はぁ、仕方ないね……!」
私の気持ちが伝わったのか、状況を変えられる希望を見出したのか……ソフィーやフィネさん、母さんが武器を持ち直して魔物を睨む力を強めてくれた。
そうしてさらに、ジリジリと下がりながら襲い掛かる魔物を倒し続けたわ――。
「ぜぇ……! はぁ、はぁ……!」
「くっ……はっ、はぁ……!」
「はぁ、ふぅ……さすがに、そろそろ魔力も……なくなってきたわね……!」
「限界ね……はぁ、はぁ……モニカ、動けるだけの魔力は残しておきなさい」
ソフィーとフィネさんは、もうほとんど武器を持っているのが精一杯くらいで、辛そうな呼吸をしている。
私も、それなりに槍を振りまわし、魔力も限界近くまで使っていた……それは母さんも同じね。
動けるだけの魔力……枯渇とは言わないまでも、意識を保ってまともに体を動かせるだけの魔力は必要。
今ここで、魔力を枯渇させるまで戦う必要はない、だって動けなくなった時点で魔力の残りに拘わらず魔物にやられてしまうのだから。
はぁ……どれくらいの魔物を倒しただろう……?
数体、いや少なくとも数十体は倒したとはずよ、数えてはいないけど。
私達がAランクの魔物やBランクの魔物を数多く倒せているのは、決死の覚悟と母さんの指示による連携、そして魔物達が種族入り混じっていて連携するという考えがないからだと思う。
それでも、見える魔物達の数は減っていないし、私達は消耗し続けている。
リクさんのようにいかないのはわかっていた。
けど、それでも母さんを犠牲にするなんてできなかったから……少数を犠牲にしてでも多数を生き残らせる、というのが正しい判断なのだというのはわかるわ。
それは上に立つ者の思考だと、以前誰かから聞いたけど、私達のような冒険者だって考える事はある。
疲労、魔力の消費で、まとまらない頭の中は余計な事ばかり考える。
「っ! ぐっ……! はぁ、はぁ!」
「こっちにも! はぁっ! ぜぇ、はぁ!」
ソフィーとフィネさんが、遠くから放たれたガルグイユの氷の塊を疲労で鈍った体を動かし、打ち払う。
バラバラになった氷の欠片は、ソフィーとフィネさんの体を掠め、確実に体力を奪っていく。
……注意深く見ていたつもりだったのに、ガルグイユの魔法に反応できなかった。
本来なら、今の攻撃は私が魔法でふせがなきゃいけなったのに……。
既に、続く戦闘で私や母さん、ソフィーやフィネさんはボロボロでいたるところが傷だらけになっている。
血が流れ、何もなくても失われて行く体力……。
「っ! フレイムウォール! モニカっ!」
「……え?」
ソフィー達に魔法を放ったのとは別の固体だろう、違う方向から飛んできた火球と何かの魔法……おそらく風の魔法だろう、今の私にはそれを追う事はできなかったけれど。
母さんが炎の壁を発生させて、わからない方の魔法は防いでくれた。
でも、火球は同じ炎では防げない。
母さんの発生させた壁を突き抜けて、私に迫る火球……あぁ、このままじゃ直撃する。
なんて、頭の中で考えていても体が動かない。
疲労からなのか、足に根が生えてしまったかのように動かす事ができなかった。
あるいは、避けられない対処もできない火球が迫った事で、思考だけが勝手に動いて判断しているのかもしれない。
「っ……!」
目の前に迫る火球、こちらに手を伸ばすソフィーやフィネさん、そして母さん。
それらを目に収めながら、どうしても動く事ができずに体を硬くし、直撃を覚悟した……。
「フレアランス!」
突然、横から飛来した別の魔法が火球に直撃。
内部で小さな爆発を起こして、火球が私に到達する事なくはじけて行った。
まさかリクさんが助けに……!?
「モニカ、油断しているんじゃないわよ!」
「この声……?」
「ルギネか!」
私達の後ろから聞こえた、叱咤する声。
聞き覚えがあるその声に、私ではなくソフィーが大きく反応した。
そう、確かにこの声はルギネさんの声だ……。
「ルギネが助けたわけじゃないけどねぇ。お手柄よミーム」
「人の焼けた肉は食べたくない。ただそれだけ……」
「で、でも、駆け付けたのは私の判断よ!」
「そうです、お姉さまの決断がなければ、今頃モニカさんは焦げ焦げになっていました!」
相変わらず騒がしい、リリーフラワーの面々。
何やら言い合い? をしながら私達の横……いえ、前に出て襲い来る魔物と魔法の対応を始めた。
「どうして……?」
「どうやら、命からがら助かった……と思っていいのかい?」
「もちろんです、マリーさん。お世話になっているマリーさんを助けるのは、当然の事ですから!」
ソフィーやフィネさんのさらに前に出て、私よりも母さんの問いかけに力強く頷くルギネさん。
赤い髪が、日差しを反射して燃えるようにも見えて頼もしいわ。
「ルギネだけでなく、皆お世話になっていますからぁ。邪魔ぁ!」
フィネさんの持つ斧よりも、二回り以上も大きいバトルアックスと呼ばれる両刃の斧を軽々と振り回し、ガルグイユを粉々に打ち砕くアンリさん。
森を彷彿とさせる緑の髪が翻るたび、魔物が砕け散る……おっとりした雰囲気の人だと思っていたけど、戦い方は荒々しい。
「ふっふっふー、お姉さまの邪魔はさせないわよー!」
ちょこまかと素早い動きで、魔物を翻弄して注意を引きつけつつも、飛来する魔法を器用に避けるグリンデさん。
黄色い髪が眩しくあちらこちらを行ったり来たりと忙しない。
「終わったら、いっぱいお肉食べる……ライトニングピラー!」
いつもお肉の事ばかり呟くミームさんは、鋭い雷の魔法で一度に複数の魔物を突き刺す。
青い髪が、魔法を放つたびに逆立っているのは、雷の魔法を使った影響かしら?
リリーフラワー……確か、リクさんが信号機って言っていたかしら? 信号機というのが一体何かは私にはわからないけど。
一部リクさんを見る目が怪しい、要注意な人達だけど獅子亭で母さん達や、元ギルドマスターに訓練してもらったからなのか、連携してキマイラを含む魔物達を翻弄していた――。
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