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襲い来る絶望の魔物
しおりを挟む「集合体? 一体の魔物じゃないって事?」
「塊としての一体、という意味でレムレースと呼ばれているわ。けど……モニカ達はゴーストと戦ったことがあるのよね。その集合体と言った方が想像しやすいかもしれないわ。詳細は違うけど」
「ゴーストの集合体、レムレース……」
母さんの話を、息を飲んで聞く。
その間にも、盾隊は吹き飛ばされ、交代の兵士が並び……を繰り返しているけど、私達には今のところ対抗する術がないのが歯がゆい。
ともかくレムレースに関して、母さん曰く魔物が倒された際の魔力が霧散し、それらがゴーストなどの不定形の魔物と混じって集合した存在なのだという。
倒された魔物の種別などは問わず、レムレースとなった時点であらゆる魔法を扱い、そのための魔力が備わるのだとか……本当にあらゆる魔法が使えるのかは、対峙した人間の数が少なすぎるために確認されていないらしいけど。
けど、使う魔法の豊富さは間違いなく、その威力も高くて手が付けられない程ではあるけど、一番厄介なのはその性質。
集合体のため、武器を使っても魔法を使っても、一部を削り取るだけですぐ再生して意味を成さない。
そしてガルグイユのように魔法の同時発動はできないはずなのに、ほとんど同時と思えるタイミングで複数の魔法が放たれる……正確には、集合したそれぞれの死霊と化した魔力が連続で魔法を放っていると、ほんの少し魔法の発動に差が観測されたとか。
倒すには全体を一気に燃やすだの凍らせるだのといった手段が有効とされるが、そもそも人間に可能な魔法でそんな事ができないので、討伐記録は今の今までないとか。
基本的に日の光を嫌うので、暗い洞窟の奥に潜んでいるらしい……そもそも、発生した事例がヒュドラーの目撃情報以上に少ないのだけど。
そのため、遭遇した際には戦いを挑まず逃げる事が最優先とされている。
討伐不可の魔物として、冒険者ギルドでは認識されているらしい……これまで、地上に出て来て人や街、村などを襲った記録はないため、逃げれば安全と言われている魔物でもある……母さん達もそれで助かったらしい。
冒険者ギルド指定のランクは、当然ながらSランク。
まだ私達から見えないけどレムレースはヒュドラーよりも大きな、霧状の魔物らしい……そりゃ、そんな魔物を一気に燃やしたり凍らしたりなんて、人間の扱う魔法じゃ無理よね。
多数が協力すればなんとかと思うけど、向こうも抵抗するのは当然で、不定形だからそもそもどこからどこまでを燃やすのかも判断しにくく、そもそも潜んでいる場所が洞窟の奥のため、発見しても大人数で戦いを挑む事が不可能な場所でもある。
ちなみに、霧状の巨大な体の中央には目があってそこから周囲の状況を見ている、と言われているけど……戦って敗北し、十人からなる冒険者パーティのただ一人の生き残りが最後に、目を潰しても別の場所で再生すると言い遺したとか。
大きな目があればそこが弱点と思う所だけど、特段そういうわけではないようね。
「でもだったら、今なら多くの魔法が使える兵士がいるわ。協力して一気に魔法を仕掛ければ……」
「無理よ。霧状の魔物って言ったでしょ? 他の魔物と紛れているでしょうから、それらも一気に倒せる程じゃないと……まったく、ヒュドラーだけでもとんでもないのに、レムレースなんてね。絶望的じゃない……」
「剣などの武器が効かないのなら、私は役立たずか……」
「次善の一手であれば、多少の効果はあるやもしれませんが、それも焼け石に水でしょうね」
多くの兵士と協力すれば、と思ったけれどそれも難しいと首を振る母さん。
ひしめき合う魔物達の隙間にすら存在するなら、それこそあたり一面を燃やし尽くす、凍らせるくらいしないと無理という事……全ての魔物を一気に倒すくらいでなければいけない。
つまり、実質不可能という事ね。
話を聞いていたソフィーやフィネさんも、悔しそうに俯いている。
次善の一手は、さっき私達が戦っていた時から既に使っていたし、二人の魔力もかなり減っているはず……もし効果があるとしても、あまり見込めるわけじゃないわね。
AランクやBランクの魔物だけでも、皆いっぱいいっぱいなのに、ヒュドラーとさらに別のSランクの魔物、レムレース。
母さんの言う通り、本当に絶望的だわ。
私達がいてもいなくても、ここにいる兵士達は全滅……休息をとって私達がまた思い切り戦えるようになったとしても、対抗はできない。
「きゃあぁぁ!!」
「ルギ……きゃっ!!」
「おねえさ……いやぁぁぁぁ!!」
「皆! この……! ぐっ、ふ……!!」
「ルギネ、アンリ、グリンデ、ミーム!」
炎、氷、土、極めつけに爆発……兵士達とは別に、横から回り込もうとしている魔物を確実に仕留めていたリリーフラワーの面々に対し、強力な魔法が撃ちこまれる。
なすすべなく魔法を受けるルギネさん達に、私が支えているソフィーが叫んで手を伸ばした。
「確実に魔物を仕留めるために動いていたルギネ達を……レムレースの嫌なところね。本能で襲い掛かる他の魔物と違って、理知的な行動、状況を見て戦い方を変えるのよ」
「そんな……」
「……大丈夫、なんとか皆息があるようです。しかし、このままでは……」
フィネさんの落ち着いた一言。
離れているけど、地面に倒れているルギネさん達を確認すると、確かに呼吸をしている様子は見て取れた。
ただ、その後に続く言葉の通り、このままだと全員が確実にやられてしまう。
そうこうしている間にも、盾隊の穴が塞ぎきれなくなりつつあった……。
「っ! あれよ、あの目がある周囲……霧が集まっているでしょう? あれがレムレースよ」
「あれが……でもわざわざあんな所に来たって事は……」
「焦れたのかもしれないわ。一気にやるつもりね……」
そう言って、顔をしかめる母さん。
私達の視線の先……盾隊よりも奥、そして空中に浮かぶ不気味な目。
ぎょろりとした眼球が浮かんでおり、その周囲には黒い霧が漂っている……ゴーストを例に出した意味がわかったわ。
あれは、巨大なゴーストってところなのね。
「それはつまり……?」
「あそこから放たれるって事は、盾を通り越して私達に直接降り注ぐでしょうね。はぁ……レムレースが出て来るなんて、来ていないわよ……」
もはやお手上げ状態、とでも言いたげにフィネさんから手を離して両手を挙げる母さん。
歪む表情はとても悔しそうだけど、打開策は一切ない様子……多くの魔物に睨まれても、睨み返す胆力を持っているはずの母さんが、ここまでの反応を示すなんて。
絶望的な状況なのは、間違いないわね。
そうして、空に広がるレムレースの霧の体から、あちこち魔法が発動される直前と思われる光が放たれ始めた……。
「ギ、ギ、ギ、ギ……!」
レムレースの声なのか、空から響く不気味な声。
そして放たれる魔法……!
「……遅くなってごめん! 多重結界!!」
降り注ぐはずだった絶望にただ見上げるしかなかった私に届いたのは、待ち望んだ……切望した人の声と魔法だった――。
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