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一瞬の隙で致命的な負傷
しおりを挟む「ぐっ! がっ! き、効いていない……のか……がふっ!」
私の左腕が浅くキマイラの爪に斬り裂かれ、右の膝から下にオルトロスの牙が突き刺さる、さらに胴体にはオルトロスのたてがみになっている蛇のいくつかが噛み付く……。
負傷やむなし、覚悟をしていた痛みなどに耐え、叩きつけたはずの剣は布にでも触れたかのような、微かな感触を手に残し、地面に深く刺さる。
手応えなし、魔物を倒したような感覚はない……愕然とする私に、どの魔物がやったのかもわからない衝撃により、大きく弾き飛ばされた。
「がっ、ぐぅ……!」
続く全身への衝撃……飛ばされて地面に叩きつけられたからだろう。
「は、はぁ……つぅ……あ……」
痛みに耐え、ようやく止まった私の体を立ち上がらせる。
全身から力が抜けていく感覚に晒されながら、歯を食いしばって立ち上がった私にだがしかし、きゅそくに視界が揺れて足から力が抜けた。
「アマリーラさん、大丈夫ですかい!」
誰かの声、近くにいた冒険者だろうか……? 聞き覚えがあるような気がする。
そう、確か西門からラクトスへの道を切り開く時に、協力した冒険者の男だ……決死行になるとわかっていても、魔物を打ち倒し、ついてきた見込みのある者だったと記憶している。
そういえば、この戦場にも前線に配置されたのだったな、いや志願したのか? どちらにせよ、距離を取って周囲の魔物と戦っていたはずだが……。
私はそこまで弾き飛ばされたのか。
「え……えぇ……私の体、どうなっている?」
「ひ、酷い怪我です。すぐに手当てしなくては……」
意識がはっきりしない、痛みも感じなくなりかけている……長年の経験から、これはまずい状態だというのを自覚する。
男の言葉通り、すぐに手当てしないとまずい事になるのは、自分でもわかっていた。
けど、それでも私は地面に手を突いて立ち上がろうとする……あぁ、私は倒れていたんだな。
「……でも、まだ戦っている二人がいる。私がここで下がるわけにはいかない……」
「で、ですが!」
「手当をしたって無駄だ! 怪我だけじゃないからな……」
「ま、まさか……オルトロスの!?」
そう、私の体……怪我の具合はわからなくなってきているのに、体を蝕む……いや、意識すら蝕む何かが内部に入り込んでいるのがはっきりとわかる。
オルトロスのたてがみとなっている蛇、それらに噛まれた時だろう。
毒を流し込まれた。
毒の量はわからないが、今すぐ手当てをしたとて流れる血と体力、毒に抗う力はもう私に残っていない。
解毒薬はあるはずだ……王軍が駆け付けた時に物資を持って来てくれていたから。
だが、解毒している間にも体力が失われ、そして手遅れになる。
それが自然と私自身にわかった。
「最後の力を振り絞ってでも……あいつは……あいつがいる事を報せなければ……」
「……っ!」
歪んでいる視界で、男が私から目を逸らす。
それはそうだろう、血だらけとまではいかなくとも酷い怪我をし、毒を受けて顔から血の気が引いていると思われる私だ、とてもじゃないが見られたもんじゃない。
けどそれでも、ヒュドラーと今も戦い続けているあの二人に、私が見つけたあの存在を伝えなければ。
足止めはもう無理だ……あれは絶望の存在。
決して敵対してはいけない魔物なのだから……。
リク様には今の私の不甲斐ない姿を見せたくないが、それでもユノ殿とロジーナ殿に撤退をするように伝えたい。
そして、その援護となるのならば……私の身を使ってでも、あの二人を守らなければ。
私などよりも、あの二人の方が……悔しいが、ユノ殿とロジーナ殿の方がきっとこれからリク様の役に立つはずだ。
そして、足止めは失敗し、大きな被害が出たとしても、リク様が到着されれば必ず。
絶対にあの魔物とヒュドラーを倒してくれるはずだから……。
「くっ! はぁ、はぁ……! うぐ……ん?」
荒くなる呼吸、痛みすらよくわからなくなった体をなんとか立たせ、力の入らない足に気合を入れる。
オルトロスに噛まれた右足、かろうじて千切れてはいないのがありがたいが、それを引きずりながらも、未だ劣勢を強いられているはずのユノ殿達の所へと向かう。
だが途中で意識が霞み、上下がわからなくなった瞬間、体がぐらりよ揺れた。
倒れる……そう思った瞬間に、何かが私を支えてくれるのを感じた。
「もう少し、自分を大事にして下さい。冒険者は、自分の命、仲間の命を大切にするのが鉄則ですよ……!」
「お前……私は傭兵であって冒険者ではないのでな。だが、覚えておこう」
「えぇ」
私を支えてくれたのは、先程目を逸らした冒険者の男。
その男は、私に説教でもするつもりなのか、歯を食いしばりながら絞り出した言葉はだが、今の私にとって踏みとどまる理由になり得た。
自分の命、そして仲間の命か……そうだな。
長くはないが、ユノ殿もロジーナ殿も、協力して戦った仲間だ……もちろん、今回に限らずセンテを囲む魔物と共に戦った者達も全て。
ならば、その仲間のために、仲間の命を救うために自分の命を使う事だって、大事にしていると言えるはずだ。
見込みがあるとは思っていたが、この状況で私に感心させる男とはな……今回の事が終った後に、リク様に末席に加えるよう進言しても良いかもしれない。
それくらいには、私を支え、共にヒュドラーと戦う二人の下に向かってくれる男の事を気に入った。
もちろん、リク様には足元にも及ばないが……それは私も同様だな。
「くっ……はぁ、はぁ……お前、名前は……?」
「トレジウスです。俺の名前なんてどうして今?」
「いや、覚えておこうともってな。もっとも、覚えていられるのももう少しの間だけかもしれんが……」
支えられながらも、今まだ激しく魔法が降り注ぎ、衝撃が遠くまで響いている場所……つまり、ユノ殿とロジーナ殿が戦っている場所へ向かっている。
だが、毒の苦しさが全身を回り、痛みはもうほとんど感じない代わりに、血が流れているためか体力が失われているのがはっきりとわかった。
それでも、助けてくれているこの男の名前は、脳裏に刻んでおきたいと考えただけの事。
リク様には及ばなくとも、力では私に敵うどころか未熟であっても、私を支えて死地に赴こうとする心意気は称賛されるべき事だと思ったからだ。
「アマリーラさんに覚えてもらえるってだけでも、頑張る甲斐があるってもんですよ。一部の冒険者ギルドでは……いえ、一部の冒険者の間では有名な方ですから」
「私の事を知っているのか?」
私自身、その一部の冒険者とやらで有名だという理由に心当たりは……三つか四つくらいはあるな。
まぁ、どれも取るに足らないバカバカしい理由なのだが。
「もちろんです。誰ともパーティを組まず、孤高を貫く冒険者……いえ、傭兵でしたね」
「ふん、誰もかれもが自分の力を過信し過ぎていたからだ」
「Bランク冒険者ばかりのパーティからの誘いも、断ったらしいじゃないですか? 過信しているかはともかく、実力は確かだったでしょうに。俺のようなCランク程度でくすぶっている奴からすれば、羨ましい限りですよ」
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