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支えられて危険な戦場へ
しおりを挟む「ランクが高くとも、それぞれの本当の実力や考え方は違うからな。ランクに見合わない者もいるだけの事。そうか、お前はCランクか……」
トレジウスの言葉に、自分が冒険者ギルドでどういう評価を得ているのかを思い出した。
確か、私はAランク相当だと言われた覚えがあるな……冒険者の登録はしているが、傭兵の活動を重視していたので、自分のランクを上げるような事には興味がなかった。
それよりも、自分の力がどこまで通用するのかの方が興味があったからな。
一応私も冒険者ギルドでは実際はともかく、トレジウスと同じCランクの扱いだったはずだ。
「そういえば、最年少、冒険者になってから最速でAランクになったリク様とパーティを組んでいる人達。あの人達もCランクらしいですけど、Bランクすら霞んで見える活躍をされていますね」
「そうだな。リク様はむしろ、まだSランクのさらに頂点に立っていない事の方がおかしく感じてしまうが……モニカ殿達は、私にすら引けを取らないだろうな」
リク様の近くにいて同じパーティ……羨ましい限りだが、実力などは本物だ。
まだ若く、経験も足りていないためにAランク相当とは言い難いが……以前私をパーティに誘ったBランクパーティより、モニカ殿とソフィー殿の二人の方が強いと言える。
それに、リク様が近くにいるせいかもしれないが、驕らない態度と謙虚な精神。
これから先が楽しみでもある……まぁ、私も含めてリク様を近くで見ていれば、驕り高ぶるなどできようはずもないか。
「リク様は、話しだけ聞いていて最近初めて見ましたけど……最初はただの子供と思っていたら、一瞬で考えを改めさせられました」
「ふっ、見た目だけで判断するとそうなる。誰が、リク様以外に大量の魔物を一人で倒し、ヒュドラーに戦いを挑めるのか……」
そもそも、そのヒュドラーですら倒すと断言するお方だ。
確かに見た目はまだ子供っぽいところもあるが……リク様に敵う者などこの世界にいないと思わされる。
精霊を召喚していた事から、私は獣神様が戯れに人間として顕現した姿なのではないか? と考えているが、だがそれなら獣人の国ではなく人間の国にいる理由がよくわからない。
その辺りを、リク様に聞けぬのは心残りかもしれないな……。
「そうですね……俺だったら、ヒュドラーと聞いただけで足が震えますよ。今だって……」
「私も、最初はヒュドラーを確認した際には全身が震えたさ。尻尾も意思に反して丸まったくらいだ」
「その尻尾、自由に動かせない時があるんですね……」
獣人には皆それぞれ特徴的な尻尾と耳がある……それが人間との大きな違いだが。
私の細長い尻尾は、ヒュドラーを見た瞬間から震え、ただただ丸くなって私の意思を無視し続けた。
それがおそらく、私が心の奥底でヒュドラーに対して抱いていた恐怖というものなのだろう。
今は体に力が入らないために上手く動かせず、ただ地面に向かって垂れさがっているが。
「ゴホッ! ガハッ! くっ……うぅ……」
「だ、大丈夫ですかい!?」
「少し……はぁ、ふぅ……話過ぎたようだ……先を急ごう……!」
「へ、へい!」
無駄な話をして体力を使ったか、喉まで何かが込み上げて思わず咳き込んだ。
地面には、私の血が撒き散らされたような気がするが……それは口から出た物なのか、それとも傷付いた私の体から流れる血が散っただけなのか、判別がつかない。
荒い呼吸を整えるなんて無駄な事はせず、そして無駄話しはここまでと打ち切り、トレジウスを急かしてユノ殿達の所へと向かった……。
「もう少し、だ……お前、いやトレジウス。風の魔法は使えるか? 声を増幅する魔法だ」
「そ、それくらいなら一応。これでも、パーティを率いてるんで指示を伝えるためにも必要ですから。ですが、あまり遠くまでは届きません」
「遠くなくていい。ここから叫ぶよりも、効果的なのであればそれでな」
魔法の波状攻撃で、激しい攻防……いや防御や回避を強いられている、ユノ殿とロジーナ殿を目に捉えられる場所まで来られた。
その段階で、呼びかけや報せだけは早くしようとトレジウスに声を増幅する魔法をかけてもらう。
パーティを率いる者、リーダーは戦闘中など他のメンバーに指示をする事も多くなるため、使える者が多い……あくまで魔法が使える者の中で、というだけだが。
中央でワイバーンと共に空を飛ぶ私にまで声を響かせていた、エルフのフィリーナ殿ほどではなくとも、私のいる今の場所から、激しく魔法が炸裂しているユノ殿達の場所まで届けば、それでいい。
「魔法、かけ終わりました」
「……」
トレジウスに魔法をかけてもらい、支えてもらっていた腕を抜けて一歩前へ。
手を挙げてトレジウスに感謝の意を伝えつつ、体に力を入れる。
ここまで多少体力の温存はできていたが、回復が見込めないためにほとんど全身に力が入らない。
それでも、自分の力で立って声を出せるのは、どうしても伝えねばならない事があるからか……。
「ユノ殿、ロジーナ殿! ヒュドラーと共に魔法攻撃を仕掛けているのは、レムレースです! 人には決して討伐できないとされている魔物! お二人共、一度引いて下さい! ここでお二人を消耗させ続けるわけにはいきません!!」
「レムレース!?」
後ろで、トレジウスが驚く声を上げる。
話していなかったな……私が嗅覚などを総動員して見つけた魔物、次善の一手までをも使って全力で剣を振り下ろしても、一切のダメージを与えられなかった魔物。
それはレムレース。
Sランクの魔物で人間……いや獣人であっても討伐不可能とされている魔物だ。
破壊的という意味ではヒュドラーの方が上なのだが、奴には剣などが一切効かない。
エルフならば、魔法という利点を使って討伐できる可能性があるようだが……それも、数十というエルフが協力しての事だ。
今この場にレムレースを倒せるような存在はいない。
「二人共、動きませんね……いや、魔法の回避はしていますけど、引くような感じじゃない? レムレースなんて、それっぽいのを見ただけで一目散に逃げろと言われている魔物なのに……!」
「ふっ怖気づいたか? だが、あのお二人ならこれくらいは想像できた。レムレースと聞いただけで逃げるようなら、そもそもヒュドラーにすら相対しようとは思わないだろう」
想像できていた事。
レムレースという驚異の存在がわかっても、引く事を考えないユノ殿とロジーナ殿。
だからこそ、伝えるだけでなく私がここに来たのだ……伝えるだけなら、風の魔法で遠くから声を届ければいいだけなのだからな。
「ど、どこへ!?」
動かない右足を引きずりながら、ヒュドラーの前から離れないお二人の所へ向かう私に、トレジウスから驚きの声を掛けられる。
どこへなど、見たらわかるだろうに。
「決まっている。あのお二人の壁になりにだ。いかなお二人でも、目の前で私が犠牲になれば引かざるを得んだろう」
「まさかアマリーラさん、そのためにここまで!?」
「最初からそうしようと思っていたからな。私の身であのお二人が引いてくれるのなら安い物だ……」
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