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レッタの作戦
しおりを挟む「くそっ!」
すぐにそちらに向かいたい衝動に駆られるけど、今まさに黒煙が上がっている状況。
とにかくまずは何が起こっているのかを把握するのが先決だと、足場結界から降りてロジーナやレッタさんのいる地上に戻った。
……エルサがいてくれれば、今すぐにでも飛んで行けたんだろうけど。
「リク、やっぱり?」
「うん……西門付近だと思われる場所から、黒い煙が上がっていたよ。何かがあったのは間違いない紗年…レッタさんっ!」
「ふふふ、ようやく状況を把握したようね。あちらには、近くに森があるから隠しておくのも楽だったわ……レムレースは忍ばせやすいけど、他の魔物もね……」
「レムレースに、他の魔物だって!?」
センテ西側の森と言えば、ヘルサルとの間にあって俺がエルサと出会った森でもある。
あの森自体は、なんの変哲もないあまり大きくない森だけど……その場所に魔物を忍ばせていたって事か……。
「つまり、さっきレッタが放った光は、その忍ばせていた魔物達への指示ってわけね」
「そうです、ロジーナ様。こちらのヒュドラーは囮……と言うには、戦力を集中させていますけど。でも、元々この戦力で街にいる者達への追い打ちをかける、第一段階が成功しなかった際の計画。そこに変更を加えて、西側にも魔物を仕向けるようにしたのですよ。森がある事もそうでしたが、簡単な事でしたよ? 空からヒュドラーを見られた時は、予想より早く見つかって警戒されて厄介かと思いましたが……むしろこちら側にだけ集中してくれたのですから。魔物を潜ませているとも知らず、こちら側にしか警戒や偵察の目は向いてませんでした」
「確かに、ヒュドラーという驚異にばかり目がいっていたから……」
東から、残っていたセンテを囲む魔物の向こうから、ヒュドラーが迫っているという情報にばかり気が取られていた。
そもそもに、最初の魔物を目隠しにしてヒュドラーをセンテに近づけようとしていた……レッタさんが話す限りでは、ロジーナがこちらに来る前はそうだったのかもしれないけど。
それが、レッタさんがわかるらしいロジーナの反応がセンテに出た事で、作戦を変更したのか。
確かに言われた通り、俺もそうだし他の皆も東側から迫るヒュドラーに対してしか、意識は向いていなかった。
空からのワイバーンを使った偵察も、南や北ですらほぼ行わず、東側ばかり注視していたのは間違いない。
ヒュドラーという驚異、魔物という敵に対して、背後を突くような事はしないと勝手に考えていたわけだ。
そもそも、最初にセンテを四方向から囲むという、作戦行動らしき動きをしていたにも関わらず。
俺はセンテが囲まれた最初の場面の時、ロジーナに隔離されていて状況を知らなかったから、その事に思い至らなかった……というのは言い訳だな。
「ヒュドラーに対して、街を放棄して逃げる想定はあったけど、それでもロリコンを擁する愚かな人間達の事。どうせ戦える者はこちらに集中し、背後は手薄になり戦わない者達を集めると予想していたわ」
「……レッタの読み通りになったわけね」
「えぇ、そうです。ロジーナ様。そして、今あちらはレムレースや魔物達が進行をしている。そのための合図を送ったのですよ。さぁ、これでどれだけの犠牲者が出るかしら? いえ、今から向かえばもしかしたら多少は被害が抑えられるかしら? でも、どうしたってもう遅いわ。既に犠牲者は出ているのよ」
西門は避難者のために閉じられていなかったはず……さすがに森から魔物が出てくれば、発見されてすぐに閉じられるかもしれないけど、黒煙が上がっていた以上、襲われているのは間違いない。
非難を誘導するために、王軍や侯爵軍の兵士さんが誘導しているとはいえ、その数は多くない。
多少は持ち堪えるにしても、既に少なくない犠牲が出ているのは、レッタさんの言う通りだろう……。
話を聞いて、してやられた事に対する悔しさ、大量の犠牲が出る未来を想像して手を握り締める。
「さっきも言ったけれど、あなたが悪いのよ?」
「どういう事だ……」
悔しさに歯を噛みしめ、さらに拳を握って、これからどうするのが正しいのか、犠牲を少なくする方法を頭の中で模索する俺に対する、レッタさんの言葉。
赤い光を放つ時にも確かに言っていたけど、どうして俺が悪いという事になるのか。
やっぱり、ロジーナに協力してもらった事……いや、人間になってしまう程力を使わせたからとか、そういう事だろうか?
「あなたは、今回の事……特にロジーナ様の隔離から逃げ出し、こちらに戻ってきた時すぐに、全てを解決する力を持っていた。いえ、その時は消耗していたのでしょうけれど」
「……」
隔離から抜け出した後、魔力の消費が激しくて多少ならともかく、囲んでいる魔物を殲滅する事は無理だった。
その事は、ロジーナの計画を全て知っているレッタさんにとって、想像するにたやすい事なんだろう。
まぁ、破壊神と戦った直後に体力や魔力が万全のまま、なんて事はないのは誰にでも想像できる事か。
「でも、私は見ていたわ。正確には、調べていたかしら? あなたは……ロリコンは、戦いに参加はしても全てを早期に解決する事はなかった」
どうしても、俺の事をロリコンと呼びたいらしいレッタさん……そこは言い直さなくてもいいと思うけど、今の俺にはそれを指摘する余裕はない。
「そして、今回のヒュドラーやレムレース。ヒュドラーはともかく、考えていたよりもレムレースをあっさり倒したのには驚いたけど……ここに来た事も」
レムレースも含めて、ある程度レッタさんの思惑を外す行動はできていたらしい。
ただそれも、相手の作戦にはまってしまった今となっては、悔しさを晴らす要因にはならないけど。
「ロリコンのあなたは、やろうとすれば一人で全てを解決できるはずだった。それもそうよね? これまではともかく、あの街周辺に凝り固まっている魔力や感情は、ロリコン向かっているのだから。まったく、人や魔物、感情や魔力は皆ロリコンなのかしら? 汚らわしい」
負の感情だったか、あれらが俺に向かっていて、それが原因で魔力の回復が早い事を言っているんだろう。
それは、以前からもヒュドラーと戦っている時も実感していた。
輝く剣の魔力吸収モードで、さらに回復が早まっているのはともかく、それがなくても魔力の最大量が増えている事もあって、これまで以上に消耗を気にせず魔法が使えたのは間違いない。
「魔力溜まりもついでに作って、レムレース発生を見込んだり、ロリコンに流れる感情のブーストにしようと思ったけど……あれがなくなったのはちょっと惜しいわね」
「レムレースの発生……」
そうか、魔力溜まりとレムレースの発生理由は似ている。
魔力溜まりは人間の魔力が混じっていても、ただその場にとどまる魔力が増えればいいだけだけども。
レッタさんにとっては、両方……それともどちらかが発生すれば、渦巻く負の感情を増幅させられるだろうから、それで良かったのかもしれない――。
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