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エルサが少しだけ素直に
しおりを挟む「っ!?」
私の手の上で、ビクッ! と体を震わせたエルサちゃん。
おかしいわね。本当に私に怯えているみたいじゃない……まさか私がそんな事できるわけないわよね。
叫んでいると思わず体に力が入って、乗っているエルサちゃんを握ってしまっても、ビクともしないんだから。
でも、次に私が言う言葉を聞いたら、いくらエルサちゃんでも本当に怖がってしまうかもしれないわね。
「キュー……」
「だわ!?」
「素直にならないエルサちゃんなんか、もうキューを食べさせてあげないから。リクさんが戻って来ても、絶対にエルサちゃんにあげないようにさせるから」
私にそんな権限はない……というか、エルサちゃんなら他の誰かにもらえるだろうし、リクさんは優しいから隠れてキューをあげそうではある。
さすがにしないだろうけど、キューを作っている畑や売っているお店にエルサちゃんが突撃して……なんて事だってできるわね。
でも、そう考えている私とは違い、エルサちゃんには効果てきめんだったようで……。
「そ、それだけは勘弁なのだわ! キューを食べられなくなったら、生きている意味がないのだわ! この世界に存在する意味もないのだわ!!」
隠そうとしていたのに、私の言葉でガバっと顔を上げたエルサちゃんは、必死な様子で叫んだわ。
好物なのはわかっていたけど、そこまでなの……? さすがにちょっと予想外というか予想以上というか。
生きている意味とか、存在する意味とまで考えていると思わなかったわね。
キュー以外にも、美味しい物はいっぱいあるはずなのに。
「……それじゃあ、わかっているわねエルサちゃん?」
「ぐっ……だわ。わかったのだわ! 素直になるのだわ! そうなのだわ、心地いい魔力をくれるリクも、キューを作る人間も、キューをくれる人間も大好きなのだわ! 皆、私がドラゴンだとか関係なく、撫でて優しくしてくれるのだわ! そんなの、これまでなかったのだわ! リクのおかげなのはわかっているのだわ!!」
ようやく素直になったエルサちゃんが、思いっ切り叫ぶ。
ちょっと……いえ、かなり好きの比重がキューに偏っている気もするけど……まぁいいわ。
リクさんがいてくれるから、優しくしてくれるから、そんなリクさんと人間が好きな事を吐露できたみたいね。
最初から素直になればと思うけど……恥ずかしいのか、エルサちゃんはプルプルと体を震わせているわ。
……まぁ、私もリクさんに対して素直になれていない部分もあるから、これ以上つつくのはかわいそうかしら。
あれ? 私はなんのためにエルサちゃんに怒っていたんだったのかしら?
「だから、もうこれ以上は聞かないでだわ! 恥ずかしいのだわー!!」
叫んで、縮こまって前足で頭……いえ目を抑えるエルサちゃん。
私の手の上でプルプル震えているのは、怯えているのではなく恥ずかしいからかしら。
ちょっとだけ、やり過ぎちゃったわね。
「うん、なんかごめんなさいね、エルサちゃん」
「うぅ……モニカは酷いのだわ……」
リクさんに届いているのかはわからないけど、エルサちゃんには悪い事をしちゃったわね。
少しだけ冷静になった頭でそう考える私は、エルサちゃんに謝った後偽物の方を見た。
「……」
青い目のまま、こちらを見ている偽物は唖然としながら私を見ているけれど、なんとなく「こいつは何をしているんだ?」とでも言っているかのように感じた。
……やっぱり、目は口ほどにものを言うかしら?
ちょっと……そう、ほんのちょっとだけ理性を失くしたというか、勢いづいちゃったというか。
目の前にリクさんがいるのに、負の感情とかいうわけのわからない何かに乗っ取られていて、色々溢れちゃったのよね。
まぁ、今でも腹の底からぐつぐつと煮えたぎっている感情が溢れそうではあるけれど、エルサちゃんのおかげでなんとか抑えられているわ。
「エルサちゃんの犠牲は、忘れないわよ……」
「勝手に犠牲にしないで欲しいのだわ!」
あ、声に出しちゃっていたわ。
抗議するエルサちゃんは、叫びながらもまださっきの恥ずかしさから抜け出せないみたい。
私の手に、プルプルとした震えが伝わってくる……肩の上に乗せたら、凝りが解れそうね。
リクさんはいいのだけど、他の男達の嫌な視線を感じる程目立つ私自身の特徴のせいで、よくか違いたくなるのよね。
うん、リクさんが時折気にしているのはなんとなくその視線とか雰囲気でわかるわ、男だし、リクさんならいいどころか恥ずかしいけど、嬉しいと思う事もあるし。
なんて、思考を少しだけ逸らしてまた爆発しそうな感情を、誤魔化しておく。
ちょっとした刺激で、溢れそうだから意味があるかはわからないけれどね。
「というわけで、さっさと諦めてリクさんを返しなさい。というか、もう色々諦めているんだからリクさんの中にいても意味ないでしょ?」
「何がというわけでなのかはわからないわね。私が、俺がそんな言葉を受け入れると思うのか? 僕が諦めているのは、魔物や人が生き続ける事だけ。我は憎悪と怨嗟を糧に全てを消し去るのみである」
「また……なんなのその私とか俺とか僕とか我とか。口調も微妙に変わっているし」
全部リクさんの声なんだけど、口調が変わるたびに違和感とともにこめかみあたりがピクピクしてしまうわ。
リクさんがしない喋り方というのもあるけれど、勝手にリクさんの声を使っているんじゃないわよ……という思いが強いからかしら。
特に、私と言った際の口調なんて、王都の鞄屋の店主を思い出して鳥肌が立つのよ。
いえ別にあの人が嫌いとかではなくて、あの人はあの人でそうしたいならいいんだけど、リクさんの声で言われるのがね。
「先程から統一しろだの言っているが、我は、私は複数の感情が一つになった意識。複数の意識があってもおかしくないわよ」
「だから……一つになったと言っておきながら、複数って矛盾しているでしょ? それ、本当に一つになれていない証拠じゃ……あ」
エルサちゃんを持っているのとは逆の手で、こめかみを抑えながら偽物に対して言っている途中で、ふとしたことに気付いたわ。
一つになれていない、でも複数が集まった意識……それがリクさんの体にと考えると……違うかもしれないけど。
「エルサちゃんエルサちゃん、ちょっといい?」
「なんなのだわ……もう恥ずかしい事を言わされるのは、勘弁して欲しいのだわ。私が悪かったから許して欲しいのだわ……」
偽物に聞こえないよう小さな声でに話し掛けると、エルサちゃんが震えを強くしてギュッと目を抑えた。
小声だけど、ここはいわゆる偽物のテリトリーみたいな物なので、本当に聞こえないのかどうかはわからないけれど。
それはともかく、エルサちゃんの心にトラウマを植え付けちゃったかしら? と勢い任せにエルサちゃんへ叫んだ事を少しだけ後悔……。
落ち着いたらキューを上げるから、と心の中で謝罪と共に呟きつつ、エルサちゃんに本題を話す。
「もう怒ってないし、恥ずかしい事も言わないでいいわ。そんな事よりも……」
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