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「んー……成る程。とりあえずセンテ一帯か……魔物が押し寄せて来て、その魔物を殲滅するためなんだから、当然だけど。でも……」

 赤い光は触れた存在の魔力をエネルギーに強制変換するから、それが全て消費されて今の状況になっている。
 探知魔法は魔力の反応をソナーに近い感覚で調べるものなんだけど、赤い光の影響が残っている範囲は、逆に自然の魔力、生き物の魔力が一切ない状態だから、むしろわかりやすい。
 反応がある場所になると、それは影響が残っていない所ってわけだね。
 影響範囲は、センテから東西南北に大体数キロ……ヒュドラーがいたこちら側、東の範囲が一番広くて、ヘルサル側の西側が一番狭いってところかな。

「どうしたのだわ?」
「いや、センテの西側、ヘルサル方面でね……俺が隔離結界を使うまで避難しようとしていた人達が、魔物に襲われていたはずなんだ。その人達の亡骸も何もないのかなって……」
「隔離結界の外なら、仕方ないのだわ。赤い光の影響を逃れられないのなら、影も形も残らないのだわ」
「そうなんだけどね……まぁ、もしあっても何かできる事はないんだけど」

 西側の人達は、森に潜んでいた魔物達に襲われていた。
 どうなっていたかは見ていないのでわからないけど、それでも多少なりとも人的被害が出たのは間違いないだろう。
 隔離結界で覆っても、その中には魔物も巻き込んでいただろうし……。
 今さらやれる事はないし、何もないとわかっていても、考えずにはいられない。

「安心するのだわ、一切の被害が出なかったわけではないのだけどだわ。スピリット達が助けてかなり少ない犠牲で済んだと聞いているのだわ」
「あぁ、そうか……スピリット達が……」

 負の感情への対処のために召喚していたスピリット達……頑張ってくれたのなら確かに、被害は少なくて済んだのだろう。
 もしかすると、俺が意識を飲み込まれた時、前もってスピリット達が多少なりとも手を入れてくれていなければ、負の感情はもっと大きく、激しい濁流になっていたのかもしれないな。
 それこそ、俺の意識を飲み込んだ時点で完全に溶け合って混ざり合い、俺という意識が残らなかった可能性もある。
 ……スピリット達には、感謝しないと。

「……よし! 起こった事ばかり考えても仕方ない。まずはやれる事を、だね」
「なのだわ。さっさとやるのだわー」
「気を付けてとか念を押しながら、さっさとやれって、気楽だなぁ」
「もう私にはできる事がないのだわ。だから注意しつつさっさとやるのだわ。そろそろお腹が減ってきたのだわ~」
「はいはい……」

 エルサはこれまで頑張ってくれたし、さっき大きくなって皆を受け止めてくれたから、魔力もほとんど残っていないからね……今は俺の頭にくっ付いている事くらいしかできない。
 まぁ、エルサなりの気遣いなんだろう。
 自分がやってしまった事などを考え過ぎないように、深刻にならないよう気楽に雰囲気を明るくしてくれている。
 そのために、暢気な声をだして注意しつつさっさとなんて、無茶な事を言っているんだと思う。

 まったく……ありがたいね。
 おかげで、色んな事に押し潰されずに何とかやっていけているよ。
 エルサだけでなく、モニカさん達もだけど……どんな状況でも緩い雰囲気になってしまうのは、どうかと思うけど。
 あれ? もしかしてそれはエルサや他の人だけじゃなく、俺の性格もあるのかな? あまり考えないようにしておこう。

「それじゃ、範囲は把握できたから……」
「ちゃんとやるのだわー」

 頭の上から駆けられるエルサの声に頷きながら、魔法のイメージを固めるために集中を始める。
 結界みたいに使い慣れた魔法なら、少しの集中でも大きさや形などを自由に発動させられるようになっているけど、これは深く集中する必要がある。
 とはいえ、一度使った事があるので全てを一からイメージしなくてもいい。
 以前のイメージを掘り起こし、さらに精度と彩度を上げて効果範囲を明確にして……。

 自分の中にある魔力を練り、体の外に解放しつつ変換。
 密度が濃く可視化された魔力が、俺の周囲を立ち上るように現出して青白い輝きを放つ。

「ちょっと寒いのだわ……離れておけば良かったのだわ」

 赤熱した地面を凍らせるための魔法……氷と水は似ているけど、厳密には違う。
 いや、氷の魔法と水の魔法を使うために、魔力の変換先が違うといった方が正しいのかな……色で言うと、水なら青、氷は青白くだ。
 可視化されるくらい多く濃い魔力で、さらによく観察しないと違いはわかりにくいんだけどね。
 その青白く変換された魔力が立ち上ると同時に、俺の周囲数メートルくらいの温度が急激に下がる。

 凍えてしまう程じゃないけど、モフモフに包まれていつも暖かさを維持しているエルサが寒いというくらいにはなっている。
 俺自身は、自分の魔力だからかひんやりする空気を感じる程度なんだけど……まぁ、十度前後ってところだろうと思う。

「……よし、行くよ」

 イメージを固め、準備が完了して呟く。
 いつの間にか、結界に張り付いていたアマリーラさんも含めて、皆から注目されているのに気付いたけど……そりゃ、冷気を纏うような状態になっていたら、注目して当然か。
 ユノやロジーナは、俺のすぐ近く程ではないけど冷え始めたこの場所で、凍えてしまわないようにかモニカさんやフィネさんが、さらに身を寄せているようだ。

「やるのだわー!」
「ブリザード!!」

 何故か意気込んだエルサの声を合図に、魔法名を叫んで発動させた。
 魔法名は以前のまま……イメージをはっきりさせるうえで、変えようかと思ったけど頭に浮かんだのが「エターナルフォースブリザード」という、どこかの誰かが考えた最強の技名みたいだったので、そのままにした。
 フォースだと威力が高いイメージに引きずられそうだし、エターナルなんて付けたら凍った地面が永遠に溶けないなんて事になりそうだったからなぁ。
 凍らせた後はちゃんと溶かさないといけないし……まぁスケートリンクを作るなら良さそうだけど、そんな予定もないからね。

 そんなこんなで、俺が発動した魔法に導かれた魔力が、上空へと向かい目に見えるギリギリの高さで周囲の空気というか、空気中の水分を凍てつかせながら拡散。
 周囲一帯に広がり、キラキラとした日の光を反射する氷の結晶を降り注ぎながら、赤熱した大地を凍らせていく。
 目で見える範囲……遮るものが一切ないおかげで見える、ドーム状になっている隔離結界のさらに向こうにまで、魔法が及んで行くのが見えた。

「凍って行く……さっきまで赤く煮えたぎるようだった地面が……おぉぉぉぉぉ!!」
「こんな光景を間近で、それどころか中心で見られるのは、得難い経験ですねぇ。見るだけならともかく、また同じ事に巻き込まれると言われたら、お断りしたいですけどぉ」
「前に見た事があるけど、やっぱり凄いわね。いえ、地面の熱量が凄いからか以前見た時とは少し違うけれど」
「モニカさんは前にも見た事があるのですね。これは、一度見たら忘れられそうにありません……」
「これが役に立つ時が来るとは思わなかったのだわ」


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