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氷の奥に何かがある

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 キューを食べないリーバーに、大袈裟過ぎるくらいに驚いているエルサ。
 確かにキューは美味しいけど、それを食べないだけで損をしているとまではさすがに……というか、エルサはキューを食べるために生きていたのか。
 ……エルサに聞いたら、本当にそうだと言いそうだから聞くのは止めておこう。
 キューが生きる目的や理由になるドラゴンって、どうかと思うし。 

「ガァウ」
「キューの前では、全てがひれ伏すはずなのに……おかしいのだわ」

 俺の言葉に頷いたリーバーに対し、頭の上で脱力するエルサ。
 ここまでの言葉や反応は、本気だったのがモフモフ越しに伝わってくる。
 いやいや、本当にキューに対してひれ伏しているところなんて、エルサも見た事ないだろうに……エルサがひれ伏す事はあるかもしれないけど。

「仲良く話しているところ悪いけど、終わったわよリクさん」
「おっと。お疲れ様、モニカさん、フィネさん、リネルトさん」

 エルサのキューに向ける情熱に半ば呆れていると、モニカさん達から声がかかった。
 どうやら氷を砕き終わったらしい……三人を労いながら見てみると、確かに俺の魔法の影響で穴を塞いでいた氷は全てなくなっているようだ。

「いえいえ~」
「はい、ありがとうございます。ですが……」
「うん?」

 リネルトさんの反応を受けながら、それじゃあ早速中に……と思ったら、フィネさんが何やら言い淀んでいる様子。
 どうしたんだろう?

「何か、あります。なんというのか、柔らかい魔物の腹のような……」
「魔物の?」
「いえ、本当に魔物というわけではないのですが……こちらへ」
「……うーん、確かに何かのお腹と言われるのも、納得できる感触というか弾力」

 フィネさんに促されて、氷が完全に砕かれた穴に向かって手を伸ばす。
 中に何があるようには見えないのに、その手は途中で妙な感触によって受け止められた。
 目に見えない何かがそこにあるようだ……フィネさんが魔物の腹と言っているのはただの例だろう、本当に魔物がいるわけでもない。
 言われて見ると確かに、その手を柔らかく受け止める感触は誰かのお腹を押しているような感覚でもある気がする……主に、恰幅のいい人のだけどね。

「リクさんが話している間に、武器を振るってみたのだけど……」
「刃は通るみたいです。そのような感覚が手元に来ます。ですが、単純に武器を振るうだけでは斬り払えないようです」
「なんというか、剣で斬ろうとしても途中で受け止められて斬り裂けないしぃ、すぐに修復しているみたいなんですよぉ」

 モニカさん達は、俺がリーバーやエルサと話しているうちに、色々試していたらしい。
 だから、氷を砕く音がなくなっても、割るのと違う動きをしていたのか。
 ……キューに対するエルサの執念を聞いて呆れていて、あまりよく見ていなかったとは言えないけど、一応視界の隅に入れて見てはいたんだよ? 本当だよ?

「……次善の一手でも、受け止められる?」
「いえ、先にリク様に報告してみようとなりまして。まだ、次善の一手では試していません。ですが、感触から察するに次善の一手であれば、簡単に斬り裂けるかと」
「一応リクさんに意見を聞いてみようってね。これ、リクさんの魔法とかではないのよね? そうだったら、何が出るかわからないから」
「こんな変な弾力のある感触の何かなんて、作り出していないよ。あと、俺の魔法だったとしても何も出ないから」

 次善の一手ならと思ったけど、念のため俺に聞いておこうという事だったんだろう。
 それはいいんだけど、仮に俺の魔法だったとしても損阿びっくり箱を開くみたいな事は起こらないから。
 目に見えない弾力のある壁だし、一応隔離結界の中が見えるから結界と同じ透明な何かなんだろうとは思うけど、結界にしろ不思議な感触の壁にしろ、何も内包していない以上斬り裂いてどうにかなる事はない、と思う。
 ……成る程、曲面結界のように光を屈折させるか鏡のような……鏡面結界とか? とにかくそれで、外から中を見えなくすれば、結界内に隠れてびっくり箱的な事もできるのか。

「……何か、変な事を考えている気配なのだわ。役に立つ事も多いけど、余計な事を考えたら今回の氷のように手間が増える事だってあるのだわ」
「ソ、ソンナ……ヘンナコトナンテカンガエテイナイヨ」

 むぅ、役に立つ結界の応用法になりそうだったのに……けど、変な事と言えば確かにそうだし、穴を塞ぐ氷のような予想していない失敗があるかもしれない。
 とりあえず誤魔化すために片言っぽくなりながら、エルサを誤魔化してとりあえず今考えた事は頭の隅に追いやっておく。
 いずれじっくり考えてみよう、面白そうだし。

「と、とにかく、このままじゃ入れないしとっとと壊す? 斬り裂くかな? なんとかして排除しよう。なんなら俺がやるけど……」
「ここまで来たら、私達がやるわ。ね、フィネさん、リネルトさん?」
「はい。リク様にお任せした方が、簡単だとは思いますが……私達にできる事であれば、私達で」
「そうですねぇ。アマリーラ様も言うと思いますけど、お手を煩わせる程じゃないと思いますから。お任せ下さいぃ」

 誤魔化すように本題に戻って、不思議な感触の壁への対処をするように皆を促す。
 特に何もなさそうだから、俺がやっても良かったんだけど、モニカさん達は最後まで自分達でやりたいようだ。
 頼られないのはちょっと寂しく感じるし、皆も疲れていると思うけど……任せる事にしよう。
 ただちょっと、リネルトさんの言っている事はアマリーラさんが言いそうな事でもあって、なんとなく獣人ってそうなんだなぁと思うったりもした。

 そういえば、戦うというだけの意味じゃないけど力の強い人が尊重されるというか、尊敬されるんだったっけ。
 リネルトさんも獣人だし、アマリーラさんみたいにわかりやすくなくともその片鱗は見え隠れしている気がする。
 魔力とかドラゴンとの契約とかがあっても、それ以外は大した人間じゃないんだけどなぁ……その魔力やら何やらが、重要っぽくはあるけども。

「それじゃ、皆に任せるよ。けど、このままじゃやりづらいだろうから……ちょっとだけ待っていてね」

 やる気のモニカさん達に任せるのはいいとして、俺達が今乗っている結界は穴を塞いでいた氷の表面までしかない。
 だから、手を伸ばして不思議な感触の壁に触れるのも、結構ギリギリだし剣や斧を振るうのには不便だ。
 モニカさんの持つ槍なら届くだろうけど、足場になる結界を作った方がやりやすいと思うから、三人に言って待ってもらい、新しい足場になる結界を作り始める。

「……っ! つぅ……!」
「リクさん?」
「どうしたのだわ?」

 足場となる結界を作ろうと、慣れた感じでイメージを脳内に浮かべようとした瞬間に襲い掛かる、これまで以上の大きなノイズと頭痛。
 思わず顔をしかめて、こめかみを手で押さえる。
 急な痛みに漏れる声に対し、モニカさんとエルサが反応。
 ここで心配をかけちゃいけないと、バレないように歯を食いしばって痛みを我慢、足場結界を発動させた――。


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