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リクがいた事で良かった事もある

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「まぁ、誇っていいとは思うが、それもリク殿らしく傲慢にならないので、我々としては安心できるといったところか」
「そうですね。――リク様、もしリク様がこのセンテに来なければ、多くの被害……場合によっては壊滅していた可能性が高いのです」
「えっと……それは一回目の包囲された時にという事でしょうか?」
「はい。私は完全に優勢になってから応援に参りましたので、報告としてしか知りませんが、魔物の規模、完全に街を取り囲まれていた事などから、もしもリク様が来ていなければどうなったか、楽観視はできません」

 俺が来なければ二回目のヒュドラーやレムレースは来なかったわけで……かと思えば、マルクスさんは一回目の魔物に囲まれた時の話を始めた。
 確かに多くの被害を出した魔物による包囲だけど、俺がロジーナの隔離から抜け出すためにかなりの日数が経っていても、持ち堪えていたのに。
 被害はもっと大きくなっていたかもしれないけど、俺がいなくてもなんとかなったんじゃないだろうか?
 それこそ、その後のヒュドラーなどによる被害を合わせても、もっと少なくなるくらいには。

「ふむ、わからないと言った表情になっているな、リク殿」
「まぁ……」
「リク殿がいなかった場合の事を考えるとだな……我々はそもそもに、侯爵軍をセンテに駐屯させる事もなかっただろう。私もここまで来ていなかった」
「そういえば、シュットラウルさんがセンテに滞在しているのも……」

 俺がいるからだったっけ。
 ハウス化するための農地の事以外にも、ヘルサル防衛戦後に強引に俺を勧誘しかけたのを謝ったり、軍の訓練をするためだったりだ。

「侯爵軍がいなければ、センテはもっと簡単に蹂躙されていたでしょう。そして、私達王軍も駆け付ける事はできなかった」
「報せを王都に送る事もできなかっただろうな。何せ、完全に包囲されているのだから、伝令を送る事すらできない」
「そこは、アマリーラさん達もですけど、多くの人がヘルサルまでの道を切り開くために頑張りました」
「モニカ殿の言う通りだ。だが、侯爵軍がいないとなれば、道を切り開こうと考える余裕すらなかっただろう」

 色々と偶然が重なった結果だけど、確かにシュットラウルさん達が言っているようになってもおかしくないか。
 ロジーナは、俺が隔離結界を抜け出す……少なくともエルサを外に出すまでの間に、センテは大半が壊滅的な被害を受けていると思っていたみたいだし。
 俺の行動を監視していたんだから、侯爵軍がいる事はわかっていたと思うけど。

「リク殿は包囲された当初いなかったが、侯爵軍の駐屯にモニカ殿達の奮闘など、リク殿が来てくれていたからの事だ」
「そもそも、リク様がこちらに来なければモニカ殿達も来ていませんでしたからね」
「うむ。そうして、結界的にリク殿が戻って来るまで持ちこたえる事ができた。被害はあれど、壊滅と比べるまでもないだろう。もちろん、リク殿が戻って来るまでにエルサ様の奮闘もあったからもあるが」

 モニカさん達も戦力になっていたのは、話を聞いているだけでもよくわかるし、ヒュドラー戦の援護をしてくれた時にも感じていた。
 色んな協力や支援、状況的な事があったとしてもあれだけ強力な魔物を相手に、ほとんど引く事なく戦い続けてなおかつ討伐もしているんだから、戦力外なんて事はないだろう。
 俺が戻って来るまでにも、そうして全力で戦ってくれていたのは間違いないわけだからね。

「……あの時は、魔力を使い過ぎていたから回復が間に合わなかったのだわ。リクもまだ戻って来ていなかったしだわ。門を壊したのは申し訳なかったのだわ」

 いつもより小さな声で、シュットラウルさん達に謝罪するエルサ。
 これまでだったら、内心で申し訳ないとか後悔していたとしても、門を壊していても自分のやった成果を誇っていただろうに……本当に素直になったんだなぁ。

「いやいやエルサ様、エルサ様がいてくれたおかげでリク殿の作った壁まで、魔物を押し返せたのです。門が壊れたのは痛手ではありましたが、エルサ様がいてくれなければ街中に魔物の侵入を許していたでしょう」
「そうよエルサちゃん。魔物が街に侵入していれば、守るのはもっと難しくなっていたし、結果的に門も壊されていたわ」

 シュットラウルさんとモニカさんが、エルサに対して答える。
 モニカさんは微笑んでエルサを撫でながらだ。
 あの時、破壊神としてのロジーナと戦ってエルサは魔力を限界近くまで使っていたからなぁ……無理矢理隔離から抜け出したけど、それでも振り絞って頑張ってくれたんだろう。
 エルサはこれまで、人の事をどうでもいいみたいなフリをしていただけで、やっぱり皆の事が好きなんだろうな……キューの存在が大きな理由の気もするけど。

 ちなみにエルサは、俺から流れる魔力以外でも自力で自然回復する事ができる。
 ただ、あまりにも多くの魔力を使ってしまうと、俺と初めて会った時のように自然回復ができなくなって、いずれ魔力が枯渇してしまうとか。
 今回エルサは、隔離結界から抜け出した後も、意識が飲み込まれた俺の所へ来るまでにも、とにかく頑張ってくれていた。
 あとでキューをたらふく食べてもらって、労わないとな……割といつもの事ではあるけど。

「……ちょっとこそばゆいのだわ」
「でも、嬉しいんだろ?」
「そ、そんな事ないのだわ!」
「リクさん、もうちょっとエルサちゃんの可愛いところを見ていたかったのに……」
「ははは、ごめんごめん」

 俺の頭の上で、小さく呟くエルサに指摘すると、プイッとそっぽを向くような動きが伝わってきた。
 さすがにまだ恥ずかしさもあって、素直じゃない所も残っているらしい、いつものエルサだね。
 けど、モニカさんには注意されてしまった……確かに、素直に皆への好意を示して隠さないでいるエルサは、可愛いかったかもと苦笑いしながら謝った。
 ……わかっていたけど、エルサはツンデレだなぁ。

「失礼な事を考えている気がするのだわ……」
「いやいや、何も考えていないよ、うん」

 考え全てがエルサに流れるわけじゃないけど、それでもなんとなくツンデレとか考えたのが伝わったらしい。
 とりあえず、誤魔化しておく。

「まぁともあれだ。魔物がセンテを包囲して襲い掛かってくる、この事が避けられない以上我々はリク殿のおかげで、こうしていられるというわけだ」
「リク様がいなければ、もっと多くの犠牲者が……考えるにも恐ろしいくらい、出ていたでしょう」
「そうだな……一人で国や世界を相手取る事ができるというなら、逆に言えば魔物に対してもその影響だけで多くの成果をもたらすというわけでもあるかもしれん。例えば……」

 そうしてしばらくシュットラウルさん達による、いかに俺が今回の戦いで貢献したかが伝えられる。
 ちょっと……いやかなり照れ臭い。
 途中からモニカさんも加わっていたから、尚更だ。
 結局のところシュットラウルさん達が言いたい事をまとめると、俺がセンテに来た事で侯爵軍が駐屯していて魔物に対して拮抗する事ができたってわけだね――。


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