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突然の告白?
しおりを挟む「おかえりなさいませ、リク様。そして私からの永遠の忠誠を……」
「……え?」
モニカさんと宿の中に入った直後、跪いて俺を迎えたのはアマリーラさん。
目を覚ましたんだ……と思う以前に今何か、とっても重要というか思わぬ事を言われた気がする。
いや、向かえてくれるのは嬉しいんだよ。
跪いているけど、なんというかそういう対応も慣れたし。
でも、永遠の忠誠って……そもそも、アマリーラさんの忠誠を向ける先は、シュットラウルさんじゃないか。
獣人傭兵のアマリーラさんを、お金で雇っているだけとも言えるけど。
誰かに雇われている時に、別の誰かに忠誠を誓うのはさすがに裏切りみたいに感じられないかな?
まぁ以前にシュットラウルさんの目の前で、アマリーラさんが俺に似たような事を言っていた気もするけど……さすがにその時は、忠誠を誓うとかじゃないか。
「と、とりあえず落ち着いて下さい、アマリーラさん。それと立って下さい……俺に対して跪く必要はありませんから」
「私は落ち着いています、リク様。一度寝て、深くリク様にもっと献身をと考えた次第でございます。いつの間に寝ていたのか、定かではありませんが……リク様に救われたこの命、私の身も心もいかようにもお使いください」
寝ていたのは、俺が勢い余ってコキッと意識を刈り取ってしまったせいだけど……こうして元気でいるから、あの時の事は気にしなくて良さそうだ。
それはともかく、相変わらず跪いたままのアマリーラさんは、とんでもない事を言っている気がする。
「身も心もって……」
「……リクさん?」
戸惑っている俺に、真後ろからモニカさんの視線とささやきが突き刺さる。
俺が求めたわけじゃないんですけど!?
こういう時、責められるのが男側なのはなぜなのかという理不尽……失礼ながら、小柄なアマリーラさんに対して邪な気持ちを抱いた事は一度もないはずなのに。
……そりゃ、毛並みの良さそうな尻尾をちょっと触ってみたいと思ったりはしたけど。
「……リク、だわ?」
「痛い痛い。頭を思いっ切り締め付けるのは止めてくれエルサ!」
今度は頭にくっ付いているエルサから、理不尽な締め付け。
ギリギリとの脳内に響く音は、それだけ強くエルサが力を入れているからだろう……かなり痛い。
「まったく、だわ。リクがモフモフ好きなのはわかっているけどだわ、私というものがありながら……だわ」
俺がアマリーラさんの尻尾を触りたいと思っていた事を、察したかららしい。
エルサのモフモフを堪能するために、あちこち触り過ぎると怒るくせに……やはりツンデレか。
以前なら、こんな事もエルサは言わずに黙って締め付けるだけだっただろうけど。
「そこまでですよぉ。アマリーラ様、リク様達が困っているのでかき乱すのは止めましょうねぇ」
エルサや、未だに背後から俺に視線を突き刺しているモニカさんに対してだけでなく、跪いたままのアマリーラさんとか、この状況そのものをどうしようか。
なんて考えていると、どこからともかく現れた……というか、階段の途中から飛び降りてきたリネルトさんが、アマリーラさんの後頭部にそのままの勢いで手刀ををかました。
手刀は縦ではなく、横から当てて通り過ぎるてアマリーラさんの前に着地。
「たっ! 何をするリネルト、痛いじゃないか……私は、かき乱してなどいないぞ。ただただ、リク様にこの身を捧げようと……」
頭を右手で抑えつつ、リネルトさんを睨むアマリーラさんだけど、結構な勢いだったのにそれだけで済むんだ。
当てる瞬間、リネルトさんが加減したのかもしれないけど。
「それがかき乱しているって言うんですぅ。本当にリク様の身を捧げるのであれば、もっとちゃんと手順を踏んでからにして下さいよぉ。アマリーラ様のは、大事な事をすっ飛ばし過ぎなんですってぇ」
「手順を踏んでいるから、こうしてリク様に跪いているのだ!」
「今のアマリーラ様、跪いていませんけどねぇ?」
「それはお前が……」
「まぁまぁアマリーラさん、落ち着いて……」
目の前で突然言い争い……怒っているのはアマリーラさんだけっだけど、ともかく言い合いを始めたので、手で落ち着くように示しながら二人、特にアマリーラさんの方を抑えるよう声を掛ける。
「はっ! リク様、申し訳ありません。リネルトの馬鹿者が乱入してきた事によって、少々取り乱してしまいました……」
「えっと……いや、むしろ助かったんですけどね」
「誰が馬鹿者ですかぁ。馬鹿者はアマリーラ様ですよぉ?」
俺の声にに一瞬だけハッとなったアマリーラさんは、再びその場に跪いた。
またさっきと同じ構図になってしまった……。
しかしリネルトさん、ワイバーンに乗って戦闘に参加していた時はキリッとしていたのに、こういう時でものんびりとした口調なのは変わらないんだなぁ。
それは、俺が意識を取り戻した時もそうだったけど。
「だ、誰が馬鹿者だ!」
跪き、頭を垂れていたアマリーラさんがガバっと顔を上げ、リネルトさんに叫ぶ。
リネルトさんの方は、それを受けて少しだけ表情を引き締めた。
「アマリーラ様がですよぉ。わかっているんですかぁ? 私達獣人は傭兵としてここにいるんですよぉ。今、誰に雇われていますかぁ? お金を介した関係とはいえ、雇い主は誰ですかぁ? 侯爵様ですよねぇ? リク様ではありません。そりゃ、リク様の力の一端を見れば獣人としては絶対服従を誓いたくなるのもわかりますけどぉ……」
そこはリネルトさんもわかっちゃうんだ。
戦闘という意味だけでなく、とにかく力を貴ぶ習わしの獣人。
だからこそ、リネルトさんもアマリーラさんの考えがわかるのかもしれないけど、さすがに絶対服従というのはどうかと。
それにしても、まるで姉が妹を、母が娘を叱るような雰囲気を醸し出しているリネルトさんだけど、やっぱりそれでも口調はのんびりしているんだな。
戦闘中は、特別だったのかもしれない。
あと、大柄なリネルトさんは俺よりも身長が高いくらいなので、小柄でユノより少し背が高いくらいのアマリーラさんだから、傍から見ていると姉妹や母娘のような感想を抱いても仕方ないのかもしれない。
尻尾や耳は、牛と猫で全然別物だけど……ちなみにリネルトさんが牛だ。
「確かに、シュットラウル様には雇われているが……だが、それは傭兵としてだ。リク様に対して都は違う。私はリク様に傭兵としてではなく、私として忠誠を……」
「同じ事なんですよぉ! 戦える獣人は傭兵……これは同じく獣人の傭兵を雇っている人や国では、そう認識されていますぅ。いかにアマリーラさんがリク様に雇われたわけではなく、自ら忠誠をといったところで、他はそう見ないんですぅ。ただでさえ、傭兵はお金があれば簡単に寝返ると言われているんですからぁ」
後で聞いた話、傭兵がお金で雇われる兵士だというのは、当然の事。
だから、何かしらの争いが起こって相手方に傭兵がいたら、より高いお金を積んで引き入れる……なんて事も行われているらしい。
それを良しとしない傭兵もいるにはいるらしいけど、一部のみ。
だから傭兵は簡単に寝返る私兵として、正規兵からは蔑まれる事もあるとか――。
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