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エルサの豪快な寝相で正気に戻る

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「むにゃーむにゃ、だわぁ……だわだわぁ」
「エ、エルサ……?」

 再びエルサの声が聞こえて、ベッドへと目を向けると……お座り状態の後ろ足で、体をベッドに対し垂直になるようになったエルサが、再び背中から倒れた。
 寝言と言うにはあまりにもな叫びと動き、実は起きているんじゃないかと疑って様子を見ていると、聞こえるのは規則正しい寝息。
 なんだったんだ……とりあえず、エルサはちゃんと寝ているので間違いないようだけど。
 寝言を言うくらいはこれまでにあったけど、ここまでの事は一度もなかったのに……。

「「……」」

 顔を見合わせて、沈黙する俺とモニカさん。
 なんとなく、気まずい雰囲気が流れているような……。

「……エルサちゃん、寝ているみたいね」
「うん……寝言というか、あんな事これまでになかったんだけど……」

 視線を逸らすモニカさんに釣られて、というか俺も気まずかったので別方向に視線を逸らしながら答える。
 なんだろう、ついさっきまではジッとモニカさんを見つめられていたのに……むしろ、いつまででも見つめられるとすら思っている部分があったのに、今はまともに見られない。

「えーっと……」

 もしかしたら、俺もさっきのモニカさんみたいに正気じゃなかったのかも。
 いやでも、言葉にした想いや誓いに関しては雰囲気に流された部分があれど、嘘じゃないし今も胸の中にある。
 形としてある物じゃないけど、お互いに話した事は胸に刻まれていると言っていいはず……俺はそうだけど、モニカさんもそうだといいなぁ。

「……ご、ごめんなさいリクさん! こんな遅くまで!」
「あ、いや……」

 慌てた様子で立ち上がるモニカさん。
 思わずモニカさんに視線を戻して、手を伸ばすけど……途中で止まった。
 顔だけでなく、首まで真っ赤になったモニカさんに気付いたからだ。
 恥ずかしそうに視線を逸らしているモニカさんを見て、俺も同じようになっているんじゃないかと思うのと同時に、鼓動が一際大きく跳ね上がった。

「リクさんも疲れているのに……」

 意識が飲み込まれていた間、俺の体は眠っていなかったらしいのでなんとなく寝不足からくるだるさは感じるけど、眠くて仕方ないと言う程じゃない。
 けどモニカさんはそれを気にしているかのように言って、部屋の扉へと体を向けた。

「は、話し込んでしまってご、ごめんなさい。で、でも話せてあ、安心したわ。そ、それじゃ!」
「あ、モニカさ……俺も、俺も安心したよ。あ、ありがとう!」

 恥ずかしさからだろうか、何度かどもりながら声を出しつつ扉に向かう。
 止めようと声を掛けようとしたけど、途中で諦め……引き留めて、何を話していいのか俺自身もよくわかっていないからね。
 とにかく、こうして来てくれた事、ちゃんと話せた事など、感謝を伝えなきゃと思ってなんとか声を出した。

「あ……うん。私からも、ありがとう。じ、じゃあ……おやすみ、リクさん」
「お、おやすみ、モニカさん」

 扉に手をかけて、開ける直前に俺の声が届いたモニカさんが止まり、言葉を返してくれる。
 そして、一瞬だけ振り返って赤い顔のままだけど、にこりと笑ってお休みの挨拶をし、俺からも返してモニカさんは部屋を出て行った。
 ……最後、俺はちゃんと笑えていたかな?
 エルサの声がしてからは、戸惑いや混乱、どうしていいかわからないといった表情になっていたと思うけど、できればモニカさんを見送る時には笑顔でいたかった。

 だって、モニカさんも笑顔だったんだから。
 なんとなく、胸のあたりに温かさを感じて俯く。

「あ、笑えていたみたいだ。良かった……」

 自分の顔に手を当てて、笑えていたと気付きホッとした。
 静かになった部屋の中、俺の呟きとエルサの寝息が響いている。
 心臓はようやく穏やかになり始めていたけど……それでも、いつもより早くそして強く脈打っていた。
 その動悸は、緊張や不安などの嫌な鼓動ではなく、心が躍るような気持ちを湧かせる鼓動のような気がする。

「モニカさん、か……」

 ほとんど無意識に口から出るモニカさんの名前。
 それと同時、また鼓動が大きく跳ねた。
 理由は深く考えなくてもわかる。
 ただその事に、言い知れぬ恥ずかしさを感じて誤魔化すように、カップに残っていた水を飲み干し、ベッドで寝息を立てているエルサの横に倒れ込んだ。

 赤くなっているだろう顔は、まだ熱を持っているし、心臓の鼓動も完全には落ち着かないけど、目を閉じるとこれまでにない幸せな気持ちが広がる気がした。
 エルサのモフモフを抱き締めながら、転げ回りたい衝動を抑え込みつつ、寝ていなかった欲求に飲み込まれるようにして意識を手放した……。




 ――意識が浮上する感覚。
 目が覚める予兆なのだと自覚する。
 でも少しだけ惜しい感覚。
 なんだろう、夢を見ていた気がする。

 これまで夢といえば、あまりいい印象のないものばかりで、嫌な事が起こる前兆みたいでもあった。
 夢なのかどうかすらわからないものもあった。
 けど今は、今回は、幸せな、思わず口が綻んでしまうような幸せな夢を見ていた気がする。
 どんな夢だったかは思い出せないけど……でもとても楽しい夢だったと、そう思えた。

「ふふ、幸せそうに寝ているわね」
「寝坊助なだけなのだわ。起きたらガッチリ掴まれていて、逃げられなくなっていたのだわ……」

 声が聞こえる……。
 とても聞き慣れた声で、俺は声の主を間違いなく知っている。
 そのうち一つは、すぐ傍から聞こえるような。
 二つとも距離が近いのだけど。

「まぁ、エルサちゃんはリクさんの癒しみたいなところがあるから……特にモフモフしたところが。私も、気持ちはわかるし」
「確かに自慢だけどだわ、そこだけを癒しにしないで欲しいのだわ」
「あら、嬉しいんじゃないの? 私はちょっと羨ましいけど……」
「う、嬉しくないなんて、言っていないのだわ。でもモニカは、私とリクのどちらを羨ましがっているのだわ?」

 二つの声の会話。
 穏やかなようで、片方が少しだけ焦っているような?
 でも、聞いているだけで安心する声だ。

「ん……モニカ……さん」
「っ! わ、私の名前を……?」
「私を抱き締めて逃がさないようにしておきながら、モニカを呼ぶなんていい度胸なのだわ」

 夢見心地というのだろうか、実際に夢を見ているような……声を聞きながら、夢と覚醒の間で口を突いて出た言葉。
 ぼんやりしていてよくわからないけど、口にするだけでも温かい何かが意識の中で広がるのを感じる。

「リ、リクさんは、一体どんな夢を見ているのかしら?」
「そんなの知らないのだわ。とにかく、早く私を話すのだわー!」
「ん……?」

 期待するような、恥ずかしがるような声と、急かすような別の声。
 急かす方の大きな声が俺の耳に突き刺さる……うぅん、いい気持だったのにうるさいなぁ。

「いい加減にしないと……こうなのだわぁ!」
「ちょ、ちょっとエルサちゃ……!?」
「なん……へぶっ!!」

 すごく近くから叫び声が聞こえたと思った瞬間、閉じている瞼すら透けて来る光。
 腕に感じていた、ものすごく安らぎを与えてくれえる極上の感触が広がり、大きくなり……硬い何かが俺の顎に打ち付けられた!
 一体何が――。


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