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話の内容にフィリーナ退室
しおりを挟む「えぇ。本人の意思は関係ない。生命活動に突き動かされるように、貪って、ただただ生きるために口にしたわ。しかも、食べられるかどうわからない魔物の肉を。それも、人間を襲って食べた魔物をね……」
「「「……」」」
先程までの話しより、衝撃という意味では薄いけど……生々しく俺達の想像をかき立たせ、ただただ言葉を失わせる。
魔物は、オークなどに代表されるように食材として利用されるのもいる。
けど当然ながら、調理するどうかに関わらず食べられないのもいるし、調理する事でようやく食べられうというのもいる。
レッタさんの村に押し寄せた魔物が、どういったものかはわからないけど、もし人間を食べているような魔物がいると考えたら……食べたいとは思えない、食用になる魔物だったとしてもだ。
まぁ、種族によっては人間も魔物を食べるんだから、魔物が人間を食べる事に関しては、忌避感はあるけどどうこう言うつもりはないけどね。
お互い様、とまでは考えられないけど。
「あぁそうそう、言い忘れていたけど……レッタが生き残ったその場所は、人間と魔物が入り乱れていたの。魔物も人間も、見分けが付かない程に。そして、レッタは本能のみでほとんど考えずに生きる事だけを優先している。そんな状況で、レッタは本当に魔物 だけを食べていたのかしら?」
「……それは……しかし、記憶では魔物の肉を食べた、という事なのだろう?」
再びロジーナの問いかけ。
シュットラウルさんは顔をしかめつつ、雰囲気に飲み込まれそうになりながらも、なんとか答えた。
「えぇ、レッタの記憶ではね。レッタ自身は覚えていないし、記憶では魔物の肉を食べたようになっているけど……それが本当に魔物の肉だったのかは、レッタ本人にしかわからないかもね」
つまり、レッタさんの置かれた状況で魔物か人間かを判別していたかどうかは、定かではない。
記憶はそうでも実際は……とロジーナは言いたいんだろう。
人間の記憶なんて、思い込みで変える事ができたりするからね。
「レッタは思い込みが激しいから……」
「そこで、レッタという人物の話に戻るのか……」
鼻から息を出しながら、ロジーナが肩を竦めて言い、シュットラウルさんが苦々しく呟く。
「……うっ!」
その時、急に誰かが立ち上がり、座っていた椅子を倒して床に当たる音が響いた!
「フィリーナ!?」
「私が行こう」
「ごめん、お願いソフィー!」
土気色と言うのか、顔色を極端に悪くしたフィリーナが立ち上がっていて、両手で口を押えていた。
そして次の瞬間、部屋の外へ駆けて出て行く……モニカさんがフィリーナを呼んだけど、それすら振り払って。
ゆっくりと立ち上がったソフィーが、フィリーナを追うために部屋を出て行こうとするので、後ろから声を掛けてお願いしておく。
俺も同じく立ち上がろうとして、というか中腰にまでなっていたけど……こういうのは同じ女性が良さそうだ。
「モニカさんや、フィネさんは大丈夫? ユノは、大丈夫そうだけど」
「私への心配がないのだわ……」
ソフィーがフィリーナを追うのを見送った後、念のため顔色が悪くなっているモニカさん達にも声を掛ける。
エルサは、気にしないわけじゃないけどこういう話に飲み込まれたり、のめり込んだりしないから大丈夫だろうと思っていた……予想通り、暢気な声が返ってきたからね。
「私は、なんとかね。さっきリクさんの話を聞いていたからかしら。リクさんが隣にいてくれるのもあって、平気とは言いづらいけれど、大丈夫よ」
「かなりきついのは確かですが、このような極限の状況に置かれた人の行動などは、話しに聞き及んでいますので……」
「聞いていて気分が良くないのは確かなの。けど、長く人を見てきたから、似たような事は知っているの」
モニカさんは顔色を悪くはしていても落ち着いていて、大丈夫そう……俺がいてくれると言われたのは、ちょっと照れ臭いけど。
フィネさんも、同じく顔色が悪いけどこちらも大丈夫そうだね、冒険者や騎士として近い状況の話を聞いていたからだろう。
ユノは……まぁ、亀の甲より……というのは怒らそうなので、考えないでおく。
でもそうか、ユノが言ったように何度も似たような事例を見た事があるから、ロジーナが最初によくある話……なんて言っていたのかもしれない。
数年や数十年なら珍しくても、数百年や数千年なら何度かあってもおかしくはないし、多分。
あくまで、似たような話としてだけど。
それにしても、フィリーナはエルフで長く生きているし、他の人達よりも自然と接して生きて来ていたから、一番大勢があると思っていたんだけどな。
いやでも、ある意味だからこそなのかもしれない。
自然界では弱肉強食なんだろうけど、共食いや同族食いは当然忌避される事。
同族で争う事もある人間とは違い、数が少ないのもあって基本的に同族とは争わないエルフだからこそ、もしかすると同じ人間を……というのは響いてしまったのかもね。
「どうする、話を続ける?」
「……フィリーナとソフィーがいないけど、続けて。あの二人には、後で伝えておくから。分厚いオブラートに包んでだけど」
「オブラート……?」
俺達の様子を見たロジーナからの問いに、頷いて先を促す。
これまで以上の話があると覚悟は決めて、フィリーナ達にはやんわりと伝えるようにしよう……また気分が悪くなってもいけないからね。
オブラートに包む、という言葉にモニカさん達が首を傾げていたけど、一応ロジーナには伝わったようだ。
エルサやユノもわかっているみたいだ。
「そう、わかったわ。とは言っても、さっきみたいな話はこれ以上……あったかもしれないわね」
「どっちなんだ……」
「気分がいい話じゃなくても、私にとっては取るに足らない事なんだから、仕方ないじゃない。人がどう受け止めるかなんてわからないわ」
まぁ、ロジーナの感覚からすると、俺達がどんな話で気分を悪くするかはっきりとわからないんだろう。
人間の体で、多少なりとも思考がそちらに引きずられているといっても、やっぱり中身は破壊神だから。
「とにかく、話を続けるわね……」
それからのレッタさんは、とにかく生命活動を意識する事に努めたとの事だ。
二日間くらい、飲まず食わずで呆然としていたから、弱ってもいたんだろう……十日間くらい、植物に囲まれていたのに、少し疲れとかを感じる程度だった俺自身の事は、あまり考えない。
とにかく、ある程度経ってからレッタさんは、村を離れる事にしたとか。
人里離れた場所であり、このままそこにいても助けなんて来ないからと考えたのか、それとも何かを求めてなのか……論理的な考えからでもないかもしれない。
ロジーナは、レッタがなぜそういう行動をとったかまではわからないらしい、記憶を覗いたといってもぼんやりして混濁している物であり、その時何を考えていたかまではわからないみたいだ。
そうして故郷の村を離れたレッタさんだけど、女性がほとんど準備もなしに一人で旅をというのは、過酷だったようだ――。
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