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帝国の帝位

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「それはつまり、皇帝……前皇帝になりますか。あの方が死亡したという事ですか? もう随分な年齢でしたから、それも無理はありませんが……」

 そういえば、第一皇子……と呼ぶのもなんとなく嫌な気がするから、クズと呼ぼう。
 俺の偏見だけど、悪の帝国、その第一皇子と言えば大体鼻持ちならない、自分中心の嫌な奴だからね……あれ、クズとそう大差ないか、まぁいいや。
 とにかくそのクズが生まれたのは、父親の皇帝が結構なお歳になってからと聞いた覚えがある。
 詳しくはわからないけど、それから数十年……クズが今三十代から四十代くらいらしいから、かなりの高齢だろうから、亡くなってしまう事だってあるか。

「いいえ、違うわ。帝国は少し前に皇帝が退位したのよ。本来は王位とは違って、皇帝は死ぬまで帝位を退く事がないのが通例みたいだけど」

 前皇帝が、帝位を譲ったのか……。
 それはつまり、譲らざるを得ないくらいにまで追い詰められたとも言えるのかもしれない。
 話を聞く限り、クズによって傀儡のようになっていたイメージだったから、当然とも言えるのかもしれないけど。

「皇帝が退位など……いえ、そうせざるを得ないよう、第一皇子が実権を握って行ったのでしょうか」
「そうよ。レッタを含めた、多くの人を巻き込み、利用してね。多分今、皇帝だとかは関係なく、帝国であれに逆らえる人間なんていないんじゃないかしら?」

 ついにロジーナ、現皇帝かもしれない相手をあれ呼ばわり。
 まぁ俺も、心の中ではクズと呼んでいるから大差ないけど。
 破壊神にすら嫌われる程の性悪さって、逆にすごいのかもしれない。

「もしかすると、帝国との国境付近も含め、何やら向こうに動きがある様子だったのは、そのせいなのかもしれません……」
「あぁそうかもね。実質的な実権は既に握っていたとしても、新体制になるわけだから」

 さっきマルクスさんが言っていた事も、皇帝が変わった、もしくは変わる事に備えての事だったのかもね。
 なんにせよ、新しい皇帝になったのならどんな事をして来るかわからないから、警戒して当然だし油断はできないけど。

「しかし……バルテルの凶行から、王都の魔物襲撃と侵攻準備が空振りに終わり、むしろ立場が悪くなっていると思っていたのですが……」
「一時的にはね。でも、そんなもの責任を追及する人間がいなくなれば関係ないわ。今帝国では、あれに逆らえば粛清と称して処刑されるわ」

 そんな事をしていれば、いずれ反乱や革命が起きて悪い意味で歴史に名を刻んでしまう。
 こちらの世界では違うのかもしれないけど……。
 とにかく、国境付近に軍を集結させて侵攻の準備を整えていた事に対しては、無理矢理抑えつけたといっていいようだ。
 追及する人間がなくなればという事は、裏を返せば消されたとも言えるかもしれないし。

「典型的な悪政だね……」
「それをするだけの力があるのよ。それに、レッタも協力していたからね」

 レッタさんがいれば、魔物を扇動するに近い事ができる。
 しかも研究によって今は、魔物の復元などで扇動だけでなくある程度の行動を指示する事すらできるみたいだからね。
 これまでの事を考えると、レッタさんが近くにいなくても復元する際に、味方として植え付けた人物を襲わないくらいだ。
 クズ自身にどれだけの力があるかは知らないけど、自由に魔物を扱えると考えれば、帝国の人達が逆らえないのも納得か。

 リーバーなど、ワイバーン達の例もあるから完全に帝国が魔物を自由にというわけじゃないんだろうけど、帝国内ではそう喧伝されていてもおかしくない。
 実際に、自由に扱えているように見せかけてもいるだろう。
 そうした方が、国民に恐怖と絶対性を植え付けられるから……多分ね。 

 けど、ロジーナが話したようにレッタさんは帝国、それもクズに対して強い復讐心を持っていたのに、どうして協力していたのか……。
 そりゃ、捕まってあれこれされて……とかあったのかもしれないけど。

「そこが疑問だな。話を聞いていれば、帝国に与する理由が全く出て来ない。強要されて、というならばあるかもしれんが……リク殿の話しを聞いている限り、その様子はないようだが?」

 俺が疑問を口に出す前に、シュットラウルさんが言ってくれた。
 他の皆も気になっているようだ……シュットラウルさんが言わなくても、誰かが疑問として口に出していただろうね。

「そうですね。レッタさんが誰かに強要されている印象は、受けませんでした」

 というより、俺が受けたレッタさんの印象はロジーナに従う者だ。
 帝国に協力をしているのかもしれないけど、帝国のために動いているわけではない……ような気がする。
 ただ、やっている事は帝国と協力しているからこそなので、疑問には変わりない。

「そこはまぁ……あれよ。えーと……」
「どうしたんだ、ロジーナ?」
「まぁ、色々あってね? 私も全てを見通していたわけじゃないから……」

 レッタさんが帝国側に付いている理由を聞くと、しどろもどろになるロジーナ。
 目も泳いでいるし……こういった反応は初めてだ。
 一体どうしたんだろう?

「素直に、自分のせいって言うのロジーナ。私はなんとなく読めたの」
「うるさいわね、あの時いなかったくせに……だから私が接触したんじゃない。まったく……」
「え、どういう事だユノ? ロジーナのせいって……?」

 やれやれと言うようにロジーナに言うユノ。
 それに対しロジーナは、バツが悪そうにしながらも言い返していた。

「レッタはロジーナに従う事にしたの。つまり、今回リクを狙ったような計画で、世界を破壊する事にしたの。最初にロジーナが言っていた、世界を呪っているに繋がるの。それと、破壊するというのはつまりロジーナに繋がるの」
「急にロジーナが出てきたな……まぁでも確かに、これまでの話しでは出て来なかったから、どこで知り合ったかは不思議だけど」

 よく考えてみれば、これまでの話しでロジーナが出てきた何かしらの干渉をしていたりはしていなかった。
 ロジーナが、レッタさんの話を捻じ曲げたり、部分的に隠しているとかでなければね。
 ユノの様子を見るに、隠していたら見抜きそうだし……多分話してくれた事に嘘はないんだろう。
 という事は、どこでロジーナと接触して俺に謂れのない汚名を着せるくらいまで、心酔するようになったのかだ。

「……はぁ。あれは、ロジーナが捕まってからの事よ。記憶は混濁していても、かろうじて正気を保っていたロジーナはただただひたすら、全てを呪っていたの。全てが壊れてしまえばいいって」
「それは……そうなるのも無理はない、のかもしれないけど」

 むしろ、かろうじてであっても正気を保っていられた方が凄い、と思うべきなのかもしれない。
 捕まってからどんな事をされたのか、詳細はわからなくてもなんとなく察する事はできるし、そこから考えるに、心が壊れてしまってもおかしくはないと思えたから。
 両親や姉さんがいなくなって、その記憶を封印してしまう俺だったら、絶対に耐えられなかっただろうね……あまり比べる事ではないかもしれないけど――。


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