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渋々ながら了承

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「話を聞こうともしないレッタを、リクも見ているでしょ? 復讐に駆られた女は怖いわよ?」
「いや、男女関係なく怖いし、そもそも俺は復讐の対象じゃないんだけどね……」

 ロジーナといる事は、あまりレッタさんの復讐とは関係ないはずだ。
 ……クズへの復讐の方策を授けたり、上手くいくよう協力していたのはロジーナで、拠り所のようにしているから、関係あるのか?
 ま、まぁ少なくとも、俺自身とは直接関係ないはずだ、多分。
 でも、今心の中で認めたように、ロジーナとは直接関係あるし俺の事をロリコンとまで呼んだ時のレッタさんを思い出すと、無理矢理引き離しておくのは得策じゃない気がしてならない。

 それこそ、他のどんな事より一番レッタさんが何をして来るのかわからない状況になりかねない。
 はぁ……これは、認めるしかないのかな。
 というか多分、俺に断るという選択肢はないんだろう、ロジーナを任せられたのに頷いた時から。

「わ、わかりました。レッタさんは俺が保護? 監視? とりあえず、おかしな気を起こさないように見ておきます……」
「おぉ、やってくれるか! さすがリク殿だ!」
「ありがとうございます、リク様!」

 気は乗らないけど、頷いて了承したらシュットラウルさんとマルクスさんから、凄く嬉しそうな顔を向けられた。
 二人共、レッタさんの処遇に関しては本当に頭が痛い問題だと考えていたんだろう。
 レッタさん一人だけでなく、ロジーナからの圧力みたいな笑顔と、さっきも言っていたように確実に対処できる人が他にいない、というのも大きいか。
 人を集めて、レッタさんの周りを厳重に固めれば多少魔物を誘導して襲われても、なんとかなるとは思うけど。

 これからの事を考えたら、レッタさん一人に対して多くの人を付かせるわけにはいかないからね。
 帝国が、何をして来るかわからないし……ここまで来たら、衝突は避けられないだろうというのもある。
 そのための人員を割くわけにもいかないから。

「もちろん、ただリク殿に任せるわけというわけではないぞ!」

 そう言って、レッタさんを俺に押し付ける申し訳なさを減らすように、シュットラウルさんから条件が提示された。
 レッタさんを保護や監視するといっても、当然人一人分……ロジーナもいるから、二人いるわけで。
 その手間や諸々の費用なども含めて、定期的に国から報酬が出される。
 シュットラウルさんが全て決められない部分もあるので、もし王都側で報酬の支払いに難色を示すようであれば、侯爵としてシュットラウルさんが出すとか。

 マルクスさんは、本当に難色を示すような事はないだろうから大丈夫と言っていたけど。
 ただし、直接渡すのは色々と問題があるため、冒険者の依頼達成報酬として冒険者ギルドを通してとなる。
 まぁ、どういう形かは気にしないし、ちゃんと支払ってくれるのなら助かるからいいんだけど。
 その他にも、侯爵領内での優遇措置みたいなのもあるみたいだ。

 何故か途中から、モニカさんやフィネさんを交えての交渉が始まり、俺は蚊帳の外になったけど……まぁ、そういう話に疎いというか安請け合いしそうだから、モニカさん達が頑張ってくれているんだと思おう。
 悪い条件を押し付けて来る人達じゃないし、むしろ多くの条件と優遇を付けようとするのを、モニカさんとフィネさんが留めているという感じだけども。
 ……なんだか、交渉というにはあべこべだなぁと感じる。

「はぁ……」
「リク」
「ん?」

 モニカさん達が話しているのを、他人事のように眺めながら溜め息。
 そんな俺に、ロジーナが話しかけてきた
 ユノとエルサは、相変わらず睨めっこ中……意外にも、ユノが優勢のようだ。

「私が言うのもなんだけど、安心していいわ。レッタにはよく言っておくから。少なくとも、リクに突っかかるような事はさせないわ」
「本当に……?」

 負の感情を誘導して俺へと向かわせた時の事を考えると、ロジーナの言葉をそのまま信じるのは難しい。
 ロジーナの言葉さえ、耳に入ってなかったようだからね。

「ま、まぁ、目を覚ましてすぐはしばらく、リクは近付かない方がいいと思うけどね。その間に、私が強く言い含めておくわ」
「それなら、大丈夫なのかな?」
「えぇ、約束するわ。それと、これからよろしくね。私とレッタは、多分また母娘の関係と偽ると思うわ」
「こちらこそ、でいいのかな? とりあえず、母娘としていた方が面倒な説明はしなくて良さそうだからね」

 一緒に行動しているのを、別々に説明するよりも母娘として一緒に説明した方が手っ取り早いからね。
 とはいえ、何故レッタさん達母娘と一緒に? と聞かれたらなんて言おうか悩むんだけど。
 護衛依頼を受けているとかでいいかな? まぁこれは、後で皆と相談しよう。
 でも、ロジーナが素直に俺にお礼を言ったのには少し驚いた。

 以前ロジーナからレッタさんの事を聞いた時、他の人より気にしてはいる風だったけど、大事に思っているような感じじゃなかったから。
 さっき話していないような事で、レッタさんとロジーナの間に何かあるのかもしれないな。
 その辺りは、追々聞いてけばいいかな――。


「はぁ、なんとなく解放された気分……」

 シュットラウルさん達との話を終え、フィリーナやソフィーとも合流して、俺達は隔離結界の外へでて大きく息を吐く。
 氷を解かす作業をするためだけど、一度ちゃんと見てどういう状況かを把握するためでもある。
 地面はカチカチに凍っていて寒いけど、レッタさんの話などがあって閉塞感……というか、陰鬱とした気持ちになっていたのが薄れていく感じだね。
 晴天で明るい日差しが降り注いでいるのもあるけど。

「この寒さで、よくリクさんは平気でいられるわねぇ。でもまぁ、気持ちはわかるわ」

 息が白くなるくらいの気温で、体を震わせているモニカさんも、開放感を感じているみたいだ。
 別に俺は寒いのが平気というわけじゃないんだけど、予想はしていたからなんとかね。
 ちなみにレッタさんは、まだ目を覚ましそうにないので引き続きリネルトさんとアマリーラさんが監視している。
 もし目を覚ましたらすぐさま俺かロジーナを呼ぶ手筈になっているけど、基本的にはロジーナが対応する。

 俺が行ったら、また刺激しそうだからね……ロジーナからも、しばらくは近付かない方がいいって言われているし。
 エルサやユノ、ロジーナの診断では早くても今夜に目を覚ますかどうか、くらいなのでとりあえずは安心だ。
 それと、アマリーラさんに関してはシュットラウルさんが、直接話しに行く事にもなっているとか。
 昨日宿に戻った直後の事を、リネルトさんが報告していたらしい。

 なんとなく行動の予測は付いていたみたいだけど、雇い主としては溜め息が止まらない様子だった。
 色々な事が一気に起こって、シュットラウルさんが心労で倒れないか少し心配。
 まぁ、マルクスさんもいてくれるみたいだから、大丈夫だろうと思っておこう。

「この、身を切るような冷たさが、むしろ気分を強制的に変えてくれるようで、私も悪くないわ。全身が氷と一体化するような……」

 なんて、フィリーナの呟きも聞こえた――。


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