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魔法が使えないのは門を開いた影響

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「今のリクが魔法を使えるわけないじゃない」
「その通りなの」
「俺が魔法を使えないって……?」

 当然の事のように言うロジーナに、ユノが同意する。
 わかりきっている、みたいな事を言っているけど……。

「な、なんで魔法が使えないんだ?」
「はぁ……リクは門を開いたの。この世界そのものと、そして世界の外とを繋ぐ門を。しかも二つも」
「門って……なんとなく覚えてはいるけど」

 覚えているというか、その時にかろうじて意識があったというべきか。
 実際に門を開いたのは、俺の意識を飲み込んだ負の感情だけど……って二つ?
 えっと……あぁそうか、魔物を消滅させた赤い光と、力を吸収して増殖する植物、緑の光か。
 俺がちゃんと覚えているのは、赤い光までだけど。

「門は世界の根幹と、世界の外とを繋ぐ門なの。本来この世界の人が……人じゃなくてもだけど、何者にも開く事はできないの」
「で、でもユノとロジーナは? 白い光だっけ? あれも門を開いたからで、だから魔法が使えるようになるまでが遠のいたみたいな事を言っていたよね?」

 俺を助ける時、植物に穴を開けてモニカさん達を突入させるために、使ったと聞いている。
 使ったというか開いただけど。
 無理矢理使ったから、魂と人間の体の適合が遅れて……とかだったはず。

「もしかして、俺の魂とかと体がユノ達と同じようにって事?」
「それは違うの。リクは生まれた時からリクとして、その体と魂を持っているから適合とかではないの」
「最初から一体ってわけ。だから、私とユノみたいな事にはならないわ」
「……それじゃ、どうして俺が魔法を使えなくなるんだ?」

 ユノ達と状況が違うのなら、門を開いたから魔法を使えなくなるという理由にはならないわけで。
 一体どうして、俺は魔法を使えなくなったんだ?

「リクは……あの時は意識を飲み込まれて乗っ取られていたわね。私の目の前で使い始めたけど……正直、詠唱が滅茶苦茶だったわ。でも、成し遂げた。それは、複数の意識のなり損ない、魔力のなり損ないでもあるけど、レッタが誘導した魔力になりかけの負の感情が入り込んだからね」
「本来門は、一人の体と意識……魂の欠片と言い換えられるけど、それだけでは絶対に開かないの」
「俺に負の感情が入り込んだから、か」

 門を開けた理由はそういう事なのか。
 詠唱が滅茶苦茶だったという部分、内容まではさすがに覚えていないけど……なんとなく、普段はやらない呪文の詠唱みたいな事をやっていたのは覚えている。

「えぇ。リクはあの時、複数の意識を持って一つの条件が揃ったわ。そして、滅茶苦茶な詠唱でも異常と言える魔力で無理矢理こじ開けたのよ」
「多分、エルサとの契約でドラゴンの魔法が使えたのも原因なの。開かない門なら、無理矢理こじ開けるようにって」
「複数の意識が入り込んだから、一人の意識とか魂の欠片じゃなくなったってわけか。そしてそれを魔力で……ん? でも、一人の体じゃ絶対に開かないってユノが今言ったよな?」

 意識を魂の欠片と言い換えられるのなら、複数……数百や数千の意識が集まれば、それは複数の魂になり得るのかもしれない。
 だからまぁ、一人分の魂ではなくなってロジーナが言うように、片方の条件はそろったんだろう。
 でもそれじゃ、もう一つの一人の体では開けないという条件に引っかかる。
 どれだけ意識が入り込んでも、俺の体は一つしかないのだから。

「それを、魔力で無理矢理成し遂げたのよ。いい、リク? 門を開く条件は三つあるわ」
「三つ……?」

 話を聞いている限りだと、複数の体と複数の魂が必要……それは多分、一人では絶対に開けないという言葉の意味でもある。
 それぞれが一つの条件になっているけど、つまりどれだけ必要かはともかく複数の人が集まれば、条件がそろうって事だ。
 でももう一つの条件ってなんだろう? 多分それが、誰も知らないどれだけの人が集まろうと、全ての条件を満たさないための鍵なんだろうけど。

「一つは体、もう一つは魂。それらが複数集まって条件を揃えたうえで、最後の条件。詠唱よ」
「正しい詠唱を全ての体と魂を一つにしたうえで唱える事で、門が開くようになるの」
「全ての体と魂を一つに……正しい詠唱、か」
「門を開く詠唱は神にしかわからないわ。この世界の人は誰も知らないし、知ったとしても一瞬で記憶から消える。モニカ達に確かめればわかるけど、私とユノが門を開いた時の詠唱は、その言の葉をもう覚えていないはずよ」
「それってつまり、元々神様が使うためって事?」
「そうなの。本来は神が集まって、世界に何かしらの手を入れるための方法なの」

 神様しかわからない詠唱なら、実質的に神様しかできない事になる。
 だからさっきユノは、この世界の人に限らず生き物全てが絶対に使えないと言ったんだろう。
 イメージとしては、神様が世界に干渉というか天罰を落とすとか、そんな感じだろうか。
 まぁ、神が集まってという事は、神様でも単体で使えないという事でもあるわけで……天罰だろうと世界に下す審判だろうと、合議制のように複数の神様が実行する事を同意しなければいけないって事だろうね。

 どの神様も、単独では使えない力とも言える。
 だから、破壊神のロジーナもその力を使えず、回りくどいやり方で干渉力を使いつつ世界の破壊をもたらそうとしていたってわけか。
 ロジーナが単独で使えるのなら、さっさと門を開けば簡単に世界の破壊ができるだろうし。

「んでまぁ、リクは本当の詠唱を知らないはずだけど……」
「多分、地球からこっちの世界に来た時に、少しだけ触れたんだと思うの」
「あぁ、だから滅茶苦茶な詠唱だったのね。触れた事で魂に刻まれたけど、全ては覚えられなかったってところかしら」
「えーと……?」
「つまり、余所の世界からきたから、その移動の際にほんの少しだけリクは詠唱を知ってしまっていたって事。まぁ、記憶として残る物じゃないけど……一番は神のいる場所に、ほんの少しでもいた影響でしょうね」
「そういえば……」

 はっきりした事はわからないけど、ユノと初めて話した時……神の御所だったっけ? 本来人間が入れる場所ではなく、入ったとしても長くはいられず、強制退去か何かをさせられる場所、という認識でいいかな。
 ともかく、あそこに行った事で記憶には残らなくても、俺は門を開けるための詠唱を少しだけ知ってしまったと。
 特別な空間だから、知った後完全に忘れる事はなかったと。

「その詠唱を、ドラゴンの魔法で無理矢理捻じ曲げたってところかしら。簡単に言うと、詠唱をするための魔法ってとこかしらね」
「リクの意識を飲み込んだ負の感情が、リクの中にある門を開くための詠唱の破片に気付いたんだと思うの。それを、ドラゴンの魔法でイメージする事で作り変えて……きっと魔法として詠唱を完成させたの。だから、本来とは違う滅茶苦茶な詠唱でも、門を開く事ができたの」
「魔法で詠唱を……」

 イメージした事を、魔力を使って現象として引き起こすのがドラゴンの魔法。
 だったら、門を開くための詠唱をするという魔法を、イメージして作り出したって事だろう、多分。
 そうする事で、口から出る詠唱はロジーナが聞いた時点では滅茶苦茶であったとしても、門に届く詠唱は正しいものになる……とかかな――。


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