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ヘルサルとの連絡役を引き受ける

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 ヘルサルに行く冒険者ギルドの関係者はヤンさんのようだけど、そうなると、国側もそれなりに格のある人に同行しないと……というまた面倒な話にもなっていたらしい。
 最終手段は、マルクスさんかシュットラウルさんが自ら行くという案だったらしいけど、それも単独では無理だから人が足らないと。
 どうするか話し合っている時に俺が来たようで、だからちょうどとマルクスさんは言ったみたいだね。

「成る程、それじゃ俺がヘルサルに行きますよ。様子も見ておきたかったし」

 センテに来て以来、ヘルサルの方がどうなっているのか一切見ていないからね。
 まぁ、あっちに魔物は行っていないみたいだから、大きな被害とかはないだろうけど。

「助かります。もしかしたら、王軍からさらに応援が来ている可能性もありますので……リク様なら、話しも通しやすいかと」
「え? マルクスさん以外にも、王軍が来るんですか?」
「えぇ。リク様がいらっしゃるにもかかわらず、センテからの応援要請などが届きましたので。ただ事ではないと。さしあたり、急遽用意できる兵士と物資を持って、リク様と面識のある私が応援として派遣されました。ですがもし、予想を上回る何事かが起きていた場合を考えて、私からの連絡などが途絶えた場合には、さらなる応援をとなっていたのです」

 つまり、マルクスさん以下約千人の兵士さんでもどうにもできない事態が起こっていた場合に備えて、という事だね。

「センテが魔物に取り囲まれた時からだが、確かに王都や我々でも予想できない事態にはなっていたからな。大きく上回り過ぎだと思うが」
「リク様が対処できない事態、とも予想されましたので私が出発した後も、王軍派遣の準備はしていたかと。それで……最後に報せを送ったのが、ヒュドラーに関してなのです」

 俺の無事などは確認したけど、ヒュドラーが複数体迫ってきているのは、歴史に残る大事件らしいから報せを送るのは当然だね。
 その報せを持った伝令が、かなり急いで王都に到着し、準備をして待ち構えていた王軍が出発した可能性があると。
 ヒュドラーと戦う作戦などは、俺とも話し合ってある程度なんとかなると想定はしていても、状況が状況だから王都が軍の派遣に踏み切っている可能性が高いとマルクスさんは予想しているようだ。
 というかそもそも、連絡を送ったのはヒュドラーを複数発見したとの第一報くらいなので、戦うための作戦だとかはなく、むしろ絶望感の方が多い報告になってしまっていたとか。

「リク様の話しでは、外ではヒュドラー戦から約十日が経っているとの事でしたので……」
「そうですね……多分そのくらいです」

 正確な日数はわからないけど、穴を開けて外と繋がるまで、隔離結界の内外では時間の流れが違った。
 そのため、内部では一日も経っていないのに、外では十日以上が過ぎていたとか。
 まぁ、俺は意識を飲み込まれていたので正確なところはわからないし、モニカさんが俺の体を乗っ取っていた意識から聞いた話なんだけど。
 ただあの状況で、乗っ取った意識が嘘を吐くとは思えない……意識がリクであると偽っていた事を除いてね。

 それに、ロジーナやレッタさんが植物に囚われて力を吸収されてからの、弱り方を見て大体そのくらいだと診断していたから、間違いじゃないだろう。
 診断したのは、ロジーナ本人とユノ、それからエルサだからこっちも間違いないと思う。
 つまり、送った報せが急いで王都に届け、そこから軍を派遣して強行軍で駆け付けた場合、大体十数日経っている今は、ヘルサルに到着しているか付近まで来ている可能性があるって事だ。

「率いているのは、ヴェンツェル様から私と同等の者。ヴェンツェル様には、できれば前線に向かわず王城でおとなしくしていて欲しくはありますが……」
「あーははは。ヴェンツェルさんなら、確かに自分が大軍を率いると言っても、おかしくないですね」

 マルクスさんの言葉に苦笑しながら、頭の中にヴェンツェルさんがマルクスさん以上の大軍を率いたうえで、さらに先頭を馬に乗って駆けている姿が思い浮かんだ。
 後方でおとなしくしているよりは、しっくりくる想像だった。
 シュットラウルさんもそうだけど、どうしてこう筋肉に頼りがちな人は自分の地位とか関係なく最前線に身を置こうとするんだろう?
 いやまぁ、筋肉を信用しているからこそなんだろうけど……つまりこれが脳筋というものか。

「ヴェンツェル様でなくとも、他の大隊長クラスが来るのは間違いありません。そういった者達は当然リク様を知っていますので話が通しやすいかと」

 頭の中でヴェンツェルさんやシュットラウルさん達に、少しだけ失礼な事……でも大きくは外れてなさそうな想像をしつつ、マルクスさんの話を聞く。
 末端の兵士さんならともかく、上の方の隊長格であれば俺の顔も知っているという事だろう。
 場合によっては、話した事もあるかもね。
 王城では多くの兵士さんと顔を合わせたり、ちょっとした話くらいはした事があるから。

 そう思って、まず真っ先に浮かんだのはハーロルトさんだけど、あの人は情報部隊というものとヴェンツェルさんの副官みたいな立場だから、大軍を率いる感じではなさそう。
 それに確か、姉さんの命令で今は国境を越えて帝国に行っているはずだし。
 隔離されたりなんやかんやで、四、五十日は経っているため、もしかしたら王都には戻ってきているかもしれないけども。

「わかりました。それじゃ俺は、冒険者ギルドでヤンさんと合流して、ヘルサルに向かいます。もし王軍が来ているようだったら、そちらにも話をします」
「はい。リク様であれば、安心して任せられます。こちら、王都宛て、ヘルサル宛ての書簡です。王軍がいれば王都宛てはそちらに。いなければどちらも、ヘルサルの代表に渡して下さい」
「はい、確かに」

 マルクスさんから、木の筒に入った書簡を二つ受け取る。
 王都宛ての方には、筒に装飾がしてある少し豪華な物なのでわかりやすい。
 渡す書簡を間違えたらいけないからな。

「私達は、引き続きヘルサル以外への報せを送るよう手配しよう」
「よろしくお願いします」
「あ、少々よろしいでしょうか?」

 シュットラウルさんに頷き、マルクスさんから渡された書簡を持って冒険者ギルドへ向かうため、部屋を辞そうとしたら、ソフィーが片手を上げて主張。
 何かあるのかな?

「私は、ヘルサルへ向かっても特に意味がありませんので……何か、この街にできる事はありませんでしょうか? その、私は魔法が使えませんので……」

 書簡を届ける役目に、絶対自分が必要というわけではないからか、ソフィーは他のやれる事をしたいようだ。
 まぁ、いてくれると俺が心強いというのはあるけど、できる事があるのならそちらを優先した方がいいか。

「ふむぅ……魔法が使えない者ができる事か。リク殿、何かないか?」
「いや、俺に聞かれましても……」

 話を振られても、俺自身何かないかと聞きに来たんだから、別の案があるわけじゃない。
 首を振って何もないと否定した――。


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