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アイススパイクの試作品

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 庭の騒がしさは、解消作業から解放されたカイツさんが何かやっているのかなと思うけど、解氷作業を手伝っていたのに元気だなぁ。
 まぁカイツさんにとっては、ワイバーンとあれこれやるのは疲れを忘れる事なのかもしれないけど。
 ちなみに、一緒にヘルサルに行った他のワイバーン達は、兵士さん達に任せて再び街北の駐屯地へ行ってもらっている。

 顔見せみたいな感じだけだったけど、センテとヘルサル間を飛んで往復してもらったから、ゆっくり休んで欲しい。
 ともあれ庭の様子が気になりながらも、まずはと建物の中に入る。

「おかえりなさいませ、リク様」
「ただいま戻りました。モニカさん達は……」
「皆様、庭の方で……」

 大きな建物に入るとすぐ、お世話をしてくれる執事さんやメイドさん達に迎えられる。
 その人達に答えつつ、モニカさん達の事を聞くとどうやら皆は庭にいるとか。
 だから騒がしかったのか……カイツさんだけってわけじゃなかったらしい。
 夜中に庭で何をしているんだろう? という疑問を執事さんに尋ねて教えてもらいつつ、俺も皆に戻った事を直接知らせるため、一部の荷物を預けて庭へと向かう。

 フィネさんは、マックスさんから受け取った料理などをメイドさん達に渡したり、休むために建物に残った。
 庭に出るまでに執事さんから聞いた話によると、靴に取り付けるアイススパイクの試作が終わったため、試しているのだとか。
 もうできたの? と驚いたけど、とりあえずの試作品だし構造自体は単純なので、そこまで時間がかかる物でもないようだった。

「お、リク。戻ったか」
「リクさん、ちょうど良かった!」
「あ、うん。ただいま。モニカさん、ちょうど良かったって……? えっと、どういう状況?」

 庭に行くと両手両足を地面に付ける、いわゆる四つん這いになって荒い息をしているカイツさんと、地面にへたり込んでいるフィリーナ……あと、ソフィーもか。
 それらの様子が目に入って戸惑う俺を、遅くなった事に気が向かないのか迎えてくれるモニカさん達。
 でも何がちょうど良かったんだろう?

「今、ソフィーが持ち帰ってきた道具を試していたんだけど……」
「リクが言っていたアイススパイク、だったか? それの試作だ。鍛冶の親方衆は、グラシスニードルと名付けたみたいだが」
「グラシスニードル……まぁ、呼び方はなんでもいいんだけど」
「そうだな。それで、その試作品を試験して欲しいと言われてな。いくつか持って帰って来たんだ」

 そう言って足を上げ、自分の靴に取り付けた物を見せるソフィー。
 靴底を少し小さくしたような形の金属板、その左右に金具の接続部が取り付けられ、革のベルトで靴に取り付けられるようになっている。
 金属板の所々には、同じく金属の突起があり、それが氷を穿って滑らないようにするための物のようだ。
 穿つ部分、つまり突起は想像していたよりも先が尖っておらず、平べったいと言えばいいのだろうか?

 ニードルと名付けられているようだけど針ではないし、野球のスパイクを彷彿とさせる形だね。
 まぁあれもグリップ力というか、滑らずに足を踏ん張るための物ではあるので、大きく外れてはいない……かな?

「ただそれ、先端部分しかついていないけど……」

 ソフィーの靴に取り付けられているグラシスニードル、靴底全体に金属板はあるんだけど、土踏まずよりもつま先部分方面しかニードルがない。
 滑る時に一番力の入りやすい部分ではあるけど、できればかかとの方にもニードルがあって初めて、ちゃんとした滑り止めになると思うんだけど。
 ちなみに、金属板の端に取り付けられている金具の接続部に革のベルトを繋げて、それを使って靴にくっ付けている。
 ベルトは細めの紐のようになっていて、結ぶ強さで調整するみたいで、足の大きな人や逆に小さい人にも対応できるようにしてあるんだろう。

「だから試作品だな。今頃、全体に取り付けるように親方衆が頑張っているところみたいだ。構造は単純らしいが、意外と大変そうだったぞ?」

 まぁ、靴底に取り付ける大きさだからね。
 靴なんて人によって足の大きさが違うし、今回はできるだけ多くの人が使いまわせるように、平均的な靴よりも小さく作ってあるみたい、というのがソフィーの靴底に取り付けられているグラシスニードルを見てわかる。
 オーダーメイド、サイズを測って一人一人大きさの違う物を用意している余裕はないから仕方ない。

 ただ、その分一度作れば量産するのもあまり困らないとは思うけど、多分。
 ともあれ、試作だからまだ靴底全体にニードルが付いていないってわけか。

「じゃあとりあえず、今の段階で本当に滑らないか確かめてってところ?」
「あぁそうだ。だがまぁ、確かめようにも私を含め、カイツやフィリーナもこの調子でな……」
「はぁ……はぁ……日中に酷使され、さらに宿に戻ってからも酷使されるとは……」
「文句言わないのカイツ。私だって、ずっと魔法を使い続けていたんだから……はぁ。正直、魔物と戦うとか、リクの結界を破るとかよりも辛いわ。まぁ、今はクォンツァイタでの補助をしていないのもあるのでしょうけど」
「えっと……?」

 試作したグラシスニードルを試すというのはわかった。
 けど、だからってソフィーやカイツさん、それにフィリーナも疲れて地面にへたり込んでいる理由がいまいちわからない。
 カイツさんなんて、四つん這いのままで今にもそのまま力尽きそうだし……。

「皆が、限界近くまで魔法を使ったからってのはなんとなくわかるけど。でもソフィーまで?」
「私は、この魔法具があったからだな。カイツやフィリーナ程ではないが、協力せざるを得なかった」
「それは、いつも使っている剣だよね?」

 首を傾げる俺に、ソフィーが示したのは抜き身の剣。
 ヒュドラー戦の時に支給されたワイバーン素材の剣ではなく、これまで使て来ていた愛用の剣だね。
 魔法具になっていて、魔力を通すと氷系の魔法が発動する。
 ん……氷? グラシスニードルが必要なのは、地面が凍って滑るからで……。

「試作したグラシスニードルを試すために、地面を凍らせル必要があったんだ。まぁ、外に出ればいくらでも凍った地面はあるんだが、わざわざ行くよりもここで済ませようとな。何の変哲もない地面にという事なら、私達が試さなくても親方衆でも試せるし、協力すると決めた以上これくらいはやって見せないと」
「あー、成る程。だから、カイツさんやフィリーナも……」

 日中、散々氷を解かすために魔法を使い続けて、休めるはずの宿の庭でさらに魔法を使う事になったのだから、へたり込む程疲れるのもわかる。

「地面を凍らせ続ける、というのがどれだけ困難か実感させられたわよ。それを、街の周辺一帯凍らせるリクが、どれだけ異常なのかというのもね」
「一部だけ凍らせるのは簡単なんだ。それを、長く凍らせたままにしておく……少なくとも、グラシスニードルを取り付けた靴でうえに乗って試すくらいの間を、凍らせておくのが難しい」
「そういえば……」


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