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アンリさんの過去
しおりを挟むあ、でもヘルサルでクラウリアさんが破壊活動をした時に、アンリさんはヘルサルにいたっけ。
あの時はクラウリアさんの反応と、爆発する街の建物に意識が行っていて気付かなかったのかもね。
もしかしたら、探知魔法自体ではその反応が返って来ていたのかもだけど、魔力が増えた関係で範囲が広がって、全て把握するのは難しいんだよね、言い訳だけども――。
「けどなんで……あの斧を使っている、それだけで私の魔力が多いってわかったの……?」
「それは簡単です。俺も同じだからですよ。あ、魔力が多い理由とかは違いますけど……とにかく、異常とか魔力バカとか言われるくらいには、多いんです」
魔力量が多い影響で、身体能力が自分でも意味がわからないくらいに上がっている。
だから、皆が重くて持ち運ぶのを苦労する物であっても、簡単に持てたりするんだよね。
俺程じゃなくても、アンリさんも同じく魔力量が多くて力持ちになっているんじゃないかって、さっきベリエスさんがアンリさん達と話している時、斧に視線をやっていて気付いた。
レッタさんとの話で、多くの人に魔力貸与をしていると聞いたから、引っかかったのもあるかな。
「リクさんもそうなの……それじゃ、もしかして帝国の……!?」
俺が同じように魔力量が多いと知って、魔力貸与された人だと思ったのかもしれない。
異世界からとか、そういう話をアンリさん達にはしていないから、そう考えてしまうのも仕方ないかもね。
「あー、勘違いしちゃうのも無理ないかもしれませんが、俺は帝国とは無関係ですよ。まぁ、色々計画を潰しているので、本当に無関係と言えるかは微妙ですけど。でも、少なくとも帝国側の人間じゃありません、むしろ、敵って言えるのかな?」
ある意味深く関わっていると言えるかもしれないけど、話を聞く限り、というかこれまでアテトリア王国や姉さんにしてきたことを考えると、帝国の……クズ皇帝の味方になろうなんて気は一切ない。
「敵……それじゃあ、この国に来た私を追ってきたとかじゃあ?」
「ないですね。知り合ったのも偶然です」
もしかしたら、アンリさんは帝国の追手というか組織から逃げ出すのもあって、アテトリア王国に来たのかもしれない。
追手に怯えて暴走したクラウリアさんの事もあるし、さっきまでの話だけでなく帝国を離れた理由の一つなんだろう。
「そう、なのね……」
「それでアンリさん、どうしてそれだけの魔力を持つようになったか、教えてくれませんか?」
帝国の事、クズ皇帝の事はレッタさんから聞いているけど、一応アンリさんからも聞いておきたかった。
多分アンリさんは、これまでこの事を隠していた……おそらく、ルギネさん達リリーフラワーのメンバーにも。
だから、誰にでもというわけではないけど、隠さなくてもいいと教えてあげたいと思ったから。
俺は多くの人に支えられて、魔力に関しては特に隠していない……エルサの事もそうだ。
ずっと親しい人達にも言えないっていうのは、なんだか苦しい気がしたから。
「……わからないの」
「え?」
そんな俺の考えはまぁどうでもいいとして、アンリさんは再び俯き、力なく首を振った。
「どうして自分にこんな魔力があるのか……。いえ、原因じゃないけどいつからかはわかっているわ。少なくとも、それまでの私は他のDランクと変わらない、ただの冒険者でしかなかったんだから」
ただの冒険者……つまり、Cランクの今とは違って実力的にもDランク相当だった、と言いたいんだろう。
「いつからかはわかっているのに、なんでかはわからないんですか?」
「えぇ。さっき話したように、怪しい依頼の斡旋を断っていた私は、他の冒険者から嫌がらせを受けるようになったわ。その中で一度だけ、どう考えてもこれまでの冒険者とは別格な奴らが来たの」
「冒険者とは別格……奴らって事は複数だったんですね?」
もしかすると、それは裏ギルドの関係者ではなく、帝国の人間。
クラウリアさんやツヴァイのような、組織の人間だろうか。
「そうよ。その連中は、私をどこかへと連れ去ったの。途中で意識が途絶えたから、どこにかはわからないわ」
無理矢理アンリさんを攫ったって事か。
「次に気付いた時は冷たくて暗い、すえた臭いのする場所にいたの。血の臭いもしたわ。そうね、ここみたいな場所だったかもしれないわ。人が朽ち果てたような空気を感じたもの。ただ、ここよりは確実にいちゃいけない、痛くない場所というのが臭いや空気でわかったわ」
「臭いや空気……どんな見た目かはわからないんですか? その、ここみたいな鉄格子で遮られた部屋がいくつもあったとか」
アンリさんの話には、嗅覚に頼った情報ばかりだ。
目で見た感じの印象とかは、ないのだろうかと疑問に思った。
「体を縛られたうえで、目も隠されていたのよ。だから、見る事はできなかったわ」
「成る程、そういう事ですか」
目隠しされたんだったら、臭いや空気感なんかの感覚に頼らなきゃいけないのも仕方ないか。
「それから、どれくらいかはわからないけど……水も食べ物もなく、放っておかれた頃にそこから出されたの。誰かも知らない、女に連れられて。とはいっても、まだ目隠しはされたままだったから……これからどうなるか、何をされるのか、どこへ行くのかは一切わからなかったわ」
「それは……不安だったでしょうね」
目を隠されている状態で、知らない人に連れられているなんて、不安しか感じない状況だ。
当然、アンリさんも同じく不安でいっぱいだったんだろうと思ってそう言ったんだけど……。
「いえ、不安はなかったは。正確には、不安を感じる余裕もなかった、かしら。今言ったけど、水も食べ物もなかったの。捕まった時のせいか、体中も痛かったし……自分が意識を保っているのかすら、よくわからないくらいだったわ」
体中が痛かったという事は、捕まる時にアンリさんが抵抗したからか、それとも問答無用かはわからないけど、とにかく痛めつけられたって事だろう。
「目も見えない冷たい場所だったし、自分が起きているのか寝ているかすらわからない状態だったから、どれくらい経ったのかわからないけど、多分数日はそのままだった。そんな私に、不安を感じるような感覚はもうなかったわ」
「……」
話してくれるアンリさんは、俯いたまま当時の事を思い出しているんだろう、その時感じた冷たさから逃れようとしてか、自分の体を両手で抱き締めるようにしながら、微かにから体を震わせている。
想像するのもつらい経験、というべきだろうか。
言葉を失う俺やベリエスさん、ギルド職員さん達。
食べ物も水も与えられない状態で、目が見えなく痛みもある状態で放っておかれたら、まともに不安を感じるなんてできるわけがないのかもね。
「アンリに、そんな事が……」
グリンデさんは、そんなアンリさんを見て顔を歪ませて呟く。
「でも、本当に辛かったのはその後……」
「え?」
グリンデさんには答えず、俯いたままポツリと漏らすアンリさん。
まだこれ以上があるって事なのかな……?
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