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アンリさんの話をレッタさんから聞く
しおりを挟む「き……うっ! くっ……はぁ、はぁ! きさ……!」
「ア、アンリ?」
アンリさんの様子が少しだけおかしい気がする。
グリンデさんが苦しそうに荒い息を吐いているアンリさんの背中をさすってあげているけど、あまり効果はないようだ。
「なんにせよ、ちょっとでも反意がありそうな人、意にそぐわない人は、実験台にされるのよ。まぁそんな事をしていたら帝国から人がいなくなってしまうから、全員じゃないけど。ただあのゴミクズは好色でもあるから……標的は女の子が多いわ。この子のようにね」
そんな二人の様子を気にするでもなく話すレッタさん。
達観しているというか、他人に興味がないというか……というより、アンリさんと同じく悲惨な過去を、クズ皇帝によってもたらされているからこそなんだろう。
多分レッタさんは、復讐する目的と、それを与えてしかも助けてくれたロジーナ以外に、大きな興味を引く人はないないんだろう。
一応俺はクズ皇帝をしのぐ魔力を持っている、という事もあってか興味とは少し違うと思うけど、今こうして話くらいはしてくれるけど。
ロジーナやユノ、俺以外の人が話し掛けると、基本的にそっけないか険悪なるかのどちらかみたいだからね。
それは、この数日の間で何度か見た。
「とはいえ女の子が対象だった場合、私があれこれ手を回して、あのカスには手をできるだけ手を出させないようにはしているけど。私も思うところはあったから。さすがにこちらも全員は無理だけど……」
レッタさんに関しては、ロジーナに聞いた部分が多いけど……他人に興味がなさそうではあっても、同じ女性として思うところはあったんだろう。
一応は守るような行動をしていたらしい。
とはいえ、魔力貸与の実験台にするのは止められなかったみたいだけど。
ちなみにクズ皇帝から目を逸らさせる一番の方法として、捕まえてきた後に食事や水を与えないのがあったみたいだ。
アンリさんもさっき言っていたから、証言と一致するけど……そうして、体も精神もボロボロにしておけばクズ皇帝が興味を惹かれないだろうとかなんとか。
結局魔力貸与の実験台になるとはいえ、満足に食事もできて一応は健康でいられるけどクズ皇帝のおもちゃにされるのと、何も与えられずに弱って追い詰められるのと、どちらがいいのかはわからない。
実験に失敗したら、その後は死んでしまうわけだし。
「きさ……ま……がっ……!」
「確かこの子は、魔法が使えない被検体として使われたんだったかしら。魔力貸与をして魔力が増えた場合、魔法が使えるようになるかどうか。なんて意味のない研究だったわね」
アンリさんが、さっきまでの冷や汗を流して震えていた状態から、レッタさんを睨み、さらに大きく震えている。
それにも関わらず、いや気にせず、話を続けるレッタさん。
魔力が増えたら魔法が使えるのかどうか……か。
そもそも、人間が魔法を使えるかどうかというのは、魔法使用のために足りない魔力を周囲から集められる目に見えない器官があるかどうか、にかかっている。
だから、周囲から集めずに多い魔力量でそれをまかなえればと考えたのかもしれないけど……レッタさんの言い方によると、研究その物は失敗したんだろうね。
魔力量で言えば、人間より数倍の魔力を持っているエルフでさえ、周囲の魔力を集める器官があるから使えるわけで……。
エルフなら、必ず持って生まれるから人間とは違って必ず使えるというだけの話だし。
「結局、魔法そのものは使えるようになったけど、使い物になるような事じゃなかったわ……」
なんでも、少ない成功例のさらに少ない魔法が使えない人への魔力貸与成功例。
その人は魔力量が増えた事で、指先程の火の玉を出すくらいしかできず、しかも一度使うと魔力が枯渇しかけて意識を失う事もあったらしい。
魔法具はそれその物が魔力収集を肩代わりしてくれるけど、自前の魔力だけで魔法を使うというのは、それだけ魔力を消耗する事みたいだ。
……俺、周囲から魔力を集めずにドラゴンの魔法を使っているんだけど、消耗する量が同じくらいだとしたら、本当に異常なほどの魔力になっているんだなぁ。
「まぁあのゴミクズの研究はどうでもいいけど。とにかくその子は、実験後すぐに動かなくなったから、廃棄した……ように見せかけた子ね」
「見せかけた?」
「まだ生きていた事は、私だけがわかったからよ。同じような子はいなかったけど……動かなくなっても、息をしていなくても、私には別の方法があるわ。リクの魔力を見たのと同じようにね」
「あぁ……」
魔力誘導の特殊能力があるおかげで、フィリーナ程じゃなくてもその人の魔力がなんとなくわかるとか、そういう感じだったかな。
それで、通常なら完全に死んでいるようにしか見えなくても、レッタさんにだけは生きているってわかったのか……多分、体内にある魔力の動きとかそんなので。
「だから、同じ女として同情心も沸いて、死んだから廃棄した……ように見せかけたのよ。まぁ、まともな場所には置けなかったし、そんな事をしたら私の立場が危うくなりそうだったからね、廃棄場にしか棄てられなかったわ」
「廃棄場……」
さっきアンリさんが、人だったような物が積み上がっている場所、と言っていた所だろうか。
あまり想像したくないけど、実験して使い物にならなくなった……要は失敗したりして死んでしまった人を、埋葬とかではなくただ棄てるための場所ってわけだ。
考えれば考える程、胸糞悪くなるね。
「ちょっとやめてよ。私を睨んだって、意味はないわよ……」
「あ……すみません」
アンリさんだけでなく俺もレッタさんを睨んでしまっていたらしい……。
言われて気付き、他を見てみると、アンリさんを気遣っているグリンデさんはともかく、話を聞いていたベリエスさんや二人いるギルド職員さんもレッタさんを見て、顔をしかめていた。
けど、俺以外の人達にはレッタさんは特に反応しない、そう見られるのも当然と言った風でもある。
それなのに、俺に睨まれると嫌がるのは何かあるんだろうか……?
「リクの魔力に中(あ)てられると、ちょっとどころではなくしんどいわ。そこらの人間なら平気でしょうけど……私は敏感なのよ」
敏感、というのは変な意味ではなく単純に魔力に対して鋭いという意味だろう。
特殊能力のおかげで、他者の魔力を知ることができるからか、俺の魔力を向けたら何かしらの影響があるのかもしれない。
「ふー……ふー……!」
「……アンリさん?」
「ちょっとアンリ、どうしたって言うのよ?」
俺とレッタさんが話している間に、アンリさんの様子がさらにおかしくなった気がする。
荒い息を吐いて、体を震わせているのはさっきと同じだけど、どちらかと言えば恐怖とかからよりも、興奮しているような感じだ。
レッタさんを睨む目には、憎しみのようなものがにじみ出ているように見える。
ちょっと、落ち着かせた方がいいかも……と考えた時には遅かった、もっとアンリさんを注意して見ていた方が良かった、なんて考えても遅かった――。
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