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森の情報
しおりを挟む「それで、森はどうなっていましたか?」
マックスさんと約束したお願いもしたし、とりあえず森の情報をエレノールさんから聞く。
森にいる魔物の種類は、これまでと変わった事はないらしいけど、結構地形などは変わっているらしい。
人が通った後や、魔物が通る事でできる獣道のようなのがほとんどなくなり、森の木々が増えてさらに密集しているとも。
森の範囲自体は半分程度になったけど、密度が増したのか。
もしかすると、よくわからない力を吸い取る不思議植物を出した、緑の光とやらの影響かもしれない。
あんな巨大な植物だし、地下ではかなり広く根が行き渡っていただろうし……植物自体は、力を吸い取る相手が周辺にまったくいなくなり、力の源だった俺が離れた事で自然消滅したみたいだけども。
確か、赤い光の残滓とかで大地が赤熱して高温状態になっていたらしいから、緑の光の残滓で近くの植物が急成長とか、森の木々が新しく生えて来る、くらいの事だってあるかもしれない。
まぁ、想像だけど……機会があれば、ユノとかロジーナに聞いてみるかな。
「あと、特に一種類の魔物の数が増えているとの話がありました」
「一種類の魔物ですか?」
「はい。ラミアウネという魔物なのですが……」
「ラミアウネ……聞いた事があります」
俺は遭遇した事がないけど、冒険者になる前にマックスさんから森に生息する魔物として教えてもらった記憶がある。
確か、蛇の体に花が咲いたような顔を持っているんだとか。
蛇の体で地を這い、木を登り、森の中を縦横無尽に素早く移動するため、障害物が多く視界も遮られる森の中では厄介な魔物の一種らしい。
蛇と花ってところから、俺はラミアとアルラウネが合体したような姿を想像しているけど……教えてもらった時マックスさんに話したら大きく違わないとか。
ただし、俺の知っている物語のラミアとは違い、石化の能力なんて物はない。
その代わりなのか、蛇のような長細い体で巻きつき締め付けて来るらしい……その力は、金属の鎧ごと内部の人の骨すら砕くのだとか。
全長で言うと二、三メートルはあろう体を支えて、木々に登るようなのでそれくらいの力があるとかないとか。
さらに厄介なのが、花部分から放出する花粉。
戦闘状態になると、花粉を放出して周囲に降り注がせる。
その花粉を人が吸い込んだらからと直ちに危険になるわけではないけど、体の内部から徐々に汚染されて咳や嘔吐が止まらなくなって、果てには命が危険になるとか……要は毒だね。
解毒のための薬はあるし、半日ずっと放出される花粉を吸いこみ続ければくらい大量に吸い込まなければ、症状が出る程ではないので弱毒といったところだろう。
ただ本当に厄介なのが、その花粉が地面に降り注ぐ事だ。
花粉から小さいラミアウネが発生し、それらが親のラミアウネと敵対する相手に飛び掛かる。
しかもその小さいラミアウネ……チビラウネという通称があるらしいけど、チビラウネは顔の花に牙の生えた口があるんだとか。
無数に発生したチビラウネに対処しているうちに、さらにラミアウネが花粉を飛ばして弱毒を吸い込み、降り注いだ花粉は別のチビラウネを無数に発生させる。
さらに油断すると、親のラミアウネの体に巻きつかれて、鎧などは関係なく体を折られると……。
「ラミアウネが増えたのもあって、他の魔物達が街方面に逃げ出しているようです。兵士達も、ラミアウネと遭遇する機会がかなり多いとか」
「単体ならなんとかなるでしょうけど、相手は森の中での戦いが得意な魔物ですから。複数と遭遇したら、兵士さん達も苦労するでしょうね」
「はい」
複数のラミアウネがいれば、チビラウネが増える速度も上がるし、花粉の密度も上がって吸い込む量が増えて危険だ。
しかも、木の上や地面といった、上下左右から襲い掛かって来るわけで……森の中での戦闘に慣れていない兵士さん達にとっては、かなり苦労する魔物だろうね。
「火の魔法を使えれば、容易く討伐できるのですが……ラミアウネは火を苦手としますから。ですが、以前森の中でラミアウネに囲まれた冒険者が……」
「それは、危ないですね」
顔になっている花や、蛇の体も含めて火に弱いらしいラミアウネ。
散布される花粉も火を近付ければ簡単に燃えるらしいんだけど、エレノールさんによるとそれで大規模な森の火災を招いた事があるとか。
魔法を使っても、弱めであれば簡単に森の木々に延焼したりはしないはず……まぁそう言っても注意する必要があるのは当然だけど。
ともあれ、問題はラミアウネの花粉。
燃えやすい特性だけでなく、周囲にかなり散布されるため一気に火が付くと爆発するのだとか。
粉塵爆発、というのを聞いた事があるけどそれと同じような物だろう。
そうして周囲に炎が撒き散らされ、火を放った側とラミアウネを巻き込んで大きな炎が発生、森の木々に延焼して……というわけだ。
兵士さん達にもそれは冒険者ギルドから伝えてあるらしいので、多くの網ラウネと対峙する事になっても、弱点のはずの火を使う事ができず苦労しただろうね。
「ですのでリク様も、くれぐれも火を使ったりは……」
「はい、もちろんです。森を燃やし尽くす気はありませんし、そもそも今回は魔法を使わずに、どれだけ戦えるかを試す意味もありますので」
使わないというか、魔法は使えないんだけどね。
まぁそれはともかく、エルサに言われたんだけど訓練も兼ねているので、今回はどんな状況になっても剣だけで対処する。
魔法が使えないからそれしかない、というのが大きな理由だけども。
「ラミアウネに関してはわかりました」
花粉を散布させる前に倒すか、花粉が散布されても親であるラミアウネを倒せば、チビラウネが発生しても消滅するらしいから、魔法なしでも対処不可という程ではないとマックスさんから聞いている。
巻きつかれる事にさえ気を付ければ、ラミアウネ自体はそんなに強いと言われる魔物ではなく、確かDランクとかCランクに届くか、といったくらいの魔物だったはずだ。
「森に関して、他にはありますか?」
「そうですね……フォレストウルフ、オークなど、元々いた魔物が固まっている場所が、複数あるそうです。おそらく、猛威を振るっているラミアウネから、自分達の身を守るためだと思われます」
「成る程……」
森が広かった頃は少数で各所に散らばっている事が多かったみたいだけど、ラミアウネに追い立てられて同一種族で固まったってところだろう。
それでも対処しきれず、一部の魔物はヘルサルに向かって森から逃げ出したのかもしれない。
「あと……これは、一部の兵士のみの話なのですが。少々気になる事を言っていました」
「気になる事ですか?」
「はい。なんでも、森の奥……これまで森だった場所、つまり今森の木々がなくなって凍っている付近で、黒い人のような形に近い影を見た……と」
黒い人のような影……人がそんなところに入り込んでいて、無事でいられるとは思えないから多分人じゃないんだろう。
人型の魔物というのはいるから、もしかしたらそれかな?
森の中に以前からいる魔物に、そんなのはいなかったはずだけど……近い形だと、オークだけど二足歩行というだけで、人影とするにはちょっと微妙だ――。
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