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魔物を倒した直後の油断と奇襲
しおりを挟む「まぁ、なんとかなるかな。それじゃ……これより魔物の争いに介入する!!」
なんて、俺一人しかおらず、誰も聞いていないからこそ格好つけた言い方をして、オークとフォレストウルフの間に割って入った。
誰かいたら、恥ずかしくて言えないからね。
「GURU!?」
「GAFU!?」
「驚いているとこ悪いけど、お邪魔させてもらうよ! っと! んっ!」
「GYAHIN!」
「FUGO!?」
木々の合間を縫って、突如現れた俺に入り乱れていたオークやフォレストウルフの動きが、一瞬だけ止まる。
その隙を利用し、ちょうど木を足場にしてこちらに飛んで来ていたフォレストウルフを、左手の鞘で殴り飛ばす。
さらに、殴り飛ばしたフォレストウルフが狙っていたと思われる、俺の一番近くにいたオークを剣で袈裟懸けで斬り伏せた。
双剣じゃないのに、結局最初から鞘を武器として使っちゃったけど……まぁいいか。
「さて、次々行くよ! はぁ! てい! とぁ!」
などなど、ちょっと自分でも気の抜ける掛け声を発しつつ、フォレストウルフとオークを倒して行く。
乱入してきた俺が人間だからか、それともいきなり攻撃を加えたからか、両種族の魔物達は俺を敵だと認識し、それぞれ襲い掛かって来る。
正面から突進してきたオークを蹴り飛ばし、左側からも来ていた別のオークにぶつけて足止めしつつ、時間差で迫るこれまた別のオークに向かって踏み込み、すれ違うようにしながら剣でお腹から二つに斬り裂く。
後ろから飛び掛かって来ていたフォレストウルフは、上半身と下半身が別れたオークにぶつかる。
さらに左から、オーク達の頭上を飛び越え、フォレストウルフが飛び掛かってきたけど、鞘に噛みつかせたまま力任せに振り回して、真上から迫るフォレストウルフにぶつけ、落ちてくるところを二体まとめて剣で突き刺した。
その他、足下を狙ってきたフォレストウルフを避け、俺も木を足場に使って勢いのままオークを斬り伏せる。
倒れるオークはそのままに、別のオークの体を蹴って飛び上がり、俺に殺到しようとした複数のオークの頭を足場にして、狙いを定めるフォレストウルフに斬りかかった。
魔法が使えないから、一気に殲滅する事はできないけど、着々と数を減らしていく……。
同種族はまだしも、別種族では当然連携なんて取れておらず、むしろ途中でぶつかってその場で争い始める……なんて事もあった。
そうして、最後の一体である逃げ腰で距離を取っていたフォレストウルフに、鞘を投げつけて突き刺して終了、と。
鞘って、突き刺さるんだなぁ……。
「ふぅ。こんなところ……っ!?」
立ち込める血の臭いが充満する場所で、一息ついて剣を鞘に収め……ようとして、視界の隅に異変を発見。
すぐにその場を後ろに飛んで離れる。
「KISYAAA!!」
「ぐっ!」
当然、よく確認もせずに後ろに飛んだため、近くの木に背中を思いっきりぶつけて息が詰まった。
でも、おかげで危険を避ける事はできたみたいだ。
「……あれが、ラミアウネかな」
息を整えつつ、俺がつい一瞬前までいた場所を見る。
そこには、異変、というか違和感を感じた視界の隅から飛び掛かったらしい、ラミアウネと思われる魔物の姿があった。
俺が避けたからだろう、勢い余って蛇の尻尾? の先が少しだけ地面に突き刺さっている。
ただ、蛇の体に力があるというのは本当なようで、突き刺さった尻尾の先から全身をもたげて、顔のような花をこちらに向けていた。
「様子を窺っていたのか……?」
もしかしたら、ラミアウネも俺と同じようにオークやフォレストウルフが争っているのを発見して、乱入する機会を窺っていたのかもしれない。
漁夫の利を得ようというわけだ……そこまで考えられる魔物なのかは知らないけど。
避ける直前、近くの木で動く何かを視界の隅に捉えたから、思わず避けたけど……選択は間違っていなかったんだろう。
「というか、結構気持ち悪いね……」
奇襲を避けられたからなのかなんのか、こちらを窺っている様子のラミアウネ。
体は二十センチ程の細い蛇の体で、その上部には話に聞いた通り花の顔がくっ付いている。
その花は、淡い紫色の花びらが開いていてそれだけなら綺麗といえたのかもしれないけど……その中央部には、黒いブツブツというか小さな穴が無数に開いていた。
どこぞのコラージュ写真で、似たような物を見て不快感を味わった事が以前にあったけど、あの時と同じかそれ以上の不快感が湧き出す。
しかもその黒い穴の奥には、さらに白く小さい何かがギョロギョロと不規則に動いているわけで……穴全てにそれらが見えれば、誰でも不快感を催すんじゃないだろうか?
正直なところ、花粉だとか蛇の体の巻きつきよりも、よっぽど凶悪だと言わざるを得ない。
……夢に出そうだ。
「FUSYURURURU……」
威嚇なのか、日とならざる声を上げるラミアウネ。
というか、穴の奥の白く小さい何かが目のような働きをしているのかも、と想像はつくけど……一体どこから声を出しているのか。
音を発せられるような器官は、見る限りどこにもないのに。
まぁ魔物だし、魔力とか魔法とかあるわけだからそんな疑問を気にし過ぎない方がいいんだろうけどね。
魔法とか魔力で、声や音を出しているのかもしれないし。
「とにかく、威嚇している今のうちにさっさと……って、嘘だろ!?」
動かないのなら、花粉を放出する前にこちらから向かい、討伐してしまおうと考えた瞬間、周囲の木々に絡みついていく蛇の体、そして花の顔が現れた。
いつの間にか、俺を中心に十以上のラミアウネに囲まれていたようだ。
油断した……そういえば、エレノールさんはラミアウネが集団でと言っていたっけ。
あとおそらく、さっきから発せられているこちらを窺っているラミアウネの声は、周囲の仲間を呼んで集める物だったのかもしれない。
これまた、ラミアウネのどこに音を聞き取る器官があるのかわからないが。
同種族の仲間にだけわかるような、超音波的なのも発していたのかも。
「エルサとかがいてくれれば、周囲の様子に気付いていたのかもしれないけど……」
森の中、一人で戦う事の恐ろしさを今、まざまざと感じさせられている、そんな気分だ。
一人である以上、木々に遮られて薄暗く視界の悪い周辺も、油断せず警戒しておかないといけないのに。
いや、誰かと一緒でも油断はしちゃいけないけど、多少は役割分担ができていただろうし、エルサなら音や気配、それこそ今の俺が使えない探知魔法で魔物を探れたはずだからね。
頭にへばりついて、モフモフで癒しを与えてくれるだけでなく、アドバイスも結構してくれていたエルサは、今更ながらにかなりありがたい存在だったんだなぁ。
頼れる相棒だとは思っているし、色々感謝もしているけど、足りなかったみたいだ。
センテに戻ったら、改めて感謝しておいた方がいいかもしれないね。
「って、そんな事を考えている場合じゃないか」
まずは、この場を切り抜ける……というか、大量のラミアウネをどう倒すかを考えないとね――。
応援ありがとうございます!
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