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森に残っていた理由

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「気にしないので、楽な姿勢でいいですよ。それで、どうして森から出ずにここにいるんですか? いえ、別に詰問するわけではなく、一応事情を聞いておこうかなと」

 まだ、残りの二人は戻ってこないし、リーバーは飛んで行ったばかりだから戻ってくるまでに時間がかかる。
 それまで、黙って待っているのも気まずいと思ったので、話を聞いておくのがいいだろう。
 聞いておけば、戻った時に俺からギルド職員さんとかに話す事もできるし。

「え、えーっと……あたし達も、最初は暗くなったら森を出ようと思っていたんです。ギルドからも、その前に受けた講習でも、注意事項として強く言われていましたから」
「ふむ……」

 これまでの行動を思い出すように、目を動かしながら話し始めてくれたのは、剣を二つ腰に下げている女性……パーティのリーダーっぽい人だね。
 確か、俺に取り入って……なんてとんでもない事を言い始めた人だったと思う。
 その人が言う講習って、獅子亭の前でやっていた元ギルドマスターさん達による、森に入る際の心構えやらなにやらを教える会で、それに参加していたのか。
 魔物がいるうえ、今後の作戦などもあるため森の中で夜を明かす危険性も考えれば、強く注意するのも当然だ。

 元々、その日のうちに戻ってくる前提で、出発前の登録とかもあったわけだからね。
 それは、この人達も当然聞いていて意識はしていたみたいだ。

「それで……まぁ、私達にしては順調に魔物を倒しながら、森の中を進んでいたんです。途中、恐ろしく大きな音が進行方向から聞こえたので、方向を変えたりはしましたけど」
「あー、それは……うん」

 進行方向から大きな音、という事は同じ西側から森に入ったアマリーラさん達ではなく、俺達の事だろう。
 俺達、というか俺一人だけど。
 話はソフィー達から聞いていたけど、さすがに直接音を聞いて避けた人に聞くと、申し訳なさが出て来るね。
 既に話を聞いて知っているフィリーナとか、俺にジト目を向けているし。
 いやいや、それでも女性冒険者さん達がこの森に残っている理由ってわけじゃなさそうだし、それで何か被害があったとかじゃないから、問題ないよね、うん。

「リク様、どうかされましたか? あたし、何か悪い事でも……?」
「い、いや、なんでもないです。気にしないで話を続けて下さい」

 俺が微妙な表情をしていたり、フィリーナの反応を見てか、おずおずと俺を窺う女性冒険者さん。
 とりあえず気にしないように、首を振っておいて話の先を促す。

「は、はぁ……えぇとそれで、なんとかかんとか見つけた魔物を倒しつつ、森の東を目指していたんですけど……」

 魔物を倒す、というだけでなくちゃんと処理……討伐証明部位を切り取った後の残りは、土の中に埋めるなどをしていたんだろう。
 それは、女性冒険者さん達自身が汚れている姿を見ればわかる。
 先程、地道に冒険者を続けていたと三人のうち一人が言っていたから、堅実にやるタイプなのかもしれない。
 俺達が見つけた時に話していた事などはともかくとしてね。

「その途中に、ここを見つけたんです」
「ここを?」
「は、はい。こんな開けた場所があるとは聞いていなかったので……皆驚いたのですが、幸い近くに魔物がいなかった事と、森を歩いて戦闘もして、疲れていたのでここで休息を取ろうと」

 この場所は俺が昨日やった事で、一応ヤンさん達にも話してはいたけど、冒険者さん達には知らされていなかったのか。
 他にも共有するべき情報はあるし、特に何があるわけでもない広場の事なんて、後回しになって当然か。
 それはともかく、疲れたから無理をせず休もうというのはわかる。
 基本的に、いつどのようにして休むかは冒険者さん達の自由だけど、木々が密集していて視界が悪く、魔物がいつ襲ってきてもおかしくない状況だと、ゆっくり休めないし。

 その点ここなら、視界が良く昼なら日の光であかるいわけで、しかも近くに魔物がいなかった……もしどこかからか移動してきて襲って来るにしても、広場の真ん中あたりにいればどこから来てもわかりやすい。
 周囲の警戒も簡単にできる絶好の休憩所になってくれたわけだ。
 うん、結果的にそうなったってだけだけど、森の中にそういう場所があるのはいいよね、と自分を正当化しておく。

「まぁ、ずっと歩き通し、戦い続ける、なんて難しいし疲れは動きを鈍らせるから、当然ですよね」

 そう言う俺を、あなたなら気にせずずっと歩いて魔物を探し出し、戦い続ける事もできるでしょう? なんて視線がフィリーナから注がれているけど、気にしない。
 そりゃまぁ、昨日はレムレースと遭遇するまで相当な数の戦闘をしてかなりの魔物を倒したし、一人で森に入ったにしては、移動距離とかも多かったけどね。
 ……今日、モニカさん達と改めて入った時の方が、移動した距離は短かったくらいだ。
 ヒュドラー戦の時とかも北から南に魔物のを倒しながら、走ったりもしていたけど……それはともかくだ。

「それでですね……その……」

 なんとなく、話しづらそうにする女性冒険者さん……もとい「華麗なる一輪の花」パーティのリーダーさん。
 急にどうしたんだろう?

「迂闊にも、ここで話し込んでしまいまして……気づいたら暗くなって、出るに出られなくなったんです……」
「えっと……」
「はぁ……」

 恥ずかしそうにそう言うリーダーさんに、なんて返せばいいのか一瞬迷う。
 フィリーナも、どう言ったらいいのか迷って溜め息を……いや、これは呆れているのかな?

「く、暗くなる前には、森の外を目指そうと話していたんですよ!?」
「で、でも、ここと森の中では違いがあって……その、ここはまだ多少明るくても、森は既に真っ暗だったんです!」
「つまり、この場所基準で暗くなったらと考えていたら、帰るタイミングを逃した……って事ですか?」
「「「はい……」」」

 リーダーさん以外の二人が、俺とフィリーナの反応に焦って言い募る。
 それらを聞いて、まとめた俺の言葉にうつむきながら恥ずかしそうに頷いた三人の女性冒険者。
 ある意味、この広場の罠にはまったというわけか……別に、罠を仕掛けたつもりはなく、ただ単純に戦闘の結果できたんだけど。
 広場は、遮るものがないため森の外程ではなくとも、暗くなるのが遅い。

 日が完全に沈むまで多少は明るさが残っていたのかもしれなし、そのせいで状況の差異に気付いていなかったようだね。
 森の中だと、日が傾き始めた時点でかなり暗くなっていたのに。
 多分、休憩する際に食事などもしたのかもしれないけど、焚き火をしていたのもまた、森との暗さの違いを勘違いする要因になったように思える。
 さらに、俺達が森の中で発見した時のように、内容はともかくいろんな話をしていてそちらに意識が行っていたのもあるのかもな、話し込んでと言っているから。

 女三人寄れば姦しい、ということわざがあるように、話に集中すると長いからな……しかも五人いるわけだし。
 ……これは完全に、俺のイメージだし人数が増えれば話が長くなるわけではないとは思うけど――。

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