1,634 / 1,810
戻って来るのを待つ
しおりを挟む「気付いた時には、森の中は視界が通らないくらい暗くて……あたし達は魔法が使えないので、仕方なくここで夜を明かす事にしたんです。無理に森の外に出ようとするよりは、危険が少ないと考えて」
「成る程、そういう事でしたか」
まぁ、森から出るタイミングを逃した部分はともかく、暗くなってからの判断は間違っていないと思う。
広場では魔物に身を晒している、という考えもあるかもしれないけど、女性冒険者さん達からすれば警戒も迎撃も容易になるだろうから。
ここまでこれた人達なら、森の魔物に襲われてもなんとかなるだろうし。
魔法が使えないから、明りを点ける事もできないわけで……まぁ、松明代わりにそこらの木の枝を燃やして、とかはできるだろうけど、無理をするよりはね。
多分、同じ状況になったら俺も同じように、ここで夜を明かす選択をしていただろう。
……いや、リーバーやエルサがいれば飛んで離脱できるし、、もしかしたら強行して森を出ようとするかもしれないけど。
「とりあえず、事情はわかりました。三人……パーティ全員の五人が無事で良かったです」
危険な目に遭っていたり、怪我をして動けない状況というわけじゃないからね。
とりあえず無事だったんだから、良しとしよう。
戻ったら、冒険者ギルドの職員さんとかに何か言われたりはするだろうけど。
「はい、ご心配をおかけしました……」
「わざわざ、リク様が迎えに来て下さる事になってしまって、申し訳ありません」
「……ちょっと、役得に感じてしまったのも合わせて、お詫び致します」
そう言って、三人が俺に向かって頭を下げる。
役得って言うのはよくわからないけど、まぁとりあえず無事で良かったし、心配はしたけどあまり気にする程でもないかな。
リーバーのおかげもあって、捜索自体はすぐに終わったわけだし。
「俺に畏まったり、謝る必要はありませんよ。まぁ、冒険者ギルドの人達や心配して捜索にあたってくれた人達には、いろいろ言われるかもしれませんし、謝った方がいいとは思いますけど」
「は、はい……承知しています」
元々、緊急依頼の内容として、本日中に森から出て戻るというのもあるんだろうから、ヘルサルに戻ったら何か言われるっていうのは覚悟していたんだろう。
それでも、無茶をして森を出ようとしなかったのは、評価できると思う……上から目線で、俺が評価する立場ではないけどね。
こういう時、焦って何がなんでも出ようとして、危険な目に遭うというのはよくある事だから。
魔物なんていない地球でも、山で遭難してって事もあったし。
「それじゃ、他の二人が戻ってくるのと、リーバー……さっき飛んで行ったワイバーンの事ですけど、戻ってくるのを待ちましょう」
そう言って、不安そうに俺を見ている女性冒険者三人に笑いかけて、俺から焚き火の近くに座る。
なんだか、俺の顔色を窺っているというか怒っていないか? と心配しているようだったからね。
こういう時は、こちらから動いた方が少しはなごんでくれる気がするし……必要もないのに緊張しているようでもあるから。
俺が先導したのが良かったのか、女性冒険者さん達も焚き火の近くに来て一緒に座って休んでくれた。
野営するような準備はしていなかったためか、座るための敷物などはないから地面に直接だけど、焚き火のおかげで少し肌寒いと感じる夜でも、土からの冷気もほぼ感じることなく暖かい。
きっと、俺が来なかったらこのまま夜を明かしていたんだろう……交代で見張りをしながら、横になったりはするんだろうけどね。
「……焚き火って、なんでこうずっと見ていられるんですかね……?」
「そ、そうですか?」
「あぁ、わかります。じっと見つめていると、いつの間にか夢中になっていますよね」
パチッパチッと時折爆ぜる音を響かせながら、燃えている焚き火をジッと見つめながら、女性冒険者さん達に話を振る。
離しにくそう、というか誰も話さず少しだけ重い空気になりかけていたようだったからね。
焚き火を見つられる、というのには女性冒険者三人中二人が首を傾げたけど、一人は同意してくれた。
人によるんだろうけど、なんでかこういう不規則だけど延々と揺らめいている何かって、見つめ続けていられるんだよね。
夜空に輝く星を眺める、とかの方がロマンチックなのかもしれないけど……女性冒険者さん達が昼に話していた内容を思い出すと、そちらに話を向けたらなんとなく危険な気がしたのもある。
あと、以前エフライムを助けた時一緒に空を眺めたりはしたけど、女性とだとどう話していいかわからなくなりそうだし。
いつもの事のようになっているけど、考えてみれば今この場にいるのは俺以外全員女性なんだよなぁ。
だからって何があるわけでもないんだけど、ちょっとだけ肩身が狭い気がしなくもない……特にうち三人はほぼ初対面の女性だから。
なんて考えながらも、表面上は焚き火を見つめて当たり障りのない会話をしつつ、離れている他の二人やリーバーを待っていた。
そんな中、フィリーナが妙に森の方を木にして見ているのに気付いた。
どうしたんだろう? 焚き火にあたる事や、見るのが嫌というわけではないはずだけど。
「どうしたのフィリーナ、ずっと森の方を気にしているようだけど……?」
「うーん、ちょっと戻って来るのが遅いんじゃないかと気になってね。私達がここに来てから、それなりに経っているでしょ?」
「言われてみれば……」
リーバーで、空から女性冒険者さん達を見つけてからで考えると、大体十分から二十分くらいだろうか。
見つけた時には既に三人だけだったのにと考えると、戻って来るのが遅い気がするね。
さすがに暗い中、森の奥まで行ったわけではないだろうけど……女性だから、ちょっと距離を取ってという事もあり得なくはない。
「ここにいない二人が森に行ったのは、どれくらい前になるの?」
少し真剣な表情になって、女性冒険者さん達に聞くフィリーナ。
「えーっと……リク様達が来るよりも少し前でしょうか。確かに、遅い気がします」
「リク様が降りて来られた衝撃で、あまり気にしていませんでしたけど……言われてみれば」
「いつもなら、もう帰って来ていてもおかしくありません」
フィリーナの問いかけに、ここにいない二人の事を考える女性冒険者さん達。
それによると、俺達が発見する直前くらいにここを離れたらしいけど……やっぱり戻って来るのが遅いので間違いないようだ。
女性だから男より時間がかかるもの、とは思うしもし時間のかかる方だったらと考えたりもしたけど、三人の様子からお腹を壊しているとかでもなさそうだし、そういうわけでもないみたいだ。
「……探しに行った方がいい、のかな?」
離れた理由が理由なので、男の俺が探しに行ってもいいのか決めかねて、フィリーナに尋ねる。
もし単純に、何事もなく時間がかかっているだけだったら、森に探しに行った俺に見つけられたくないと思うからね。
変な場面に遭遇しても、お互い困るだけだろう――。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,118
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる