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ヴェンツェルさんとの話
しおりを挟む天幕の中には、丸いテーブルが中央に置いてあり、その上に羊皮紙と見られる物が広げられていた……チラッと見た感じでは、この周辺の地図のようだね。
ヘルサルとセンテらしき街が書き込まれているようだったから。
それを、複数の人が書き込みをしているようで……多分、代わった地形などを書き込んで、地図の酒精をしているのかな?
「リク殿、ちょうど良かった。今、これからの事を話し合っていたところだ」
そう俺に声をかけてきたのは、テーブルの向こう側にいたヴェンツェルさん。
相変わらず筋骨隆々で大柄な体は、他の人達よりも一回りくらい大きい。
「俺も、これからの事というか挨拶に来ました。えっと、近いうちに……マルクスさん達には明後日と言いましたけど、それくらいに王都へ戻ろうかと」
「ふむそうか。そろそろだとは思っていたが……リク殿をずっとここに引き留めておくわけにもいかんからな。陛下にもリク殿が必要だ」
「ははは、そうだといいんですけど」
女王陛下……というか、姉さんに本当に俺が必要かどうかはよくわからない。
役に立てている自覚はあるけど、そつなくなんでもこなす姉さんが本当に俺が必要なのかどうか。
まぁもちろんながら、姉さんに対して俺が協力できる事があるのなら、やれるだけの事をやるけども。
「リク殿とはまた王都で会う事になるだろうな。私も、さすがにあと数日はいる予定だが、マルクスと共に引き上げるつもりだ。完全に王軍全てを引き上げるのは、まだ先になりそうだがな」
「そうなんですね……」
マルクスさんもそうだったけど、一部の王軍兵士さんを残してヴェンツェルさんも王都へ戻る予定みたいだね。
話によると、今回きた兵士さんの数が多く、荷駄隊などで物資を運んできているとはいえいつまでも滞在するわけにはいかないとの事でもあった。
ある程度ヘルサルで受け入れてはいるし、多少なりとも余裕があり、他からも物資を運んできてもいるらしいけど、有事でもないのにいつまでも多くの兵士がいるのは妨げになるからとか。
まぁ王軍兵士……センテにいるのと、侯爵軍も合わせれば二千人以上だからそれだけでも大量の物資を消費するよね。
センテとヘルサルの住民を合わせたら、その十倍を軽く超えるとはいえだ。
これから、以前までのようになるまで復興を目指すセンテには、人でも必要だけど無駄に物資を消費する余裕もないし。
「今選抜しているが、少数を残しての帰還になる。まぁマルクスと歩調を合わせるだろうが。センテともリク殿やワイバーンの手を借りずとも、連絡を取れるようにもなったしな。向こうも選抜をしている所だろう」
ヴェンツェルさんの言葉と同時、その隣にいたワイバーンの鎧を着た人物二人も頷いた。
どうやら、その二人が残った兵士さんの指揮をするみたいだ。
「まぁ向こうには、シュットラウルさんもいますからね」
「あぁ」
主にセンテでとなるけど、侯爵のシュットラウルさんがいるから安心して任せられる。
ただ、王軍の一部の兵士を侯爵軍に引き抜かれないか、というのがヴェンツェルさんの心配事でもあるみたいだけど。
そういえば、シュットラウルさんってそういう人を集めているらしいからね……それどころじゃない状況が続いていたから、すっかり忘れていたけど。
アマリーラさんやリネルトさんがシュットラウルさんに雇われているのも、それがあったからだし。
「周囲の魔物もほぼいない……少なくとも残っている森にはおらず、冒険者の協力もあって兵士達のいい訓練にもなった。大半を引き揚げさせるつもりではあるし、同じ国内兵士だ、先の事を考えても悪い事ではないのだがな……一応、釘を打っておこうとは思う」
「ははは……その辺りは、俺には何も言えませんけどね」
渋い顔をしたシュットラウルさんと、苦笑する周囲の兵士さん。
色々と決まりとかはあるだろうけど、侯爵家の私兵や軍に組み込まれるのなら、それは国としての戦力である事には変わりないからね。
特に、今回のセンテの事があって住民にとってはこの先の安心にも、もしかしたら繋がるかもしれないし。
「そちらの、確かアマリーラ殿とリネルト殿だったか」
「リク様の忠実なしもべ、アマリーラと申します」
「同じく、リネルトですぅ」
チラリとヴェンツェルさんが、俺の後ろに立つアマリーラさんとリネルトさんに視線をやる。
二人はそれで許しを得たように一歩前に出て、名乗りながら礼をしてすぐ下がった。
忠実なしもべとかはまぁ、アマリーラさんが勝手に言っている事だからともかくとして、二人共こういう時はきっちりとした動きができるのはさすがだ。
まぁ、シュットラウルさんに雇われていた事で、教わったとかかもしれないけど……アマリーラさんの雰囲気は、初めて会った時のようなしっかり者っぽい感じだし。
……できれば、常にその雰囲気のままでいて欲しい。
多分無理なんだろうけど。
「うむ、二人の活躍は聞いている。二人共、リク殿と共に類を見ない活躍をしたのだとな。森の魔物掃討の際にも、兵士達からの報告にもあった。その補充もと考えるだろうな」
「いえ、私達などはまだリク様の足元にも及びません。これよりは、リク様のお役に立てる事を市場の喜びとし……」
「ア、アマリーラさん、そのあたりで!」
「はっはっは! 頼もしい限りだ。リク殿は信頼できる部下を得たのだろう。だがその代わりに、侯爵殿は惜しいと思っていそうだ。まぁなんにせよ、戦力の補充だろうとなんだろうと、悪い事ではないのだが……できれば連れてきた者達は、全て王都に連れ帰って他の者達に今回の遠征で得た経験を伝えて欲しいものだ」
やっぱりアマリーラさんはアマリーラさんだった、と思わざるを得ない言葉を、慌てて止めると俺を見て、ヴェンツェルさんが笑う。
ともかく、ヴェンツェルさんとしてはヘルサルやセンテに来た王軍兵士さん達には、王都に戻って今回の事や森での魔物との戦い、マルクスさんが連れてきた兵士さん達のセンテでの戦いの経験などを伝えて欲しいみたいだ。
まぁ、経験はどんな訓練よりも勝るとは思うし、ヴェンツェルさんもそう考えていると思う。
なんにせよヴェンツェルさんとしては、王軍の強化が優先ってとこだろうね。
「まぁあれこれと話したが、ともあれリク殿」
「え、あ、はい」
急に真っ直ぐと俺を見るヴェンツェルさん。
その視線は真剣で、俺を射抜くかのようだった……いや、本当に射貫くつもりはないんだろうけど。
ヴェンツェルさんから、そう言った意志は感じられないし、どちらかと言うと真面目な雰囲気を出しただけって感じだから。
「此度の件、リク殿とエルサ様の助力により未曽有の危機は免れた。王都……王城に戻れば陛下よりまた何かあるだろうが、まずはこの場で国、いや兵士達と付近の生き延びた者達を代表して、礼を言う。リク殿、そしてエルサ様。アマリーラ殿、リネルト殿、モニカ殿。他にも多くいるが、皆がいたおかげで多くの民が救われた。最大の敬意を表する事をここに!」
「リク様、エルサ様、アマリーラ様、リネルト様、モニカ様。この場にいる皆さまに感謝と敬意を!!」
「「「「「感謝と敬意を!!」」」」」
「あ、えっと……」
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