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魔法が使えない事を伝える

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「……はぁ。やっぱりりっくんね」
「まぁこれは……手間が省けたと言えるのでしょうね」
「あははは……」

 いろんな情報が混じった地図を見て、溜め息混じりの姉さんとマティルデさん。
 俺はとりあえず苦笑しておいた。

「東側から南東。王都から真っ直ぐ南の辺りまで、全てやっつけちゃっているじゃない!」
「目についた先から、エルサに向かってもらって殲滅してたから……ははは。数えていなかったから、こんなに多いとは思わなかったよ……」
「私達、こんなに魔物を倒していたのねと改めて実感しちゃったわね」
「あぁ、センテで大量の魔物を見慣れているし、ずっと戦う日々だったから感覚がおかしくなっているのかもしれないな」

 驚く姉さんに苦笑している俺の後ろで、モニカさんやソフィー達が何やら話している。
 まぁセンテでの戦いに参加していると……いや、していなくても大量の魔物を見ているだろうし、ちょっとした集団を見ても慣れてしまっているのかもしれない。
 さすがに一日かけて発見しては殲滅を繰り返すのは、多くの人が慣れているわけじゃないだろうけど。
 でも、ほとんど一日中魔物と戦い続ける日々だったみたいだし……俺はロジーナに隔離されていたから、途中参加だけども。

「……ま、まぁつまり、リク達のおかげで予想されていた被害も少なくなりそうだし、手間も省けたと思えばいいわね」
「そうね……元々、りっくんが戻って来てくれたらすぐに方が付きそうとは思っていたけど。もちろん、りっくんが受けてくれるならだけど」
「魔物がいて、冒険者さんだけで対処できない状況なら断らないけど……さすがにすぐってわけにはいかないかなぁ?」

 だからこそ、俺に早く戻って来るよう伝えていたんだろうけど、今は魔法が使えないし、集団を探して一つずつ戦っていくしかないからね。
 すぐってわけにはいかないし……それはまぁ、エルサに乗って行けば広範囲に分布している魔物達の間を移動するのは楽だし早いけど。

「魔物を倒す事自体は構わないけど、多分陛下が考えているよりも長くなると思うよ?」

 レムレースと戦った時に魔力弾は放てたから、魔法が使えなくてもできるのはわかっているけど、さすがにあれを使うわけにはいかないし。
 簡単に殲滅できるとしても、レムレース戦で使った時の事を考えると、下手すると地形を変えたり周囲に影響を残しすぎる。
 少なくとも、調整とか色々できるようになってからじゃないと……いざっていう時以外は使えないような、異常な威力だから。

「ちょいちょいっと、りっくんが魔法を使えばいいんじゃない? 使いたくないとかなら別だけど、そういうんじゃないでしょ?」
「まぁ使えるなら、そうすれば手っ取り早く魔物を殲滅できるだろうけど……」

 キョトンとする姉さんに、視線を逸らしながら言って言葉を切る。
 センテでの事は大体報告されているはずだけど、さすがに俺が魔法を使えなくなったというのは姉さんも知らないみたいだ。
 レッタさん達、連れて来た人達の紹介はしたけどその事についてはまだ話していなかったし。

 確かに魔法が使えれば、魔力弾よりは周囲への影響は少ないだろうし、それこそフレイちゃん達のようなスピリット達を呼び出せれば、サクッと王都周辺の魔物達を殲滅できるはず。
 けど、今それはできないからなぁ……できたなら、戦闘とは関係なく一度呼び出してセンテで色々手伝ってくれた事のお礼をしたいけど。

「……俺、今魔法が使えないから。だから魔物と戦うなら真っ当に……と言うのもどうなのかな? とは思うけど、とにかく剣なりで戦うしかないんだよ」

 マティルデさんにも言っていいのかな? と一瞬躊躇したのが言葉を切った理由だけど……別に隠してどうにかなる物でもないし、まぁいいかと考え直して口にした。
 この場にいる人達で、知らないのは姉さんとマティルデさん、それからヒルダさんとエアラハールさんか。
 姉さんやヒルダさんは話しても問題なさそうだし、エアラハールさんは師匠みたいな位置付けだから、訓練の事も考えたら話さないといけないだろうけど。

「魔法が、使えない……?」
「使えていたはずの魔法が使えなくなる、なんて話は聞いた事がないわ。魔力が枯渇したならわかるけど、でもそうしたらこうして目の前で元気そうにしているわけがないし……」

 魔法が使えなくなる程、魔力がなくなったら意識が失われたりするからね。
 運良く意識が失われなくても、完全に魔力が枯渇すると生きていられないらしいから、魔法が使えなくなるくらいに魔力を消費するっていうのはよっぽどだ。
 こうしてここで話している以上、それがないのはマティルデさんもわかっている様子。

 魔法が使えるかどうかは、基本的に自然の魔力を集める器官が備わっているかどうかで、それが機能しなくなるという事はないんだろう。
 他にも機関がなかったとしても、エルサなどのドラゴンと契約する事で、イメージに加えて自前の魔力を主に使うドラゴンの魔法が使用できるようになるけど、そちらも本来は使えなくなる事はないと思う、契約がなくなったとかではない限り。
 だからマティルデさんは、俺の言葉を不思議がっているというか……信じていないんだろう、冗談を言っているのだと思われているのかもしれない。

「なんというか、センテで色々と無茶をしちゃって。まぁ俺が意識してやったわけでもないんだけど……魔力の方は全く問題ないんだけど、とにかく魔法が使えなくなっちゃってるんだ」 
「……後で、詳しい事情を聞く必要がありそうね」

 考えつつそう言う姉さん。
 姉さんにはユノの事などを伝えているので、赤い光とか緑の光とか、あと俺の意識が負の魔力に奪われていた事なんかも話しておかないといけないね。
 俺の意識が乗っ取られている時の事は、俺自身よりもモニカさん達に聞いた方がいいと思うけども。

「本当なのね……なら、頼みの綱のリクに頼れないのなら、被害を減らすよう地道に魔物を討伐する方法を取るしかないわけね……というか、どうしたら魔法が使えないのに戻る途中であれだけの魔物を殲滅できたのか、そこが聞きたいわ」

 やっぱり冗談と思っていたらしいマティルデさんは、訝し気に俺を見る。

「あ、いえ。戦うくらいはできるので……」
「リク様にかかれば、魔法など使わずともAランクやBランクの魔物を、軽々斬り裂くくらいはやってのける」

 と、俺の代わりにアマリーラさんが答えてくれた。
 確かにアルケニーにしろ他の魔物にしろ、剣で斬り裂いたけど……軽々とできたのは白い剣のおかげだし、そもそもアマリーラさんだって大剣で豪快にアルケニーを斬り裂いていたのになぁ。

「……そういうわけで、魔力は以前と同じように……どころか、増えてもいるので戦う事自体には問題ないんです。それに、王都に戻る際にはモニカさん達やヴェンツェルさん達が選別した、王軍兵士さん達もいてくれたので。それなりの数で、ちゃんとした実力者が揃っていたのも大きいですかね?」

 兵士さん達は、全員ワイバーンの鎧を身に着けていたけど……それだけでなく、ちゃんとした実力を持っていてほとんど怪我らしい怪我がないくらいだったから。
 多少の擦り傷くらいはあったけどね。
 空からワイバーンに乗って奇襲をしたり、基本的にこちらから先制攻撃を仕掛ける事が多かったのも、理由に挙げれられるかな――。


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