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リクの体を覆っている魔力
しおりを挟む意識して感じられるようになった魔力の動き、俺自身を覆う魔力の分厚い膜のような物……。
まぁぼんやりで、はっきりとわかるとまでは言えないけど……ゴブリンウォーリアーが振り下ろした武器を受けたり、俺がゴブリンを剣で斬り裂き、鞘で殴ると何かに触れた部分の魔力が霧散しているようでもあった。
これまでほとんど意識する事がなかったけど、これが多すぎて俺の体から滲み出た魔力であり、エルサが頭にくっついて吸収したり、防御を強固なものに、攻撃を異常な威力にしている正体なのかもしれない。
「成る程……もしかして、ロジーナはこれを意識させて気付かせたかったのかな?」
なんとなくでも、一度わかってしまえば頭で理解して色々と考える事ができる。
試しに、体内を循環する魔力を意識する延長として、分厚く体を覆う魔力を取り込んで薄くしよう……というのは上手くいかなかったけど、外に霧散させるようにしたら、ほんの少しの間だけど魔力量が減って薄くなった。
完全になくなったわけじゃないけどね。
「体内に取り込むのができなかったのは……あぁ、そうか。元々、溢れて滲み出た魔力だからか……」
魔力が収まりきらず、外に出て行ったものだから大きく消費したり、体内の方の魔力量が減っていないのに取り込んだりはさすがに無理だよね。
だから、外には霧散させるようにできたけど、内側には戻せなかったってわけだろう、多分。
そして……。
「おぉ、成る程な。そういう事かぁ……」
魔力を霧散させて体を覆っている厚さを薄くすると、連動しているのか俺がまだ慣れていないのかわからないけど、少しだけ全身に漲っている力が抜けたような感覚もある。
そしてその状態でゴブリンに対して剣を振るうと、これまでよりも少しだけ威力が下がっているような気がした。
具体的には、鞘の方がわかりやすいけどそちらで殴った時に、弾き飛ばされるゴブリンの勢いや距離が弱くなっているようだった。
「つまり、この体を覆っている魔力が全ての原因だったんだ……魔法を使う時はまた別だろうけど」
一部は混ざっているかもしれないけど、魔法は体を覆っている魔力をそのまま使っているわけではないからね。
魔法での威力が強すぎる問題と、剣などでは別の問題だったって事なんだろう。
「もしかして、俺が力の加減を調節するのに苦労していたのは、魔力を意識していなかったためで、滲み出る魔力を調節したら上手くいくのかな? いやまぁ、滲み出ているわけで、意識してもそれは止められないんだけど」
霧散させれば多少はマシになるとはいえ、常に魔力は体の内側から外へ向かって溢れ、滲み出ている。
全てを霧散させるとなると、俺の魔力を枯渇させるか、それとも体内の魔力容量に余裕を持たせられるくらい消費するかってところか。
魔法が使えない今、それはさすがに難しいから完全な力加減の調節を魔力だけではできない気がするなぁ……。
俺自身の技術というか、力の入れどころと抜きどころを判断したりなど、魔力に関する事だけでは難しいか。
「はっ! ふっ!……うん、やっぱりそうだ。魔力は特に動かそうとしていないのに、体に力を入れると魔力が溢れ出す感じだね」
さらに体内の魔力を意識して感じつつ、何度かゴブリンに対して力を込めつつ剣や鞘を振るってみる。
すると、力を入れた瞬間は特に魔力が体外へと溢れ出しているように感じた。
成る程成る程……少しだけ仕組みがわかってきたぞ……。
「わかってくると、色々試したくなるけど……って、ん。あれ?」
魔力でできる力の調節、とりあえず最小限の力にするため体を覆う魔力を霧散させていると、ちょっとしたふしぎな現象を目の当たりにした。
「俺に魔法が、届いていない?」
俺の目の前と言う程じゃないけど、数十センチ離れた場所でゴブリンマジシャンが放っただろう魔法が、弾けるようにして消えて行った。
さっきまで自分の魔力にばかり集中して気付いていなかったけど、よくよく考えれば、体を覆う魔力を霧散させて調節できるかを考え始めたあたりで、散発的に俺へと飛んできていた魔法が一切届いていなかったのに気付く。
もしかして、霧散させた魔力が影響しているのか?
俺の体を覆っている時は、攻撃の力にも防御の力にもなっていたから、魔法を防ぐくらいの事はもしかしたらできるのかもしれない。
元々、ゴブリンマジシャンの魔法は通常の人でも、当たって致命傷になるような威力はなく、ちょっとした怪我や火傷を負うくらいのもので小さく弱い。
だから周囲に散った俺の魔力に巻き込まれるように、魔法という形を保てなくなった……とか?
これ、調節したらもっといろいろと凄い事ができそうな予感?
ロジーナに言われて意識し始めた事だけど、ちょっと面白さを感じ始めていた。
「……成る程、俺の体を覆っている魔力を霧散させる量を増やすと、少し離れた所まで魔法を受け付けないんだ。ただ、それもずっと続くわけじゃないみたいだけど」
こういう時、ただゴブリンを倒す事だけに専念せず、色々とやってみたくなるのは悪い癖なのかもしれない……。
一応、襲い掛かって来るゴブリンに対しては、ちゃんと戦っているんだけどね、まぁ攻撃する手が緩んでいるのは否定できないけど。
とにかく、ゴブリンマジシャンが散発的に放って来る魔法に対し、魔力を霧散させる程に俺から離れた場所で消えるようになっていった。
ただその距離は数センチ……遠くても十センチ程で誤差に近い距離だし、遠くになればなるほど霧散させる魔力を増やさなければならず、俺自身の力が弱まるのもあってあまりやらない方が良さそうだ。
あと、一度魔力を霧散させればそれだけで魔法を防ぐ効果がずっと続くわけではなく、ほんの十数秒くらいで効果はなくなるみたいだ。
意識している時になんとなく感じていたけど、俺の魔力としての感覚がなくなるのが、効果もなくなる瞬間ってところだろう。
霧散して、他の魔力と混ざり合い、自然に溶けて行くからだろうと思われる。
「だいたいわかったかな? これ以外にも何かあるのかもしれないけど。ただ……どれだけの魔法を防ぐ、消滅させる効果があるのかまでは、ゴブリンマジシャンじゃ試せそうにないね。これは、余裕がある時に誰かに頼んで試した方がいいかもしれないね。魔法といえばエルフなところがあるから、フィリーナとかが適任かな?」
目の前で消えていく魔法を眺め、飛び込んでくるゴブリンを斬り裂き、殴り飛ばしながら呟く。
霧散させる魔力は、体を覆っているのがほとんどなので、ゴブリンに直接攻撃している威力自体も減っているわけだけど、相手がゴブリンというのもあってそこまで問題にはならない。
というより、これまでが過剰過ぎたんだけどね……多少魔力を霧散させても、かなり過剰なのに。
冷静に色々試しながら戦えるなんて、俺も随分戦闘に慣れたものだなぁ。
この世界に来てすぐの頃は、人と戦うのすら躊躇していたのに……いやまぁ、魔物は危険な相手で基本的には人間を襲うから対処していると割り切ってもいるし、今でも人と戦うのは嫌だけど。
……先の事を考えたら、そんな事は言っていられないしね――。
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