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続・ハーロルトさんの報告
しおりを挟む「ありがとうございます、リク様」
「いえ、お礼を言われる程の事では。せっかくの情報ですし、何かしら有効に使えないかと考えただけです。もしかしたら、今言ったような事にはならないかもしれませんし……」
「謙遜するな。魔物の状況などは、リクがこの場にいなければわからなかった事でもあるからな。しかし問題は……その標的となる物がなんなのか、だな」
「それに関しては、そこまで深刻に考える必要はないと思いますよ?」
「そうなのか?」
「はい。ルジナウムがそうだったんですけど、大まかな指示を与えるという事であれば、おそらく使われたのはクォンツァイタです」
「ほぉ、クォンツァイタか……成る程な。あれはアテトリア王国だけにある物ではないし、向こうにもエルフが協力しているようだ。利用する手段を得ていてもおかしくはないか」
「本来はクズ鉱石として価値のない物と思われていましたが……」
「クォンツァイタに関しては、ハーロルトがいない間にも進展があってな。国内で起こった事なども含めて、また後で伝えよう」
「はっ!」
ハーロルトさんがいない間に、センテでの戦いとかがあったし、魔力のタンクというか電池みたいな扱いができる事がわかったからね。
さらに、シュットラウルさんが主導で開発していた魔導鎧にも応用できそうだし、他にも様々な魔法具が作られ始めているらしい。
魔力を蓄積させるのに、ちょっと苦労するみたいだけどその利用価値はどんどん上がっている。
元々が邪魔物扱いだったけど、産出量の多い鉱石だからいきなり高騰したり不足しなさそうなところもいいね。
「クォンツァイタに関する事ならば、研究者達にも伝えておかねばな。以前はまだ研究協力をしていたわけではないが、この際だからバルテルの持っていた魔法具ももう一度調べた方がいいだろう」
「そうですね。もしかしたら、魔物に何かの指示を与える魔法具を探す方法とか、道具を考え出せるかもしれませんし」
爆発する人を探すための魔法具のようにね。
遠くから指示を出すのなら、確実に魔力で繋がっているわけだから、それを探す魔法具とかで調べる事とかできそうだ。
まぁここで専門家ではない俺が今考えるよりも、アルネやカイツさん達なら、もっといい使いやすい物を開発してくれるだろう。
……研究に没頭し過ぎて、体を壊さないかが心配だけども。
フィリーナも、研究には寝食を忘れるなんて事はなくても、最近は忙しくあれこれやっているし、帝国の工作拠点突入や爆発処置をされた人への対処や管理もしてくれている、調べるのと一緒にね。
自分を顧みずに没頭するアルネ達の管理もそうだし、姉さん達国との折衝なんかも多少はになっているようだから、もしかするとフィリーナの方が無理をしている可能性もあるかな。
ちょっと、モニカさん達にも言って倒れる程無理をしないように見ていてもらおう……俺が見るだけよりは、ちゃんと見てくれそうだしこういうのは女性同士の方がいいだろうからね。
「うむ。ハーロルトの情報のおかげで、こちらも備えを強化できそうだ。ご苦労だった。他に報告はあるか?」
「はっ、魔物に関しては報告した通りなのですが、帝国側の軍の動きに関して……」
とりあえず、魔物が大群でこちらにぶつけられるというのはほぼ決定だろうし、予想していた事だから対処法はこれからも考えるという事で、次の報告に移った。
ハーロルトさんによれば、帝国の軍は首都である帝都からアテトリア王国までの村や街を、自国内であるにもかかわらず魔物も使って占領し、完全に監視下に置いたうえで住民を退避。
……退避と言うと避難とか疎開みたいで多少聞こえはいいけど、その連れて行かれた先がどうなのかはハーロルトさんもわからない、というのは先程の報告でもあった通りだ。
少なくとも、他の村や街へ連れて行かれたとか、安全な場所にというわけではないらしいけど……もしかしたら、帝国というかクズ皇帝なりその近くにいる人は、避難させた人達を何かしら利用しようとしているんじゃないか、というのはハーロルトさんの考え。
証拠はないけど、連れて行かれた人達の中には魔物と衝突して怪我をしたり、亡くなった人達などもいるようで、扱いが丁寧だとは絶対に思えないとか。
嫌な予感がするけど、実際に見ていないし確証もないので、今考えて答えが出るような事じゃないか……。
さらにその後は、ハーロルトさんが国境を越え、アテトリア王国へと戻って来る際の報告となった。
アテトリア王国に入ってからは特に何も問題なく戻って来れたが、問題は国境というか帝国を出国する事が難しかったらしい。
「帝国は、国境の関所を完全に閉じ、人の往来を完全に止めています」
「それは、こちらでも受け取っている情報だ。その中で、よく国境を越えて戻って来た」
「はっ」
簡単に国境の説明をすると、お互いが緩衝地帯と言われる部分を挟むように、アテトリア王国と帝国の関所が向かい合うように設置されている。
俺が以前、エルサに乗って結界の張ってある国境付近の空まで飛んで行ったけど、あれは帝国側の関所のあたりだね。
当然お互いの関所では、人の出入国が管理されているわけだけど、これまでならある一部の例外を除いて基本的な身分確認と通行税などを払えば通る事ができた。
ちなみに、一部の例外というのは貴族など、どちらかの国、もしくはお互いの国での身分的に重要な立場にいる人の事だ。
冒険者は逆に、ランクが高くなる程信頼できるとみなされるため、出入国の確認や審査などが簡略化されていくけども……まぁこれは、一国に所属しているか、国を跨いで活動している組織に所属しているか、の違いだろう。
ともかく、アテトリア王国の関所を通る事に関しては、ハーロルトさんは問題ない。
情報部隊の隊長であり、騎士爵を持った貴族でもあるけども、女王陛下である姉さんの命令で偵察のため潜入するんだから、出国も入国も当然できるわけだ。
というか、そこで問題になるようならそれこそが問題というか……。
まぁそれはいいとして、問題は帝国側の関所。
入国の際、当然ながらハーロルトさんは潜入するためになんて言えるわけもなく、冒険者兼商人として身分を偽って帝国に入ったわけだ。
その時はまだ封鎖される前だったからすんなり通れたらしいんだけど、出国する時は完全に封鎖、魔物まで近くで見張りとして利用したうえで、誰一人出さないし入れないという構えになっていた。
帝国の要職に就いているとか、クズ皇帝の命令だとかなら話は別だろうけど、身分を偽っているのだから簡単には通れないわけだ。
……レッタさんなら、多分通れるんだろうなぁ。
本人がどういう意思を持っているにしろ、一応は皇帝の側近的な立場だったみたいだし。
ともあれ、そんな中決死の覚悟で関所というか国境を越えてきたハーロルトさん、戻ってきてすぐに姉さんへの報告のため、身に着けている物がボロボロなのは仕方なく、それがかなり強行的な手段で危険が伴ったのかわかるってものだね。
「関所などで遮られていても、国境などは抜け道があるものですよ」
とはハーロルトさん談。
国を治める立場の姉さんは、それじゃいけないだろうと溜め息を吐いていたけど。
それはともかく。
「とはいえ、それは帝国側も知るところですので、魔物が配置されていました。そこを強行突破してきたわけですね」
「戦闘になったんですか?」
「多少は。魔物の数が多く、こちらは私を含めても少数。リク様ならばあれ程度簡単に殲滅できるでしょうが、我々はそうではありません。もたもたしていれば、帝国兵にも気付かれてしまいます」
「いや、そんな殲滅なんて……」
まぁできないとは言わないけど……最近も大量の魔物を殲滅するような戦いを、何度かしているわけだしね。
国境で見張りに使われている魔物が、どれだけいるのか知らないけど、ハーロルトさんの話からするとあまり強力な魔物はいなさそうだし。
まぁそれはともかく、魔物と正面から戦っていたら帝国兵に気付かれて囲まれる、または切り抜けてもすぐに追手がかかる。
アテトリア王国側の関所まで辿りつくまでに追いつかれてしまう可能性もあるわけで……。
ハーロルトさんは、囮として帝国内に残る数人と部隊を別けたとの事だ。
魔物の注意を引き付けつつ、帝国兵の意識がそちらに向くように仕向ける部隊と、国境を越えてアテトリア王国に戻る部隊だね。
もちろんハーロルトさんは王国に戻る部隊側だけど。
「帝国内に残った人達は大丈夫なんですか?」
「身を潜めるための手段というのはありますし、逃げるための準備も前もって。優秀な部下達なので、安全に逃げおおせているでしょう。関所を守る帝国兵は精鋭というわけでもありませんでしたし、全体を通してみると、我が王国と比べれば練度も低いように見受けられました」
「精鋭は、皇帝の周囲を固めている者達に限られるのかもしれんな」
「はっ。陛下の命により……というより、将軍の趣味もあって、陛下の御身を守る周辺の近衛だけでなく、軍に所属する者達には厳しい訓練を課しておりますので」
そういえば、ヴェンツェルさんはよく訓練場で兵士さん達の訓練を見ていた、というか参加していたっけ。
ハーロルトさんが帝国に偵察へと行く前は、何度も引きづられて行くのを見かけたけど……書類仕事から逃げるためだけじゃなかったんだ、あれ。
いや書類仕事が嫌でって部分もあるか、ハーロルトさんが趣味と言うくらいだし。
「ともかく、魔物が大量に用意される懸念はあるが、帝国兵の練度が低そうだというのは朗報だな」
「はい。練度だけでなく士気も低く、一部の兵は好き勝手に振る舞ってはおりますが、そうでない者もおります。おそらく、先に備えて強制的に徴兵された者もいるのでしょう。訓練すら受けていないのではないか? と思うのもおりました」
「そうか。国土や民など、こちらは豊かな国であるからこその余裕があるが、やはり向こうは無理を強いているようだな」
強制的な徴兵か……手っ取り早く兵の数を増やすには有効だとは俺も思うけど、戦力としてどうなるかはまた別の話だよね。
国のためになんて考えがあったとしても、実際に訓練されている人とされていない人では大きな差が出るのは間違いないし。
そんな事で、集団行動ができるんだろうか? なんて心配も湧き上がるけど……敵国の事なのでしても仕方ない事だね。
むしろ、こちらとしては有利に働く情報だ。
数だけはどうにかしないといけないだろうけど。
「数の暴力というのはあるだろうが、士気の低い有象無象など数だけの見せかけとも言える。魔物の方が厄介と考えられるだろうな」
「はっ。単純な数で同等、いえ帝国がそれ以上を用意できたとしても、我々が蹴散らして見せます」
そう言って、姉さんに片膝をつく礼をするハーロルトさん。
ちなみにだけど、この国の兵士さん達の戦力を冒険者に例えると、小隊長などの部隊長などはCランク。
兵卒はDランク以上で、中隊長や大隊長までになるとBランク相当の実力があると言われているとか。
まぁとはいえ、集団戦で人に対する戦闘に特化した軍と、魔物との戦いで生存を第一に考える冒険者では、単純に比較はできないらしいけどね。
あと、戦闘の実力だけが部隊長などになるために必要というわけではなく、指揮能力やら何やらでも決まるので、実際はもっと複雑だ。
ともあれそれでもハーロルトさんが自身満々に、数が上でも蹴散らせると言える帝国兵……圧倒すると宣言したのがさらに現実味を帯びてきたと言ったところか。
もちろん、だからと言って油断はしないけど。
それからも、しばらくハーロルトさんによる帝国の内情などの報告を聞いた。
話を聞いていると、放っておいても帝国は破綻するんじゃないだろうか? という程、治安にしろ経済にしろ落ち込んでいるような気がする。
いやまぁ、よく知らない俺が勝手に思っているだけだけど……実際には、クズ皇帝の強権だのなんだので、しぶとく存続する気がしなくもない。
魔物を利用しているんだから、魔物由来の素材には困らなさそうだしね。
でも、裏を返せば俺でもそういった感想を持つくらい、帝国は酷い状況になっているってわけでもある。
探せば、レッタさん程じゃなくても、似たように復讐を考えているような人とか、火種とかくすぶっているんじゃないだろうか?
さすがに、それを先導してどうのってのは帝国内部に入り込まないとできないから、やらないけど。
「それから、最後になりますが……前皇帝陛下の行方についてです」
「ほう?」
前皇帝陛下、結構なお歳らしいけど現在のクズ皇帝の父親。
どうやら皇帝の座を譲った後は、帝都というか帝城で姿を見なくなっていたらしい。
息子を甘やかした結果のクズ皇帝ではあるけど、皇帝としては立派な人だったらしいから、その人がまだ皇帝で辣腕を振るっていたら、もう少しまともな国のままだったかもしれない、と姉さんは言っていた。
「帝都から離れた場所で、現在も幽閉されているようです」
「幽閉、か。だとすれば、前皇帝は納得して帝位を退いたわけではないのかもしれんな」
「その辺りの状況はわかりかねますが……それと、申し訳ございません。前皇帝陛下の居場所は突き止めましたが、無事かどうかの確認まではできませんでした。帝国兵と魔物が周囲を固めており、忍び込もうにも守りが固く……」
ここは魔物を復元する際、一部の人を襲わなようにするという部分をうまく生かしているらしい。
帝国兵などに偽装して侵入しようにも、魔物に見破られて発見されてしまうためだとか。
密かにというのができないなら、もうそこには強行突破というか武力を持って突入するしかできないだろうなぁ。
「いや、ハーロルトは貴重な情報を持ち帰っている。前皇帝の居場所がわかっただけでも十二分に役目を果たしている。気にするな」
「はっ!」
「どういう状態かはわからなくとも、生存はしているので間違いないのだな?」
「この目で確かめたわけではありませんが、入手した情報ではそのようです」
「ふむ、だとしたら、戦争が起こった終盤になるだろうが……前皇帝は救出せねばならんな。かろうじて生きている、という状態でなければいいが」
「前皇帝を助けるんですか?」
クズ皇帝を生み出した元凶、とも言えなくはないけど前皇帝は今の帝国の状況をよく思わない可能性が高い……というのはその人となりを聞いていてわかる。
けど、助けるために動く理由というか、どうして助けるんだろうという素朴な疑問だ。
あくまでも帝国は、こちら側に戦争を仕掛けてきている敵なのだから。
まぁ、助けられる人がいるなら助けたいとは思うけど、わざわざそのために考えなきゃいけないというのがよくわからかなっただけだけど。
「帝国との戦争後、その帝国を治めるには前皇帝が必要だ。国というのは複雑でありながら単純な部分がある。今の皇帝は代替わりして間もないうえ、ハーロルトの報告を聞く限りでは多くの国民に支持されていないだろう。だが前皇帝は違う。その前皇帝を助け出し、現皇帝を引き摺り下ろすというパフォーマンスが必要なのだ」
そう言って、姉さんは重い荷物を背負っているかのように深い溜め息を吐いた――。
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