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獣王国王都道中
しおりを挟む「リクさんの事だから、自分から魔物を引き付けて囲まれようとしているんでしょうけど、援護は任せてね。私だって、センテの戦いから成長しているんだから。他にもユノちゃんやロジーナちゃんと……あとレッタさんもいるんだから」
「うん、ありがとうモニカさん。頼もしいよ」
ユノとロジーナは、俺のすぐ近くにいても巻き込まれて怪我をするような事はないだろう。
モニカさんは多少心配ではあるけど、訓練を傍で見ていたのもあってその言葉を信じる事ができる。
それになんとなく、俺の背中というか一緒に戦って援護を任せられるのは、モニカさんしかいないという思いもあった。
俺の贔屓目みたいなのもあるかもしれないけどね。
「リク様、我々もお供いたします。獣王国の救援です、我々が活躍しなくてなんとしましょう」
「私だって、リク様のために、獣王国のために働きますよぉ」
「アマリーラさん、リネルトさんも。あちらの話は終わったんですか?」
「はい。聞き取った事は、移動中にでも」
「そうですか、わかりました。ただアマリーラさんとリネルトさんには、他にやって欲しい事があるんです」
いつの間にか、隊長さんとの話を終えたアマリーラさん達が後ろにいた。
モニカさんとの話を聞いていたんだろう、俺の近くで戦うという意気込みが言葉だけでなく、その様子から溢れているように見える。
この二人なら、ユノやロジーナ程でなくても巻き込まれる心配はないだろうけど……でも二人には俺の近くではなく他に需要な事を任せたいんだよね。
戦いに際して意気込んでいる二人が、了承してくれればだけど。
「私達にやって欲しい事とは? リク様のお傍でそのご活躍を見るのが、一番なのですが……。あ、いえ! もちろん、リク様からであればどんな事でも粉骨砕身、この身が砕けようとも遂行して見せます!」
耳と尻尾を萎れさせながらも持ち直したアマリーラさん。
隣でリネルトさんも似たような状況だ。
俺の活躍って、見ていてもそんな面白い物じゃないと思うけど……それはともかく。
「そこまで意気込まなくてもいいんですけどね。多分危険はありませんし」
「危険がない……? そんな、リク様を危険な魔物に向かわせておいて、我々だけ安全な場所に向かうなど……。いえ、リク様でしたら、どのような魔物が、どれだけいようとも危険と言えるほどの事はないのでしょうが……あの、レムレースと戦っていたリク様。素晴らしく凛々しく、そして神々しいお姿は、忘れる事はありません」
神々しいって、大げさすぎますアマリーラさん。
その言葉はむしろユノやロジーナの方が……いや、あっちは神々しいどころか本物の神様だったわけだけど。
……そのユノとロジーナは、何やらロジーナがユノをどつこうとして受け流されるを繰り返している。
大方、ユノがロジーナをからかっているんだろう、さらに傍で人に見せていいのかわからない恍惚とした表情で見守るレッタさん、というのはもう見慣れた光景だ。
神々しいとはかけ離れているけど、その様子はどつき漫才を越えて達人のやり取りのようにも見えるのはご愛敬か。
訓練などにも参加している冒険者さん達は慣れたものだけど、ヴァルドさん以下兵士さん達と、獣人さん達が驚いているから程々に。
「まぁ俺の事はともかく、アマリーラさん達にやって欲しい事は、多分俺達じゃすぐにはできない事ですので……えっと、そうですね。特別、俺から頼みたい事で、アマリーラさん達にならできると思ってのことなんです」
「っ!? リ、リ、リク様から特別のご下命! そのような望外の喜びを授かろうとは……! 全身が喜びで打ち震えております!」
こちらもちょっと大袈裟な言い方をすると、本当に全身を、特に尻尾を振り、耳を忙しなくい動かしているアマリーラさん。
リネルトさんも似たり寄ったりだ……こういう言い方の方が喜ぶだろうな、と思ったんだけどご下命は言い過ぎかなぁ。
まぁ喜んでいるようだから、このままでいいのかも。
「えーっとですね、王都に行くメンバーの中で獣人はアマリーラさん達だけです。しかも身分としてもしっかりしています」
ただの獣人傭兵ってだけじゃなくて、王女様とその近衛だからね。
「なので、二人には俺達が王都に近付く事で警戒するであろう獣人さん達、できれば上の方に掛け合ってもらいたいんです。警戒しなくていいですよーって」
今回、獣人側の関所に来た時の反応を見て、ただ王都に近付いて行くだけだと警戒……下手すると攻撃される可能性もあるんだと思った。
それなら、移動速度などの関係から最初はエルサで空から近付くのは変わらなくとも、獣人さん達の警戒を解くというか、緩和させるように動いた方が良さそうだからな。
まぁもし攻撃されたとしても、エルサなら結界を張るなりして防げるだろうけど。
ただ魔物と間違えられたエルサのご機嫌がどうなるか、が少し心配でもある。
「今回の作戦、と言っていいのかわかりませんけど。既に戦闘状態にある獣人と魔物の間……というより横ですか。そこに入り込む予定ですが、状況によってはゆっくり獣人さん達に説明している暇があるかわかりません。状況は想定していたよりも悪いようですから。ですので――」
作戦、兵士さん達を率いるヴァルドさん、冒険者さん達を率いるフラッドさん。
この二人にはそれぞれ別で隊を率いてもらうわけだし、そもそも人間だ。
向こうがすぐ理解と納得をしてくれるように、作戦の事も踏まえてアマリーラさんとリネルトさんにの願いする。
「もちろん、正式にはアテトリア王国女王陛下の親書などを渡して、落ち着いて話す必要はでしょうけど、まずはあまりリーラさん達から話しておいてくれませんか?」
身分などもあるけど、国境警備も任されている関所の兵士さん達を前に圧倒した……というよりあれは恫喝に近かったけど。
そのアマリーラさん達に任せた方がいいだろう。
獣人の流儀というのは、ある程度聞いて知ってはいても、それを深く理解しているのはやっぱり獣人だしね。
「承知いたしました! リク様やエルサ様に敵対的な警戒心を向ける者達など、薙ぎ払って見せましょう!」
「そうですねぇ。あちらの者達もそうでしたが、絶対に自分達が適わない相手に対して、無謀にも挑もうと考えるのであれば、それもやぶさかではありませんねぇ」
「あ、いや、その……できれば穏便にお願いします。武力行使はできる限りしない方向で……」
リネルトさんまでアマリーラさんに同調してしまった。
昨日の入国前の出来事をそのまま王都で再現というのは、さすがにやめて欲しいと願うばかりだ。
アマリーラさん達にお願いしているのは俺なので、後々問題になる可能性もあるし。
……いや、獣人さん達がアマリーラさんと似たような考えなら、ならないか?
最初は警戒心満載だった獣人さん達も、アマリーラさんの話を聞いたからか、それとも恫喝を受けたからか、今では俺やエルサを見る目が輝いているように思う時があるし。
獣人兵士さん達だけでなく、避難してきただろう獣人さん達も似たようなものだし。
うぅむ、力に対する信奉みたいなの、獣人の国では深く根強いらしい。
まぁ避難してきた人達は、魔物に対抗するための援軍と考えれば頼もしく思えるから、それかもしれないけどね。
「畏まりました。なるべく、なるべく穏便に……ですね。リク様がお望みであれば、なんとでもして見せましょう。ですがその……一人か二人、見せしめに叩きのめすというのは……?」
「そうした方が、話しが早いですしねぇ」
「見せしめって、俺達は獣人を助けに来ているんですからさすがにそれは……」
などと、押し問答ではないけど力に訴えたいアマリーラさん達と、できる限り対話で警戒を解いてもらおうとする俺で、少しだけ話を続けた。
……アマリーラさんはなんとなくわかっていたけど、リネルトさんも結構、脳筋的な考え方をするよなぁ。
獣人って皆こうなのかな?
商売をしている獣人さんは多少知っているけど、近くで濃い二人がこうだから……ちょっと獣人さん達への認識を改める必要があるかもしれない。
一応獣人が至上とする力は、戦う事以外にも知識なども入っているはずなんだけど。
理知的な獣人さん、さすがに王都にはいるよね……?
「リク、最後の調整なの」
「……またやるの?」
「もちろんよ。急ぐ必要があるかもしれないわ。というかいい加減、形にしたいのよ。だから、移動中でもやれるならやっておくべきよ」
「はぁ、わかったよ」
諸々あって、いくつかの確認事項、目的地に到着してからの動きなどを話しあった後、獣人国の王都に向けて出発。
関所から王都まで、よく知っているアマリーラさん達に聞けば、エルサの速度なら数時間程度で到着する想定だけど、その間もやっぱり結界の練習だと意気込むユノ達。
俺や皆のためと考えていてくれるんだろうから拒否しずらいし、俺もユノ達が何を考えているのか速く知りたいので、溜め息を吐きながらも練習をする事にした。
それからある程度経って、そろそろ遠目に獣人国の王都が見えるだろう頃――。
「んー、やっぱり及第点ってところなの。もう少し持続時間と強度を上げたいけど、とりあえずは仕方ないの」
「リク用はまだ不十分だろうけど、他ではこれで十分よ。まぁとりあえず、今のところはこれでいいとしましょうか」
「はぁ。やっと納得してもらえた……」
「お疲れ様、リクさん」
「ありがとうモニカさん」
渋々ながらも頷いているユノやロジーナを尻目に、タオルを差し出してくれたモニカさんにお礼を言って受け取る。
初めて成功した頃よりかなりマシになっているけど、結界を作る練習は痛みを伴ううえ、動いてもいないのに多少なりとも汗が出てしまう。
練習の甲斐あってか、それとも魂の修復とやらが進んでいるおかげか、段々と汗の量は少なくなってきているけどね。
まぁ、慣れもあるかもしれない。
「リクも気に……一度……なの」
「でもそれだと……今はまだ移動中よ? そろそろ……」
「本格的なのは落ち着いてから……なんにせよ、一度見せて……なの」
「そうね……疲れる……そうするしかないわね」
汗を拭きつつ休憩している俺を他所に、顔を突き合わせて何やら相談しているユノとロジーナ。
それを見て鼻を押さえているレッタさんは放っておくとして……漏れ聞こえる声だけだとはっきりとわからないけど、何かをしようとしているみたいだ。
「ユノ、ロジーナ?」
何を相談しているのか気になって声をかけると、ユノとロジーナが頷き合ってこちらを向く。
軽い言い合いはよくしているけど、やっぱり仲がいいよなぁ……。
「リク、目的地の到着までもう少しあるの」
「まぁそうだね。もう少しで見え始めるとはアマリーラさん達から聞いているけど、まだ見えないし」
そろそろ遠目に獣王国の王都が見え始めるとは、結界の練習に入る前にアマリーラさん達から聞いていたけど、まだ目を凝らしても見えない。
少しくらいなら余裕があるだろう。
「気になっているようだし、モニカ達にも関係ある事だから、私達が考えている事を今少しだけ見せるの」
「考えている事を?」
これまで聞いても教えてくれなかった、結界の練習の意味というかそれを利用しての何か。
魔法が使えなくなる以前に、俺が結界を使っていた用途とはおそらく違う事を、ユノ達は考えているんだろう。
それを教えてくれるって言うわけか。
気になって夜も眠れないとかじゃないけど、これから大量の魔物を相手にするから、その前に教えてもらってスッキリしておくのはいいのかも……?
「まぁ、説明している余裕まではさすがになさそうだから、詳しい事はまだになるわ。それでも、大体どんな事をしようとしているのか、くらいはわかるはずよ」
「リクは感じるだけでいいの。今はまだ、なの」
「感じるだけって……まぁわかったけど」
さすがに細かい説明などはしている時間はないというのはわかるけど、逆にもっと気になる事にならないといいなぁ。
あとユノ、言ってからなんとなく違うって表情をするのはどうなんだ? 多分、考えるな、感じろみたいな事を言いたかったのかもしれないけど。
「モニカも、それでいいわね?」
「えぇ。私はどういう事をするかはリクさんのように聞いていないし、多分聞いてもわからないだろうけど、目的はわかっているから。リクさんのためだけでなく、私達のためでもあるんだから、一度見ておきたいとも思うわ」
「モニカさん達のため……?」
「それじゃあやるの」
俺の疑問を無視し、モニカさんの言葉に頷いてユノとロジーナが、俺達に背を向ける。
話をするたびに疑問が深まる気はするけど、邪魔すると怒られそうだから今は黙ってどうなるかを見守っておこう。
「力は最低限、ほんの少し位相を変えるだけ。なの」
「わかっているわ。そっちこそ、変に張り切らないでよね?」
「心の中で一番張り切っているのは、ロジーナの方なの。私は大丈夫なの」
「張り切ってなんて……! いえ、こんな事で言い返している場合じゃないわ、はぁ。――やるわよ」
「――なの!」
溜め息をついてユノへ言い返したい気持ちを吐き出したのか、ロジーナが両手を空へ突き出し、それに呼応するようにユノも同じく両手を空へと突き出す。
俺達に背を向けたまま、右にいるユノが左手をロジーナへと向け、左にいるロジーナが右手をユノへと向けた。
ゆっくりと少し大きさの違う手の平を合わせ、顔も空を……いや、練習で作ったままになっている、俺達やユノ、ロジーナを包むドーム状結界の頂点へと向けたようだ。
「あれって……」
「モニカさん?」
何かに気付いたのか、モニカさんの口から呟きが漏れた。
「もしかしてあの時の? でも、似ているだけで違うのかしら?」
「どうしたの?」
「いえね、以前センテでリクさんが緑の光……だったかしら? あれの中にいてそれを助けに行く時の事なんだけど……」
「我等世界を創りし者」
「我等世界を破壊せし者」
モニカさんに話を聞きながらも、朗々とした発声を始めるユノとロジーナ。
創るは創造神、破壊は破壊神ってところだろうけど、両方「我等」と言っているのは別々ではなく繋がっているという意味なのかもしれない。
表裏一体とかそういうのも言っていたしね。
ともあれモニカさんの話では、センテで俺が意識を乗っ取られて緑の光、あの巨大な植物の内部に入ったというか、発生した植物の中心にいた時、助け出そうとして突入する際に、ユノ達がやっていた事と似ているらしい。
手を重ねて朗々と発声するのが同じだけど、あの時は両手を突き出すように掲げてはいなかったとか。
儀式っぽい感じがするから、そういった身振りとかも何か必要なのかもしれないけど……違う部分があるなら、センテの時とは違う結果になるんだろうと思う。
そんな話を聞いている間にも、ユノとロジーナからは朗々とした声が響き渡っており、いつしか俺もモニカさんも身じろぎすらせず一言も声を発しないよう注意しながら、ユノ達の様子に見入り、声に聞き入っていた――。
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