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9.隣に立つ覚悟①
しおりを挟む時は流れ、ついにパーティーの日がやってきた。
朝から屋敷は慌ただしく準備に追われていた。
何せ王室主催ということで、使用人たちの気合の入り方がすごかった。
「あの、おかしくありませんか?」
初めて着る華々しいドレスは、私には似合わない気がして不安になる。
「とても綺麗だ、アイリス」
「……うっ」
そう言って私を褒めてくれるセピア様は、圧倒的な美を誇っていて、思わず見惚れてしまう。
ま、眩しい……! 神々しさすら感じられ、直視するのもおこがましい気がした。
「どうした?」
「セピア様がとても素敵で、つい見惚れてしまいます……」
もはや私がいくら着飾ったところで、会場ではセピア様に視線が集まるだろう。
「……彼女の準備はもう終わったのか」
「はい、終わっております」
「そうか。もう下がっていい」
なぜか私の言葉に無反応だったセピア様は、部屋にいた使用人全員を下がらせた。
「あの、セピア様……どうなさいましたか? そろそろ出発した方が」
「あまり人前で私を刺激しないでくれ」
コツン、と頭をくっつけられる。
何かした覚えはないけれど、セピア様のスイッチを入れてしまったらしい。
「は、早く行きましょう! 馬車の準備もできているのですよね!」
「……そうだな。続きはそこですればいい」
「つ、続き⁉︎」
セピア様を急かした結果、馬車で大変な目に遭うこととなった。
◇◇◇
王室主催のパーティーは規模がかなり大きく、多くの人で賑わっていた。
参加者が多いため、目立たなくて済むと油断していたけれど、私とセピア様が会場入りするなり、視線が集中した。
「とても麗しいわ……」
「公爵様って素敵なお方なのね」
誰もがセピア様に釘付けだった。
さすがはセピア様だ。一瞬にして多くの人を虜にしてしまうなんて……あまり良い気はしない。
「ああ、なぜ公爵様はあのような落ちこぼれの女を選んだのでしょう」
最初はセピア様に対する賛美ばかりが聞こえてきたけれど、ようやく私の存在が目に入ったのか、覚悟していたことが起こる。
「一応貴族らしいけれど、没落寸前だとか」
「しかも聖女候補だったんですって。神殿ではろくに神聖力も使えない無能と言われていたそうですよ」
「まあ、公爵様が気の毒だわ」
私に対する陰口が徐々に広がっていく。
やはり私の評価は最悪だった。
貧乏貴族出身で、聖女候補だった落ちこぼれ。セピア様とは不釣り合いだ、と。
「なぜ公爵様はあのような方と婚約したのでしょう」
「弱みでも握られてしまったのしら。このままだと公爵家の名に傷がついてしまいますわ」
「彼女が聖女なら公爵様も良かったでしょうに」
ああ、痛いところを突いてくる。
覚悟はしていたはずなのに、私が不安に思っている部分に対する陰口が多く、想像以上にダメージが大きかった。
「……アイリス」
「私は大丈夫です、セピア様。ここはおとなしくやり過ごすのが正解だと思うので」
本当は認めてもらうために……と色々考えていたけれど、ここは変に相手を刺激しない方がいいだろう。
セピア様は心配してくれている様子だったけれど、私は笑顔で言葉を返した。
「それよりも、これから国王陛下にご挨拶するんですよね。緊張してきました」
緊張とは、単に相手が偉いから……ではない。
聖女様を死ぬまでコキを使った人間に、ようやく会えることに対してのものだった。
「形式的なものだから、あまり緊張しなくていい」
「……はい」
その後、私はついに国王陛下と対面した。
「おお、セピア! 久しぶりだな、そなたと中々会えずに寂しかったぞ」
陛下はとても優しそうな見た目だったが、目が笑っていない笑顔に少しゾッとする。
何を考えているのかわからない、裏がありそうな人物だ。
「ほう、そなたがセピアの婚約者か」
「国王陛下にご挨拶申し上げます」
「堅苦しい挨拶はいい。そなたは聖女候補だったようだな。神聖力があるにも関わらず、聖女になれなかったのは残念だっただろう」
どこかトゲのある言い方だった。
わざわざ聖女になれなかったことを、多くの人の前で言う必要があるだろうか。
ただでさえ周囲から視線を集めているというのに。
「実はセピアには新たに誕生した聖女を勧めるつもりだったんだが……今更だがどうだ、興味はないか?」
仮にもセピア様の婚約者がいる前で、他の女性を紹介するなんて性格の悪いことをする。
それも、冗談っぽく言っているところが余計に腹が立った。
「確かに公爵様には聖女様がお似合いだわ」
「いっそのこと聖女様を正妻にして、彼女を愛人にすれば良いのに」
周囲も陛下に同感していて、後押しするような言葉を放つ者もいた。
陛下に視線を向けると、ニヤッと悪そうな笑みを浮かべながら私を見下ろしていた。
やはり冗談ではなく、初めからこれが狙いだったらしい。
陛下は、セピア様を偽物の聖女と結婚させたいようだ。
「冗談のつもりで言ったのだが……あまり真に受けないでくれ」
流れは完全に陛下に向いていた。
さすがの私もこの状況で打つ手などなく、ただ黙って俯くことしかできなかった。
そろそろ限界に達し、泣きそうになったその時──
そっと、セピア様に肩を抱かれた。
「もちろんそのつもりです、陛下。私は彼女以外興味がありません」
「……っ」
心が折れそうになったけれど、セピア様の言葉に救われる。
「これから先、彼女を手放すことは絶対にあり得ませんので」
「……ほう、そうか。それは残念だ」
セピア様の一言で、さらに会場が騒がしくなった。
セピア様が私に惚れている、という事実が今ので伝わったからだろう。
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