8 / 11
8.愛の言葉②
しおりを挟む「眠れないのか?」
私がゴソゴソしていたからか、セピア様に声をかけられる。
睡眠の邪魔をしてしまったかもと思い謝ろうとしたけれど、思いとどまった。
「誰のせいだと思っているんですか」
じっと睨むように見つめると、セピア様に笑われてしまう。
「君があまりにも可愛いから、少しタガが外れてしまったようだ。気を悪くさせたならすまない」
「嫌ではなくて……ただ、少し……中途半端、すぎませんでしたか」
セピア様に聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で話した後、恥ずかしさを隠すように毛布で顔を覆う。
直後、セピア様が小さく笑みをもらしていたため、どうやら聞こえていたようだ。
「それは申し訳なかったな。あれ以上は私自身が耐えられそうになかったのだ」
「本当ですか? 随分と余裕がおありでしたが」
「まさか、君といる時間は常に理性を保つのに必死だ。今だって本当は我慢している」
セピア様の表情が気になった私は、毛布から顔を覗かせる。
セピア様は愛おしそうに私を見つめていた。
「だが君の傷つく顔は見たくないからな。少なくとも結婚までは我慢しないと」
「……本当にセピア様は私のことが好きなのですね」
別に今まで隠しているつもりはなかっただろうけれど、直接好きと言われた記憶がなく、思い切って尋ねてみることにした。
「ああ、君のことが好きで仕方がない」
「……っ」
どストレートに伝えられ、私が恥ずかしくなる。
「その割には全く言葉にしてくださらなかったじゃないですか」
拗ねているように聞こえただろうか。
けれど、中々言葉にされないから自惚なのかなと思う時もあったくらいだ。
何か理由があったのかと気になったけれど……。
「……そういえば、そうかもしれない」
セピア様はしばらく考え込んだ後、自分も初めて気づいた様子でそう言った。
「えっ、もしかして無自覚でしたか?」
「言葉にしていたつもりだったが……すまない。君と結婚まで漕ぎつけられて一人浮かれていたようだ」
漕ぎつけられてって……まだ婚約関係なだけであって結婚はしていないのだけれど。
ただ、今の言葉で嫌な気持ちになるわけがなく、自然と頬が緩む。
「いつからですか」
「うん?」
「いつから私のこと好きだったのですか? 全く気づきませんでした」
その様子だと求婚された時からすでに私のことを好きだったようだし、正直気になった。
「気づけば好きになっていた、という表現が一番正しい気がするが……それは答えになるだろうか」
「それはずるい言い方ですね。もっと何かないですか? きっかけとか、昔は私のことどう思っていたとか」
普段ならこんな踏み込んだ質問などできない。
まだ少し興奮が冷めやらぬ今しか聞けない気がして、気になることを勢いのまま尋ねていた。
「そうだな……私は元々君の話を聞いていて、君という存在が気になっていた。興味、という意味合いが正しいだろう」
「えっ、そんなの初耳です。私と会う前から私のことを知っていたってことですか?」
「ああ、そうだ。だが神殿での君は良くも悪くも目立っておらず、正直君という存在が中々掴めないでいた」
神殿に足を運んでいたセピア様は、遠い存在の人だった。
正直、私とは一生関わることのない人だと思っていた。まさかその時からすでに私のことを認知されていたなんて……意外だった。
「しかし君は、よく聖女様の眠る墓に行っていただろう? 誰もが記憶から忘れていく中で、君だけが……私はそれが嬉しかった」
「実は私も、聖女様のことを忘れていない方がいて嬉しかったんですよ」
「お互い同じことを思っていたのか」
ふっ、と互いに笑い合う。
「その時に心優しい人だと思っていたが、次に会った君は他人の服を破こうとしていたから驚いた」
「なっ……それには事情があって」
「わかっている。周囲に立ち向かう君は、とても強い人だなと思った。私に対しても怖気付かなかったのは君ぐらいだ」
「でもセピア様に洗濯物をぶつけてしまった時は本当に心臓が止まるかと思いましたよ」
「その割には満面の笑みを浮かべていた気がするが……ふっ」
「な、どうして急に笑うんですか!」
「いや、その直後の君の謝罪を思い出して……あれほど勢いのある土下座は初めてだったな」
スライディング土下座をした時の記憶もばっちり残っているようで、とても恥ずかしい。
「今すぐ忘れてください!」
「努力しよう」
そう言いながらもセピア様はまだ笑っているため、絶対忘れる気がなさそうだ。
「もう……」
「怒った顔も可愛いな」
拗ねているのに……そんなに愛おしそうに見つめられると、これ以上何も言えなくなる。
「きっと私は、君を知っていく度に惹かれていったんだ。美味しそうにご飯を食べる姿も、嬉しそうに笑う姿も、悪そうな表情すらも、いつしか愛おしいと思うようになっていた」
そんな風に思ってくれていたんだ。
言葉にされるのは少し恥ずかしいけれど……それ以上に嬉しさが募る。
「もちろん今も、その気持ちは増していくばかりだ。先程の甘くもれた声も、恥ずかしそうに目を潤ませながら……」
「も、もう十分です!」
もうこれ以上は私の心臓が持ちそうにない。
「もう構わないのか? まだまだ話せるが……」
「しっかり伝わりましたので大丈夫です!」
「そうか」
セピア様の言葉で余計にドキドキしてしまった私は、その後も中々眠れそうになかった。
172
あなたにおすすめの小説
はずれの聖女
おこめ
恋愛
この国に二人いる聖女。
一人は見目麗しく誰にでも優しいとされるリーア、もう一人は地味な容姿のせいで影で『はずれ』と呼ばれているシルク。
シルクは一部の人達から蔑まれており、軽く扱われている。
『はずれ』のシルクにも優しく接してくれる騎士団長のアーノルドにシルクは心を奪われており、日常で共に過ごせる時間を満喫していた。
だがある日、アーノルドに想い人がいると知り……
しかもその相手がもう一人の聖女であるリーアだと知りショックを受ける最中、更に心を傷付ける事態に見舞われる。
なんやかんやでさらっとハッピーエンドです。
【完結】聖女レイチェルは国外追放されて植物たちと仲良く辺境地でサバイバル生活します〜あれ、いつのまにかみんな集まってきた。あの国は大丈夫かな
よどら文鳥
恋愛
「元聖女レイチェルは国外追放と処す」
国王陛下は私のことを天気を操る聖女だと誤解していた。
私レイチェルは植物と対話したり、植物を元気にさせたりする力を持っている。
誤解を解こうとしたが、陛下は話すら聞こうとしてくれない。
聖女としての報酬も微々たる額だし、王都にいてもつまらない。
この際、国外追放されたほうが楽しそうだ。
私はなにもない辺境地に来て、のんびりと暮らしはじめた。
生きていくのに精一杯かと思っていたが、どういうわけか王都で仲良しだった植物たちが来てくれて、徐々に辺境地が賑やかになって豊かになっていく。
楽しい毎日を送れていて、私は幸せになっていく。
ところで、王都から植物たちがみんなこっちに来ちゃったけど、あの国は大丈夫かな……。
【注意】
※この世界では植物が動きまわります
※植物のキャラが多すぎるので、会話の前『』に名前が書かれる場合があります
※文章がご都合主義の作品です
※今回は1話ごと、普段投稿しているよりも短めにしてあります。
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
触れると魔力が暴走する王太子殿下が、なぜか私だけは大丈夫みたいです
ちよこ
恋愛
異性に触れれば、相手の魔力が暴走する。
そんな宿命を背負った王太子シルヴェスターと、
ただひとり、触れても何も起きない天然令嬢リュシア。
誰にも触れられなかった王子の手が、
初めて触れたやさしさに出会ったとき、
ふたりの物語が始まる。
これは、孤独な王子と、おっとり令嬢の、
触れることから始まる恋と癒やしの物語
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜
鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。
そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。
秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。
一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。
◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。
完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる