ブレインダイブ

ユア教 教祖ユア

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序章・対の戦い編

1-13 13 香露音視点 痛み

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「っ………痛い…」

怪我はしていない。しかし体の節々に激痛が走る時がある。

(腹が立つ…あの時のトドメの一撃が私の首を跳ねるときのあの顔が…!)

まるで草刈りのように作業の顔だった。

「…?香露音、大丈夫?」

この痛みの理由の緋色本人が心配そうに見つめる。

「う、うん。大丈夫。」

「そう?ならいいけど。」

緋色は夏希に話しかけた。

「そういえば、夏希、試験には出なかったじゃん?資格、取る気ないの?」

「うーん…無理かな…少なくとも個人は。」

「じゃあ団体は?」

「良いんだけど人がね…」

「ふ~ん…香露音も団体出ないの?」

「え?」

「香露音と夏希で組めば良いんじゃない?香露音は能力的に団体向いてると思うよ。」

「緋色は団体出ないの?」

「うーん…どうだろ。個人戦でもう取ったし…多分出ない気がするんだよねー知り合いに聞いてみようかな…」

多分後輩のことだろう。

夏希から聞いた話だが、2日目に試験場全員に洗脳されたらしい。

しかし、鶴ちゃん、夏希、緋色、緋色の後輩は洗脳されずにいれたらしい。

緋色は出場者全員を引っ叩いて洗脳を解いたあと、普通に決闘した。

それ以外の人は大地の涙に探しに行った…との事。

そして、緋色はわざわざ緋色含む10人に契約約束した。

しかし、軽い契約内容なようである意味保険なようだ。

緋色自身にもかけている分、それで承諾を取ったのだろう。

一人だけ挙動不審な人が居たみたいだが。それだけが夏希も気になっているらしい。

しかし、夏希どころか一番信用していると思われる後輩に対しても言っていないらしいので、何かはあるのは確実だ。

その何か…は分からない。

緋色は一体何を隠しているのか。

(それに…あの時…多分バレてただろうし。)

そしてアナライズに関しても、緋色に向けると一瞬で気付いていた。

いつもは許可を取ってからすると、基礎能力くらいは見えるがこっそりするとそれすらも見えず、本名すら隠している。

そこまで隠す理由は何なのか…そこまで隠せる理由も分からない。

それよりも資格を取ったことがあまり嬉しくなさそうだ。

しかし、どうやら嫌々ながらも外に来週に出る予定だ。

外の世界は、何があるか分からない。

少なくとも人間では無い何かと戦い、何かから出た素材を入手して、それを鍛冶屋という能力を持っている人に頼んで何やかんやするらしい。

外の世界というものは知らないが、どうやらとても美しいらしい。

人間の手が加わっていない世界。

「うーん…夏希。私と組む?団体でも資格取った方が良いと思うし。」

一人では外の世界に行けないが、それでもちゃんとした資格だ。

それに、次の個人の試験に出て、資格を取れば、どちらも個人で出来るほどの実力を持っているだけではなく、仲間と共闘できる力を持っていると証明できる。

(負けてしまったのは仕方無い。実力が至らないだけだもの。)

寧ろ安心している自分がいる。人を殺す事を作業の様に行うような人に次の決闘はもう会わない。

緋色は何よりも強かった。糸を操るだけの能力ではない。

そして、その脅威は緋色によって更に上がる。

(人を平気で殺せる人に躊躇いなんて無い。人を殺せるベストなタイミング。それをちゃんと分かって実行出来るものね。)

香露音はそんな事できない。

タイミングなど考えたことも無ければ、考えたくも無い。

(剣で人を突き刺すあの感じは何度やってもなれない。気持ち悪い…緋色が可笑しいだけとさえ思う。)

小学園の頃は全く知らないが、どういう事をして慣れたのだろう。

「確かに、資格を取った方が良いと思うけど。無駄にはならないし。でも、もう一人誰にするの?」

団体戦は3or3で戦う。

ついでに、団体戦で出たいが、一緒に出場する人がいない人もいるのでその人と組む場合もある。

「ソロもどきと組むの嫌だしね…どうしよう。」

「そうそう。たまにだけど、内通者いるじゃん?」

「本当に聞くよね…前回も、前々回もいたし。」

自分のところが有利になるように金を払うか友達に頼んだりして、裏切り行為をする所がある。

本当によくある。なので、余程の実力の自信が無いと知らない人と組まない。

二人でも、もしくは一人でも倒せるくらい力があればの話だが。

普通に考えて無理な話である。ルール的にも実力的にも。

そもそも個人戦で実力が至らないから、三人で試験を受けるのに、一人減れば崩れるのは確定である。

「実力の問題にしてもさ…個人の方で資格取れるレベルだったら確かに良いけどさ…」

「既に取ってるレベルだったら駄目だよね。」

公平の為に資格を取っている人が一人以下のチームでなければならず、一人もいないチームと当たる場合は、資格を持っていない人が一人生き残る、つまり、二人以上生き残らなければならない。

ついでに、資格を持っている人が相手チームの全員倒すと、その決闘は無効となり、再決闘となる。

「うーん…駄目ではないけどちょっとね…」

チャイムが鳴る。すると、緋色が立ち上がった。

「んー。そろそろ帰るね。じゃ!」

そう言い、緋色はそそくさに帰っていった。

なので、自分達も続けて帰ることにし、帰る用意をして学校を出た。

(クレープ屋に久しぶりに行こうかな…彼氏を待っている間…)

特にする事も無いので、近くにあるクレープ屋に行くことにした。

すると、クレープ屋の近くで決闘をしていた。

はっきり言って決闘する事はあまりない。何故なら決闘を申し込む時点で申し込んだ人が確実に勝てる自信がある人だからだ。

なので決闘の申込みをされた時点で、時すでに遅しだったりする。

(また、不良擬き三人組か?)

しかし、違う。制服姿を見るに学生同士だ。

「………は?あれ…鶴ちゃんと緋色じゃない!?もう一人は…………緋色の後輩…?そういえば…夏希に鶴ちゃんと後輩と緋色は同じ小学園だったっけ。緋色と鶴ちゃんとは全く面識無かったみたいだけど。それにしても…」

三人の息がぴったりだ。緋色は個人戦の時のように死線を使いながら攻撃し、後輩は軽快な動きで相手を斬り伏せ、鶴ちゃんは……こんなに強い人だったのだろうか?

もしかしたら…………?

(少なくとも、今まで戦いたがらなかったし、仕方ない時は基礎能力だけだった。非能力者なのかとさえ思っていたけど…やっぱり能力者なのね…)

それにしても戦いたがらなかった割には戦いに慣れている。

決闘はどうやら終盤らしく、直ぐに勝利した。

それにしても早すぎる。

(緋色は確かに資格持ってるけど…後輩は試験落ちたから持ってないし、鶴ちゃんもそんな話は1回も聞いてない。)

負けた生徒の一人が叫ぶ。

「こ、この裏切り者!何でコイツの味方をするの!?負け犬如きに!」

鶴ちゃんに対してだった。鶴ちゃんは少し考え、ゆっくりと言った。

「私は…棚見が決して弱いとは思わない。」

「この無能力者の無能が?ハッ!笑わせないで!」

「そんな事を言っている…そっちの方が、弱く見えるよ。私が強く言えないからって、不良使って脅そうとして、棚見と先輩が助けに来たからあの人達は逃げたけど…棚見を見た瞬間、愚弄の言葉ばっかり言って現れて。」

「な…!」

「弱者なのは変わらないでしょ!弱者に弱者って言って何が悪いのよ!」

「そうだ!そうだ!今でも無能力者なのは変わってない!でも、俺達は資格を全員持ってる!個人でだ!」

緋色が溜息をつく。

「そんな物、何の自慢になるの?鶴ちゃんは強いよ。決して弱くは無い。そんな人が強いって言ってんのに…ねぇ?というか、負けた癖に弱者って。どの面下げて言ってんの?」

緋色は歳下には充分なほどに寛容な人だが、今日は容赦無い。

「クレープ屋の近くで彷徨いてたあの、馬鹿共。あの人達を?何、買収でもした?いや違うね。契約の方だったか。」

「どうして分かって……!!」

「アナライズ。適当に隠しただけではバレるよ。んーと…契約内容は…馬鹿丸出しだね。いくらでも抜け道があるじゃん!」

「アナライズで分かる訳が!」

「しょぼいんだね。貴方達のアナライズ。ねぇ…皆、わかるでしょ。鶴ちゃん、春斗。」

「はい。一応。」

「は、はい…」

二人が頷いている。簡単に言っているが香露音は出来ないし、出来る人等聞いたことが無い。

「自分の能力の強さに溺れているだけ。対して強くないよ。それなのに…私の後輩を、よくもまあ………馬鹿にしてくれたね。」

緋色は笑っているが、目が死んでいる。

「ひ、ひい…」

緋色は両肩を掴んだ。

「何で中身の無い人間って、馬鹿にするんだろう?能力者ってだけで何が偉いんだろう?どんな時でも諦めずに努力してる奴がよっぽど偉いと思うけど…?そう思わない?」

「あ………あ………」

「言えないよね。図星だもんね?」

「この………」

一人の挙動が明らかにおかしい人がいる。

「この野郎…馬鹿にしやがって!棚見の何処が強いんだよ!教えろよ!なあ!棚見!」

小さなナイフを持ち、後輩を刺そうと走る。

突き刺され赤黒い雫が地面に滴り落ちる。一瞬の出来事だった。

(……!!!後輩が刺され……てない…?まさか!)

緋色が膝が崩れ四つん這いになっている。

「緋色先輩!?」

「か、樫妻先輩……!!」

二人はパニック状態だ。それだけじゃない。刺した本人は狂気でおかしくなっている。

流石にさっきまで虚勢を張っている二人も腰抜け状態だ。

(流石に見てるだけにはいかないか!)

刺した生徒は更に後輩に刺そうとする。

「縮地(中)……そして斬鉄剣(小)…!」

高速で生徒に近付き、斬鉄剣で、ナイフを弾いた。

流石に武器無しで(小)威力ではナイフは壊れない。

しかし、相当な反動がナイフを伝って人に来るので大抵は手を離す。

「あ…香露音…いつの間に…」

死にかけの声で言う。今回は気付いていないようだ。

「貴方!それはただの犯罪よ!」

「だ、黙れ!こいつも!俺も!知らないくせに!入ってくんなよ!」

すると、後輩が立ち上がり生徒をぶん殴った。

「知るかよ…!じゃあ言ってみろよ!なあ!」

5発くらい連続で殴り倒した。鼻血が出ている。

「俺の強さも!お前だって知らないだろ!そんなに、俺に負けるのが嫌か!?許せないか!認められないか!」

棚見君の口調が変わっている。

「っ…!………黙れ!二人が強かっただけだろ!」

「じゃあ、ずっとそう言っておけよ!そうやってずっと逃げとけよ…!俺はあの時みたいに弱くは無い…!」

棚見君は襟を掴んでいた手を離して、緋色の元に向かった。

その間に、香露音は警察に連絡し、救急を呼んだ。

三人は逃げようとしたので全員逃さずに捕らえる。

「犯罪者は黙ってそこに座ってなさい。」

香露音は緋色の方を見る。

「すみません………僕のせいで…!」

「何処が…あんたのせいなのよ…」

「だって………!」

「あの時に…私は…咄嗟に能力を使えなかった…ただそれだけだよ。」

「緋色先輩………!」

「ほら…鶴ちゃんも泣かないで…死ぬ傷じゃ…無いって…春斗…女々しい顔すんなって…」

「グスッ……そんな顔してません…」

「そう言う事にしとく………ねぇ…香露音…」

「……何?」

「私…寝るから…あと頼んだ…」

そして緋色は眠りについた。意識が飛んだかは分からない。

しかし、頼まれたからにはしっかりしなければならない。

やっと救急がやって来て、緋色が運び込まれる。ついでに、警察も同時に来て三人を押し付けて、救急に鶴ちゃんと棚見と香露音もついていく。

病院に直ぐに到着し、治療を受けている。緋色が言った通りに命に別状は無いらしい。

香露音は、二人に聞いた。

「ねぇ………貴方達は何を隠しているの…?」
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