ブレインダイブ

ユア教 教祖ユア

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弐章・選ばれし勇者編

2-2 34 香露音視点 存在しない存在する友

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よく緋色が部活を休んでいる。

香露音の部活には第二学年は香露音と緋色の二人しかいない。

なので香露音が一人で仕切ることが大半だ。

あまり苦痛ではないので、香露音的には変わらないが。

「……やっほ~…」

少し疲れたような顔で緋色が部室にやって来た。

こんな疲れた顔は初めて………かもしれない。

(初めてなのに、何回か見た気がする……?)

最近、何か違和感がある。本当に些細な違和感。

違和感と言えない本当に小さな引っかかり。

「こんにちはー」

「…………こんにちは………………」

「どうも~」

「こんにちは。」

後輩達が挨拶する。

緋色は香露音に話しかける。

「後で…話があるんだけど…」

神妙そうな声でそう言った。珍しい。

もしかすると、その疲れた顔と関係あるかもしれない。

香露音は承諾の返事を返した。

部活動も終わり二人きりになる。

「どうしたの?話って。」

「……私達さ…もう一人居たよね?」

急な話についてこれない。

「この部員で…私達と同じ第二学年の子。」

いる訳が無い。元から二人だった筈だ。

なのに、何故かそれを完全に否定出来ない。

「…………………」

「本来なら…この日…その子はブレインダイブに開眼している。」

「本来なら…その日?」

「私達は…過去に戻ってる。やり直しているっていう方かもしれないけど。」

話が飛躍しすぎている。しかし、冗談だと思えないのは何故だろう。

それに香露音が忘れている子は、ブレインダイブに開眼しているらしい。

心に残る靄が更に増えていく。

これを軽々しく、払っていいものだろうか?

「思い出して欲しい。忘れたい記憶だったとしても、忘れてはいけない記憶なの。」

緋色は強い眼差しで香露音に言う。

忘れたい?

忘れてはいけない…?

「…私の友達が…思い出したら苦痛を伴うかもしれない……?あれ?何で私はその子を友達って…」

更に靄がかかる。

思い出さなければいけない気がする。

「私は…記憶を……忘れている…?」

思い出さなければいけない記憶が確かにある。

「そうだよ。皆、忘れてる。部活の皆でクレープ屋に行ったでしょ!そこで不良に絡まれて、私達三人で戦ったでしょ!そこで私は開眼したの。皆で頑張って、勝ったじゃん!」

緋色が……開眼した…そこまできっと……世界は…進んでいた…

「香露音と、その子と、アーチャーの子と。三人で試験に行って、資格取ったんじゃないの!」

アーチャーの子とは椿の事だ。

「私と、椿と…」

もう一人。どうして思い出せないのか。

「………もう一人と……鶴ちゃん達と決闘…して……」

何故、鶴ちゃんと決闘している事を知っているのか。

まだ、決闘した事が無い筈だ。

「一度、決闘してた…」

思い出さなければならない。


死んでしまう…それなのに…何も出来ない…!!


声が聞こえる。頭が割れる程に痛い。


緋色のあの光は…それよりも、あの死神と戦えるのが緋色だけなんて…!
私は…何も出来ない……!


苦痛。頭痛よりも痛い心の痛み。


やっぱり、香露音は凄いなぁ!
いいや、皆のおかげでしょ!

私と誰の会話だろうか。いや…知っている、彼女に決まっている。

あの時、殺される寸前だった。何も出来なかった。

そんな、後悔を…忘れてはいけない。

更に頭が痛くなる。

「……うぅ…………!!」

呻き声を上げ、膝をつく。何かの痛みで涙が止まらない。

「はぁ…!はぁ………な…つき………緋色…!夏希は何処に行ったの…!」

「思い出したんだね。…夏希は消えた。私も分からない。でも見て。記憶が戻って認識出来るようになった物がある。」

「資格とか…私の武器…」

「そう。決して過去に戻ってるだけじゃない。引き継がれてる。」

確かに、さっきまで無かったものがある。

緋色の言い方に変えると認識が出来るようになっている。

「……どうなってるの…?これ…夏希が居ないし、武器はあるし、何だったら資格もそう。でも…記憶はさっきまで無くなってた。夏希が居ないって事はこれから先の未来は変わる筈だけど…」

「もう既に変わってるんじゃないかな…?昨日夏希が開眼したはずなんだけど、夏希がいないから…香露音が夏希に話しかけてないし…」

よく覚えているな…と思いつつ香露音も納得する。

「あれね、夏希に対してブレインダイブに開眼したのか聞いてたね。…それが、今回は私が椿に話しかけられたと…」

思い返せば、確かに夏希が居ないことによって色々変わる事が起きていた。

「私が思い出したって事はそれで良いとして…他に思い出した人は…?」

「いない。私だって昨日思い出したし。私は夏希を復活させたいの。」

「…そうだね。私も思い出したからには。」

「だけど、私だけって言っても絶対に一人じゃ何も出来ないからさ。協力してくれそうな春斗と、直ぐに思い出せそうな香露音に協力を仰ごうと思って。」

「…まぁ、そうだよね。私もそうする。でも、何をする?どうすればいいか、私には検討つかない。」

「…はぁ………そこなんだよ…私も分からない…でも、二つ名の人ともう一回関わりを持とうと思って。」

「……どうやって?」

「1週間後、夏希が私の精神世界に行ったじゃん?」

緋色は何故知っているのか。まずそこがおかしい。

「う…うん。」

「で、その時私、部活休んでて…その時に散歩行ったの。そこでクソジジイに絡まれてさー…」

聞いていない。そこは緋色から聞いていない。

確かに次の日は疲れていた気がしなくもないがそんな事があったらしい。

「しかもさー…そいつが資格所持者でさー…」

決闘している前提なのがおかしい。

不良と絡まれた時に喧嘩を迷いも無く勝った香露音が言える事ではないが。

「殺される寸前に朱の流星に助けてもらったんだよね。」

だから、朱の流星と知り合いだったのかと思う。

「これに関しては、元々夏希が居ないから多分今回も同じ事が起きる。」

いや…隠蔽出来るのがおかしいんだよ…?それに、ずっとでしょ…開眼してから今までで、ステータス何一つ変わってないのはおかしいし。」

「…あ、そう?別にやろうと思えば香露音でも出来るよ?」

「あ、本当に?」

「あっても困らないし、教えようか?」

という事で、簡単に教えてもらった。だからといって出来るわけではなかったが。

棚見君もこれが出来ると思うと恐ろしい。

この二人は修羅場を潜り過ぎているとさえ思う。

すると、香露音は二つ名の人と…という言葉に何か引っかかった。

「……今思ったけど…まさか…大地の涙とも関わろうとしてないよね…?」

「するよ。」

予想は的中してしまった。

朱の流星だけでいいなら態々二つ名という言葉はいらないからだ。

「私は知らないけど…試験会場の皆を巻き込んで洗脳する人だよ…?大丈夫?」

「ん~~~………………大丈夫。」

物凄い間があるが本当に大丈夫だろうか。不安でしかないが…

「…まあ…最悪皆が洗脳された時は……何とか解除を試みるよ…」

「何で自分はされない前提なの……」

「された時は………それは私とは言えないからね………」

その言葉に何か深い意味がありそうだが深読みはしないでおく。

「取り敢えず……引き継ぎされているんなら…外の世界には割と自由に行けるし便利っちゃあ便利。」

「…そうだね。何にせよ、あの死神を如何するかは一旦後回しにして、どうしたら夏希を復活出来るかが問題だけどね。今回も、私は試験に出るよ。個人の方。」

「そうだね。……キツイなぁ…」

「どうしたの…?」

「春斗と香露音が当たるのかぁ…って思って。」

「それはどうかな…?」

「何で…?」

「私と、棚見君と、緋色があの試験に出た結果でしょ?私達が固まってるのって。」

「ああ~!そういう事ね。私が居ないから、誰が当たるか分からなくなると。」

「そういう事。」

「そうか…過去に戻るとか、誰かが居る居ないって…こんなに違うものか…」

緋色でさえもこのスケールの大きさについていけないようだ。

「まぁ…………どうする?後輩達に言う?」

緋色が自信なさげに言う。

「言ったら?やっぱり…言ったほうがいいんじゃない?」

「そうだよね…………」

「私が言おうか?」

「頼んます………」

もしかしたら緋色は怖いのかもしれない。

真実を知る事が。真実を教える事が。

時に絶望を教える事になる。

今回はそんなことないのかも知れないが、次は…その次は…と思えてならない。

「取り敢えず、今日はもう暗いし帰ろう。」

「そうだね。じゃあ、また明日………」

二人は解散した。

香露音は自分の正義をもうすぐで試される事を知らない。
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