ブレインダイブ

ユア教 教祖ユア

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参章・昇りし太陽編

3-1 58 緋色視点 地獄に昇る太陽

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「ガハッ…!」

緋色は吹き飛ばされる。

「アハハハ…!ちょっとやめたげてよー!」

「って言ってる割には爆笑してんじゃん!ハハ!」

「ちょっといたそー…」

「ちょっと良い子ぶんなよ。お前だって、ちょっと楽しんでんじゃん!」

4人が下品に笑っている。

今日はハンターと、ウィザード2人、蒼の太刀だ。

まだマシな方だと緋色は思いながら、立ち上がる。

(柊さんとか柄上さんとか………あっちの方が苦しいし…)

痛いのには変わりないが、そんなものは自分が無能力者で弱いから悪い。

「ポイズン(大)…で、聞いてよ!家の彼氏がさぁ…!」

ポイズンをかけられ身体に毒が蝕んでいく。

というか、遊ぶのに飽きたのならさっさと開放して欲しい。

こっちだって暇じゃない。

お前達の玩具に成り下がる暇があったらさっさと死んでやる。

「ガハッ……!」

毒がいつもより回っていたようでまた血を吐いてしまった。

視界がぐるぐると歪む。

「うわっ…きったね…」

「だからいったじゃん…毒付与は止めたほうがいいって。」

「そうだぞ?衛生観念もうちょっと見直しな?」

「いやぁだって、楽じゃん?」

「それはそうだけどな…」

残りのライフも少ない。

こんなことしても決闘だから傷など残らない。

皆死ねばいいのに。

助けて欲しい。

でも誰も助けてこない。

自分の話を聞いてくれない。

全員敵だ。

此処は…全員敵だ。

早く…いち早く殺さないといけない。

全員殺さないと…自分の意見が通らない。

力で自分の味方を作らないと、誰も、自分の事を正しいと言ってくれない。

自分の敵は…殺さないといけない。

少なくともここに居る全員は…殺す対象だ。

自分の事を我が身可愛さで何もしてこない。

お前らの身は大した価値など有りはしないのに。

ゴミだ。この世界はゴミだ。

何度…耐えないといけないのか。

(また………耐えないといけないの…………)

また…?

一度終わったのだろうか?

「本当に此奴って弱いよな!」

鳩尾を蹴り上げた。

「グッ………」

痛みで立てない。

何で…?

私は何をしたの?

悪い事は何1つしてないのに!

何で私に無い事を告げ口されないといけないの?

何でしていない事を屑教師に、親に怒られないといけないの?

本当に…理不尽極まりない。

ゴミだ…この世界は………ゴミだ。

何故…自分はこんなにも弱いのか。

勝てるように努力した筈だ。それは直ぐに無駄になった。

………殺してやる。

全部、壊してやる。

「やっぱり、あんた優しいねー!蒼の太刀なのに武器使わないであげるなんて!アハハハ!」

「それでも、勝てないって!ププ…無能力者の中でもトップクラスに雑魚。それこそ無能。プププ…!」

「ほらほら!なんか言ってみろよ!」

何度も何度も蹴られる。

(……無能力者で…何が…悪い…!それに私は…!)

それに私は…?

その続きは何?何がその後に続く?何か言葉があるのか?

それに私は…無能力者じゃない…とでも思ったのか?

私が…?

何故?

アナライズをしても能力者ではない。

それでも、何故か否定している自分がいる。

理解不能だ。

「ほら…お前もなんかしたら?」

「飽きた。それに眠い…」

「此奴で遊んだら目が覚めるって。」

「もう、樫妻さん立てないって。死にかけの人間、つついて楽しい訳ないじゃん。ピチピチ動いてるやつの方が楽しいって。」

「何だよ~つまんねぇの。」

此奴の下品な目を潰す方法は無いのだろうか。

「じゃ、さっさと殺すか。俺も白けた。」

作業の様に剣を突き立てる。

腹が立つ。

お前に対して…私の命はその程度か。

軽々しく見過ぎだ。

少なくとも紙のように薄っぺらい人間よりは私の命は重さを感じる程度はある。

反逆してやる。

「鎌鼬(小)……!」

「ぐわぁあああ…!?眼が!眼がぁ…!?」

「あれ…?」

何でこんなに威力が出ているのだろうか。

それに…

「……大袈裟すぎない?」

決闘中に眼が潰れることなど普通だ。

「決闘中に目が潰れるのは普通でしょ…?何でそんなに痛そうに……あ…ゴメン…ネタか。……空気読んでなかった…」

少しそれに関しては申し訳ない。

あまり人と喋ってないのでネタというものがあまり分からない。

しかし、残りの3人の顔が急変する。

「なにやってんのよ!無能の癖に!」

「それに、目が潰れるのが普通な訳ないでしょ!?逆に…何でネタになるのよ!」

どうやら、素の反応らしい。

「じゃあ、やっぱり…大袈裟なだけなんだね………その程度で…私なんて…」

左眼潰れても、何も叫ばなかった。

そう言おうとして止めた。

そんな記憶ない。………筈だ。

…さっきから…自分が可怪しい。

何で、さっきから無い記憶があるのだろう?

良く分からない。

もしかして、実際あったのだろうか?

じゃあ、何処で?何時?何が?

その記憶は楽しいものだろうか?

……それは無いな。

きっと……地獄だろう。

絶対に…私が幸せになる事なんて…無い。

「この…!散弾(中)…!」

銃を構え、そのまま撃ち込んだ。

「縮地(小)…」

「は?何で避けれて……!?」

「昨日までは、食らってたのに…!」

「……私も驚いてるって…だから………」

徐々に口が悪くなっている。

それが本来の私だろうか。

ならば、思い出した方がいい。

その私を思い出せるのなら。私が出る事を許されるのなら。

「だから…黙ってろ。」

傷が酷い。

きっと、今ならあり得ないだろう。

「なっ…!?」

思い出してみろ。

「私は……一体何を忘れていると……思う?」

「…は?何を…言ってるの…樫妻さん…」

殺意を思い出せ。


「決まってる!私は…大事な後輩を…!??を!殺して力を得る!」


誰だ?これは誰を殺そうとしている?

何故力が必要だった?

突如頭痛が引き起こされる。…知っている。この痛みを知っている。


「…樫妻先輩には悪いですが………でも…かけるしかありませんよ。樫妻先輩なら…どうせ誰よりも早く思い出してくれるんでしょう…?」


私の事を良く知っている人だろうか。

…私だって…彼の事を知っているはずだろ……?

名前は?


一人で押し込まないで下さい。…先輩は重い物を抱え過ぎです。

…………………。

辛い時は…辛いって言ってください。


そう…いただろう?

こんな私にそう言ってくれる人が。

私にとって…大切な存在なんじゃないのか?

彼が居たから…私は私になれたんだ。

無能力者でも、彼が居たから抗えたんだ。

…………それを…忘れるつもりか?緋色。

私の大事な後輩を…見捨てるつもりか?

こんな奴等にヒーヒー言ってる場合か?

「ップ…」

緋色は口の中の血を捨てる。

毒はなんとか対処できたようだ。

慣れてるし、香露音曰く耐性がついていたようだし。

「正解は…てめぇ等にボコされるほど雑魚じゃなかったって事。」

「は?何言ってんの?馬鹿にしてんの?」

緋色はその問いに満面の笑顔で答えた。

「うん!寧ろ私から見て、雑魚はそっちかなって思った!」

精神世界の緋色に繋がる。

こういう時に一番遊ぶのに最適だろう。

「…無垢の子供が怖いって言うじゃん?……やって来たことやり返そうと思ったんだ。…私も怒らせたら…死ぬよ?」

第六位で子供の緋色が目覚める。彼女のまたの名を無垢の緋色。

彼女の剣は血の様に真っ赤に染まった。

繋がっている状態で昇華できるようになったようだ。

「取り敢えず…後輩君の名前を思い出す前に…死んでね。」

数分後…

緋色が普通に立っている周りで4人は恐怖で尻餅をついていた。

「な…何だよこいつ…」

「何で急に…!?」

緋色は制服についた埃を払う。

「じゃ。」

そうして、教室を出ていった。

そこから、緋色の黒い噂は絶えず続いた。

緋色は腹が立ったのでそれを言った本人たちをしばきまくった。



決闘中に何十人もの山を椅子の代わりに緋色は座っていた。

「……はぁ…あいつの名前思い出せないなぁ…顔とか思い出したのに。多分完璧に思い出したよね、私。」

「ゆ、許して…」

無視する。

「はぁ………多分、あいつの復活条件これかぁ…『名前を思い出す事』…だろうなぁ…」

「く、苦しい…」

「それにしてもこんな事するなんて…私も堕ちたもんだね。アイツってやっぱり凄いなぁ…」

一度暴走した自分を止められない。

困ったものだ。

強くなったらこんなにも立場が逆転するのか。

そう思った。

「…基礎能力で、こいつら倒しちゃんもんねぇ……こいつら弱すぎ…それなのに、私に喧嘩売るなんてどうかしてる。」

という事は、本当にあの時は自分は弱かったと痛感する。

「取り敢えず、決闘終わらせよっか。よっ…」

地面に飛び降りる。

「で?謝罪は?」

「ごめんって…!」

勿論、ちゃんとした言葉以外を発したやつは只では殺さずに甚振った。

全員が終わると、本当に時間が無駄に消費された気がする。

「ッチ。もうこの時間かよ。小学園って、自由がないのが辛いなぁ…」

戻って来たのは、小学園の緋色が最後の年になった時だ。

…一体この時期に戻り何をすれば良いのか見当もつかない。
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