ブレインダイブ

ユア教 教祖ユア

文字の大きさ
上 下
62 / 104
参章・昇りし太陽編

3-2 59 緋色視点 かの者たちは

しおりを挟む
香露音は今何をしているだろうか。

夏希は何をしているだろうか。

後輩達は?

あの人達の場所など知らない。

それに、鶴ちゃんは同じ小学園らしいが見当たらない。

「…で?なんで私は異常に避けられているのか…」

まぁ、理由等普通に考えていれば分かる。

(あ~あ…ちょっとやり過ぎた…?温室育ちには刺激が強過ぎたかっしら~?)

「樫妻。…お前、馬鹿か?」

「何?…馬鹿じゃないし。」

橋本が話しかけてくる。

…そういえば、こいつは私をよく茶化していた気がする。

「あんな事やっといて、こうなる事は分かるだろう…?」

「…ふん。無能力者だと舐めてたのが悪い。」

きっぱりと言う。

取り敢えず、後輩の名を思い出す前にやる事がある。

黄金の王の力を持つ、片岡 英人かたおか ひでと

そいつを倒し、完全な一位になる。

そうすれば面倒事を極力少なくできる。

の時間も無くなるだろう。

「…そうしないといけない理由でも、見つけたのか?」

「……………」

完全に図星だ。そのせいで言葉に詰まってしまった。

こいつは昔から妙に勘が鋭い。

だから、モンスターの攻撃から緋色を庇う事が出来たり、それこそ、至る情報が書かれていた手帳を作れたりするのだろう。

「………別に。」

緋色は味方の収集に困っているが、少なくとも小学園の人達に頼もうとは思わない。

(早く卒業したい…ここに味方がいなさすぎる。)

そして、ある女子の視線が痛い。坂下 千恵さかした ちえ

最近やっと勘付いたのだが、多分橋本の事が好きだろう。

だから、他の女子と喋ってほしくないようだ。

勘付くタイミングがそこそこ遅い緋色が言う事ではないが、橋本も鈍いものだ。

鈍いイケメンは本当に面倒臭い。

名無しの後輩の様に。

(あいつの事如何言おう…?桜君?)

名無しの後輩は誕生日が桜の季節なので桜君にした。

名前の由来とか分かったなら、名前を思い出すのが簡単なのだが、多分無理だろう。

名前に関する情報は欠片も思い出すことが出来ないのだから。

「………何か…あったのか…?」

「無い。」

「…ふ~ん。」

そう言い、やっとどっかに行ってくれた。

外の世界に行く準備をするのは良いが、どうやって外に出よう。

そう考えて、唯一行動できる方法が、不良ぶること。

既に学校では何故か問題児扱いされているので、それを使えば何とかなりそうだ。

前回までは一応優等生ぶっていたのに…全ては桜君のせいだ。

放課後のチャイムがなり、今回、緋色を遊ぼうとする人達の番になった。

今回は柊と、その下っ端。

「緋色、最近調子乗ってんじゃないの?」

「?何で…?」

「弱い者いじめして…サイッテーだとは思わないの?」

「…?」

「人間として、終わってるね!」

「そうだ、そうだ!」

緋色は溜息をつく。

「…何?どの口がそんな事言ってんの?自分の事を棚に上げて、鬱陶しい。」

そして、10分の内に周りの2人が死んで消えた。

緋色は銃を柊に向けている。

「私が君にして欲しいことは、契約の解除。オッケー?」

「何でそんな事!」

腕を撃ち抜いた。

「身の程を弁えろっつってんだよ。分かんねぇの?」

「…こんな事して…!ただだ済むと!」

「あんたらが撒いた種だろ。自業自得だよ。…どんだけ、かつて仲が良くても…その仲をブチ壊したのは君自身だ。違う?」

「違うわ!無能になって嘲笑ってたのはそっちじゃない!」

意味が分からない。馬鹿は話が通じないのか。

今は、無能力者で馬鹿にしているやつをボコボコにしたいので、今は無能力者として行動している。

だから、資格も死線も隠して持っている。ついでに、死線は修理した。

ちょっと変な目で見られた。ちょっとショックだ。

まあ、このまま銃を突きつけただけで終わらせる訳にはいかないので引き金を引いて、契約を解除させた。

自分が自由になっていく度にちゃんと嫌われている。全く不本意だ。

そうやって、自分が強さをアピール出来ていったがそれに比例?して問題児扱いが酷くなっていった。

もう先生に対して口答えも酷いし、家族に対しても、更に不良っぽくした。

その分、勉強をちゃんと復習し直して好成績を修めた。

それこそ嫌な奴である。

お陰で数日家を空いても家族に何も言わなくなった。

不良は全くもって楽である。

「はぁ…疲れた。」

緋色は壊れかけの時計台に登って、屋上の縁に座っていた。

「……準備はそろそろか。………一人で全部やったから…時間かかったなぁ…」

記憶を取り戻してから既に1ヶ月経っている。

最初は、素材の調達。

建物を探したい気持ちはあるにはあるが、武具が少し弱過ぎる。

「………何処に行くつもりだ?」

気配察知を長らくしていなかったせいで気配に気付かなかった。

急いで後ろを向くと、橋本がいた。

「…なんの用?」

「…樫妻がいたから、登ってきた。それにしても、此処は良いなぁ。」

「こんな、何時壊れてもおかしいオンボロの時計台にわざわざ登る?」

「…ああ。それはどっちに言ってるんだろうな。」

「…で?要件は?」

「…樫妻。…外の世界に行くつもりで不良ぶってるだろ。」

この言葉で一気に不安になる。

「あ?私が?まず資格がいるんじゃないの?」

「…持ってるんだろ?」

「証拠は?根拠は?」

ヤバイ。バレてる気がする。何とか逃げたいができるだろうか。

「演技が下手くそ。元々の真面目っぷりが全面に出てるぞ。」

「………」

………なんか腹立つ。

「それに、アナライズ隠蔽してんだろ。俺はそんなに、アナライズ得意じゃないけどさ。…一番上手い奴にアナライズ頼んだら…エゲツない数値だったんだけど。にしてはな。それ以外は見えなかったらしいが。」

緋色のアナライズの隠蔽を少しでも超える人間があそこにいるとは緋色は思っていなかった。

自分の無力さをここでも痛感するとは緋色は少し地獄を思い出した。

「それが根拠?」

その程度じゃ、理由にはならない。

それ以上の理由は無いようにしてくれ。頼む。

「それじゃあ、ちゃんとした理由にならなくない?」

「はぁ…お前そんな事も考えられないのか…?サルかよ。」

「はぁ…!?サルじゃないし!何!?馬鹿って言…!……い…た…い…の…………」

「ここで質問だが…中の世界にサルは居ない。だから、中の世界にしか居ない人はサルって言葉知らない筈だぜ?…何で知ってるの?」

嵌められた。

そして簡単に嵌められた緋色自身に呆れてしまう。

「…外の世界に行く確証は無いけど…?」

最後に足掻いてみる。

「じゃあ、実力のある柊をボコせる実力を持ってして…何故そこまで隠すんだ?…いや、隠す必要があるんだ?」

「……目立ちたくないの。」

「悪目立ちはしても、名誉は欲しくないんだな。」

「どうせ、何をやっても私は悪者よ。何をしても良いでしょ。」

「犬って馬鹿にされてたお前が狼になったが…1匹狼じゃあ限界があるぜ?」

そんなものは知っている。

「……だからなに…」

「外の世界に行く理由の予想を言うが…樫妻。誰を探してんだ?」

「…!なんでそれを…!」

「明らかに小学園でキョロキョロしてたからな。…探してたんだろう?それすらも隠してるのは何でだよ…?」

殆どお見通しである。

頭が良すぎるのも困りものだ。

「はぁ…分かった、分かった。降参。全部当たり過ぎてもう疲れた。」

「じゃあ、教えてくれよな。」

にやりと彼は笑う。

取り敢えず、もう面倒なので全部言った。

信用されないだろうし、これで関わって来ることはないだろう。

「…ふ~ん。そんな事がなぁ…じゃあ、お前は外の世界に行くのに建物を探しに行くのか?」

「今回は違う。…武器と防具がもうボロボロだから、それの調達。」

「まぁ、そうだな。人食い兎キャニバル・ラビッツと長い間戦いりゃあそうなるか。」

「…まさか…信じてるの…!?」

「ああ…なんだよ?信じて欲しくないのか?」

当たり前だ。

「信じると思わなくて…」

それもあるが、どちらかというと信じて欲しくなかった。

「……俺も外の世界に付いて行っていいか?」

「……………は?」

「少なくとも…足手まといにはならねぇよ。」

「…それは…そうだけど…」

「……少し位、一人で行動する以外の方法を考えておけよ。そうしないと、何時か怪我するぞ。」

(どいつもこいつも…私を何だと思って…)

一人で何にも出来ない訳では無い。

それでも一人でやるなと何故この人たちはいうのだろう。

「…ああ、もしかしてYESを言わない理由を当てようか?」

「………どうぞ、ご勝手に。」

「………俺が死ぬからだろ?…正確に言えば俺が死ぬと分かってるからか?」

「な…何で………!」

何で知ってる?と言おうとして止めた。

それこそ答えが当たってしまうことになる。

「……そう思ってるんだったらやめたら?」

違うだろ?…それに、別にサルって言葉は外の世界の共通じゃねぇ。俺が作った言葉みたいなもんだ。だから、外の世界に行ったとしてもサルって言われて必ずしも反応する訳じゃない。通じる理由として考えれるのは…」

「偶々言葉がダブった。…もしくは…」

「俺と関わったか。…例えばの話、樫妻と共闘中に俺がサルに喰われて死んで俺が死ぬ直前に手帳を渡したら?」

「…記憶を引き継ぎしてるんだから、その手帳の記憶を私は知ってると。」

「……そうそう。」

少しだけ、彼の顔色が変わる。

「とんだ偶然だね。」

橋本は一息溜息をついた。

「そうだな。…………俺が心臓を貫かれても生きてるなんて奇跡に等しい。」

急にそんな事を言い始めた。

「…………冗談よね?」

確かに、緋色達が世界をやり直した事は言った。

しかし、橋本と再開した矢先にモンスターから庇って死んだ事は言っていない。

「いいや?サルに襲われてたお前を助けたあと、大型の野郎にお前を庇って死んだよ。その時に、俺は手帳を託した。」

間違いは1つもない。

「…………本当に…思い出したの…?」

「ああ。徐々に思い出した。お前の言ってる事は本当だよ。」

「それでも…外の世界に私と一緒に…?」

「勿論。」

ここまで言われたら折れるしかない。

「…わかったよ。橋本、一緒に行ってくれる?」

手を差し出す。

「ああ。」

2人は握手する。

「少なくとも…当分の間は手伝ってやるよ。」

「それは頼もしい事で。」

思いよらず味方ができた。もう直ぐで…外の世界に行く事になる。
しおりを挟む

処理中です...