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平民の仕立て屋に貴族が行く事は別におかしい話じゃない。
例えば、平民の儀式に貴族が行く場合。
この場合、平民の仕立てて貰ったほうが汚れにくかったり、動きやすかったりする。
あと、貴族の服で行けばめちゃくちゃ浮く。
もしも貴族の服で行けば、常識の無い威張り屋と平民にも貴族にも思われる。
成金に多いのも困りものだ。
次に、平民に褒美を与える場合だ。
普通は一々しないが、貴族の馬車の車輪が泥に埋もれ動かなくなった時に助けた場合は定期的にあるらしい。
時と場合によって、命の危険が晒されている状況に助ける場合も勿論ある。
その場合には、褒美を与えるパーティー的なものをするのだが、貴族のマナーとして『主役を立てる』というのがある。
要は主役よりも質素でなければならないということだ。
そして、この場合に平民の為に貴族が仕立ててあげて、自分達はサードランドの仕立て屋で仕立てるということをする。
ここまでやる貴族はあまりいない。
どちらかというと、平民と一緒に貴族の仕立て屋でしてもらう方が多いらしい。
という訳で何故かどちらの例にも当てはまらないが、平民の仕立て屋に大貴族がやってきた。
「いらっしゃ………へ…?」
「御無沙汰してるわ。エレル。」
「いや、え?」
「…めちゃくちゃ平民仕様に仕立てて欲しいの。」
「…また何かやらかすつもりで?」
どうやら本当に知り合いらしい。
「いいえ、現在進行系よ。」
一番駄目な状況だ。
(…本当に着いてくるつもりか?)
「…分かりました。じゃあ行きますよ、二人とも。」
「え?俺も?」
「…エウルの隣にいるなら、最低限しないとね。」
「……あ、ああ…?」
ということで少年も巻き込まれて仕立てられた。
「やっぱり、エレルが一番いいわね。」
「ありがと。」
「……まともな服を着たのは初めてかもな…」
「似合ってるじゃない。サイズもピッタリ。」
少年も少しだけ気分が良くなった。
「さて、代金は…今は無理ね。請求はもうちょっと後にするわ。1ヶ月後に請求書をルナディオルド家に送るわね。」
「…ええ。ありがと。」
「行ってらっしゃい。エウル。怪我はしないようにね。」
「ええ!」
ということで店を出た。
「…で、本当に着いてくるつもりか?」
「勿論!」
少年は溜息を吐いた。
この街から出るしか無いのはこの貴族も分かっている筈だ。
「俺はこの街を出るぞ…?」
「知ってるわ。」
「……直ぐに帰れないぞ。」
「大丈夫。後三日くらいすれば、私が何をしてるか家族に分かるわ。相当怒るでしょうね。貴族が旅に行くなんて!」
すると、急に貴族が浮いた。
「…!?」
盗賊だ。
「早速かよ!!!」
少年は後を追いかけた。
エウルは裏路地に連れ込まれた。
「上物だな。」
「こいつ平民の服を着てるが、貴族で間違いないぜ。」
「……」
エウルは呆れた。
こんなにも簡単に攫われるとは思わなかった。
あの少年が心配しているのは、貴族である自分がついていけないと思ったからだろう。
「………」
「お嬢さん。安心しな、金さえ俺らが貰ったら直ぐに帰れるからな。」
それだけは回避しなければならない。
自分が外に出れないのは駄目だ。
誰よりも自由を望んでいる。
人としての必要最低限のマナーだけを守り、しっかりと働き、自由に遊ぶ。
平民が少しだけ羨ましかった。
だけど、やっぱり平民は汚い人もいる。
この目の前の人達がそれだ。
(大丈夫。彼は必ずここに来る。)
それでも憧れを持ち続けたい。
子供の頃の純粋な気持ちを裏切りたくなかった。
「……!」
少年は裏路地の壁にしがみつき、口を静かにするように人差し指を立てていた。
「…私は、貴族よ!こんな事して、命があると思わない事ね!」
ヘイトを自分に向けるよう叫ぶ。
「…あ?」
「……もう既にお父様が私を探してるわ!ざまあみやがれですわ!…貴方達は見つかった瞬間に終わるわよ!」
「…何だコイツうるせえなぁ。」
「黙らすか。」
「何をするつもり?私を誰だと…」
「ただの無力野郎だよ!」
殴られそうになった瞬間、少年は雷神の如く突進してきた。
「態々そこまで言わなくてもいいよ…」
「…あら、でもそれ位がよかったでしょう?」
「ほら、縄切ってやるよ。」
腕が解放される。
「この野郎!誰だてめえ!」
「…俺の名前はそもそも無い。」
周りに囲まれたが、少年が来てくれた。
「…私に、自由を見せてほしいの。自由に生きてみたいの。自分が向き合った学問で、どこまでこの世界に通用するか挑戦してみたいの。」
周りの人間が一斉に襲いかかってきた。
その周りに魔導陣が浮かび上がる。
「…私の名前はエウル・ルナディオルド・レヴァニア。」
周りの盗賊が一斉に驚いた。
「…嘘だろ…?」
その隙を狙って魔導陣を発動し、一斉に殲滅した。
「エウルと呼んで。私は魔道士よ。その資格を取ったばかりだけど、その資格に見合った実力であることは保証する。お金では困らせない。でも、貴族であることは開かしたくない。」
少年はただただ驚いていた。
「…それでもいいなら、私を連れてって欲しい。」
少年はため息を吐いた。
「分かったよ。連れてってやるよ……エウル。」
エウルは笑った。
「やったわ!……貴方の名前は…?」
「無い。」
「…無い…?」
「ああ、無い。作ってもない。知らない。」
「…じゃあ、エレストで。」
「お前が決めるのかよ!?」
「エレスト。よろしくね!」
「ああ…よろしく。」
少年、いや、エレストはエウルと外に出る準備をした。
先ずは鍛冶屋に行く。
「よう、坊主!」
「こいつに防具をつけてくれ。」
「…なんだ、この娘は?お前、どういうタイプだ?」
「魔道士です!」
「…魔道士ぃ…?ふーん。じゃあ、軽い方が良いな。」
「武器は私が持ってるので大丈夫です!」
「…どれだ?見せてみろ。」
すると、指輪が光った瞬間杖が現れた。
「ジャジャーン。エウル製法のエルポケット!便利よ。ポケットは、大きくないけど。」
「魔導具か。」
「…あんまり使い勝手がよくないことで有名な魔導具か。」
「何よ!悪い?」
「ちなみにどれくらい入る?」
「…自分の体ピッタリ入るくらい。」
「少なくねえから、魔導具の割に優秀だけど…」
「魔法具と比べたら…しょぼいな。」
魔法で作る道具つまり、魔法具は馬車くらいが優秀とされている。
人間が入るサイズは普通にあるということだ。
「うるさいー!」
「で、コイツは誰だ?」
「私はエウル。ただの平民よ。」
「分かった、ルナディオルド家の末っ子だな。」
「一瞬でバレてるじゃねえか。」
「えー!?何でー!?」
何故ならエウルという名前はルナディオルド家のエウルしかいないからだ。
「…おい、お前何があった?」
「カクカク云々…」
「カクカク云々言われても分からねえよ!言う気ねえだろ!?ああ…もう分かった!お前、此処には当分戻れねえんだろ!」
「ああ。」
「なら、これを持っていけ。」
「何だ…?」
「お前の義手だ。左腕のな。」
金属でできた腕だ。
関節はちゃんと曲がるように作られている。
「…いいのか?」
「ああ。昔から、お前とは関わってきた。…名前は知らないがな。」
「エレスト。…俺はエレストらしい。」
「…そうか。エレストか。あまり目立った事をしたがらないお前が、こうなるなんて思わなかった…とは言い切れなかったよ。何をしでかすか分からない奴だった。」
「……そうかもな。」
「…この機会だ。色んなところに行ってこい。お前なら、どこに行っても大丈夫だろ?」
「ああ。そうだな。」
「ちゃんと帰って来いよ。」
「当たり前だよ。」
二人は装備し、店を出た。
「ありがとう。行ってくるよ。」
「ああ、行ってらっしゃい。」
二人は外に消えた。
例えば、平民の儀式に貴族が行く場合。
この場合、平民の仕立てて貰ったほうが汚れにくかったり、動きやすかったりする。
あと、貴族の服で行けばめちゃくちゃ浮く。
もしも貴族の服で行けば、常識の無い威張り屋と平民にも貴族にも思われる。
成金に多いのも困りものだ。
次に、平民に褒美を与える場合だ。
普通は一々しないが、貴族の馬車の車輪が泥に埋もれ動かなくなった時に助けた場合は定期的にあるらしい。
時と場合によって、命の危険が晒されている状況に助ける場合も勿論ある。
その場合には、褒美を与えるパーティー的なものをするのだが、貴族のマナーとして『主役を立てる』というのがある。
要は主役よりも質素でなければならないということだ。
そして、この場合に平民の為に貴族が仕立ててあげて、自分達はサードランドの仕立て屋で仕立てるということをする。
ここまでやる貴族はあまりいない。
どちらかというと、平民と一緒に貴族の仕立て屋でしてもらう方が多いらしい。
という訳で何故かどちらの例にも当てはまらないが、平民の仕立て屋に大貴族がやってきた。
「いらっしゃ………へ…?」
「御無沙汰してるわ。エレル。」
「いや、え?」
「…めちゃくちゃ平民仕様に仕立てて欲しいの。」
「…また何かやらかすつもりで?」
どうやら本当に知り合いらしい。
「いいえ、現在進行系よ。」
一番駄目な状況だ。
(…本当に着いてくるつもりか?)
「…分かりました。じゃあ行きますよ、二人とも。」
「え?俺も?」
「…エウルの隣にいるなら、最低限しないとね。」
「……あ、ああ…?」
ということで少年も巻き込まれて仕立てられた。
「やっぱり、エレルが一番いいわね。」
「ありがと。」
「……まともな服を着たのは初めてかもな…」
「似合ってるじゃない。サイズもピッタリ。」
少年も少しだけ気分が良くなった。
「さて、代金は…今は無理ね。請求はもうちょっと後にするわ。1ヶ月後に請求書をルナディオルド家に送るわね。」
「…ええ。ありがと。」
「行ってらっしゃい。エウル。怪我はしないようにね。」
「ええ!」
ということで店を出た。
「…で、本当に着いてくるつもりか?」
「勿論!」
少年は溜息を吐いた。
この街から出るしか無いのはこの貴族も分かっている筈だ。
「俺はこの街を出るぞ…?」
「知ってるわ。」
「……直ぐに帰れないぞ。」
「大丈夫。後三日くらいすれば、私が何をしてるか家族に分かるわ。相当怒るでしょうね。貴族が旅に行くなんて!」
すると、急に貴族が浮いた。
「…!?」
盗賊だ。
「早速かよ!!!」
少年は後を追いかけた。
エウルは裏路地に連れ込まれた。
「上物だな。」
「こいつ平民の服を着てるが、貴族で間違いないぜ。」
「……」
エウルは呆れた。
こんなにも簡単に攫われるとは思わなかった。
あの少年が心配しているのは、貴族である自分がついていけないと思ったからだろう。
「………」
「お嬢さん。安心しな、金さえ俺らが貰ったら直ぐに帰れるからな。」
それだけは回避しなければならない。
自分が外に出れないのは駄目だ。
誰よりも自由を望んでいる。
人としての必要最低限のマナーだけを守り、しっかりと働き、自由に遊ぶ。
平民が少しだけ羨ましかった。
だけど、やっぱり平民は汚い人もいる。
この目の前の人達がそれだ。
(大丈夫。彼は必ずここに来る。)
それでも憧れを持ち続けたい。
子供の頃の純粋な気持ちを裏切りたくなかった。
「……!」
少年は裏路地の壁にしがみつき、口を静かにするように人差し指を立てていた。
「…私は、貴族よ!こんな事して、命があると思わない事ね!」
ヘイトを自分に向けるよう叫ぶ。
「…あ?」
「……もう既にお父様が私を探してるわ!ざまあみやがれですわ!…貴方達は見つかった瞬間に終わるわよ!」
「…何だコイツうるせえなぁ。」
「黙らすか。」
「何をするつもり?私を誰だと…」
「ただの無力野郎だよ!」
殴られそうになった瞬間、少年は雷神の如く突進してきた。
「態々そこまで言わなくてもいいよ…」
「…あら、でもそれ位がよかったでしょう?」
「ほら、縄切ってやるよ。」
腕が解放される。
「この野郎!誰だてめえ!」
「…俺の名前はそもそも無い。」
周りに囲まれたが、少年が来てくれた。
「…私に、自由を見せてほしいの。自由に生きてみたいの。自分が向き合った学問で、どこまでこの世界に通用するか挑戦してみたいの。」
周りの人間が一斉に襲いかかってきた。
その周りに魔導陣が浮かび上がる。
「…私の名前はエウル・ルナディオルド・レヴァニア。」
周りの盗賊が一斉に驚いた。
「…嘘だろ…?」
その隙を狙って魔導陣を発動し、一斉に殲滅した。
「エウルと呼んで。私は魔道士よ。その資格を取ったばかりだけど、その資格に見合った実力であることは保証する。お金では困らせない。でも、貴族であることは開かしたくない。」
少年はただただ驚いていた。
「…それでもいいなら、私を連れてって欲しい。」
少年はため息を吐いた。
「分かったよ。連れてってやるよ……エウル。」
エウルは笑った。
「やったわ!……貴方の名前は…?」
「無い。」
「…無い…?」
「ああ、無い。作ってもない。知らない。」
「…じゃあ、エレストで。」
「お前が決めるのかよ!?」
「エレスト。よろしくね!」
「ああ…よろしく。」
少年、いや、エレストはエウルと外に出る準備をした。
先ずは鍛冶屋に行く。
「よう、坊主!」
「こいつに防具をつけてくれ。」
「…なんだ、この娘は?お前、どういうタイプだ?」
「魔道士です!」
「…魔道士ぃ…?ふーん。じゃあ、軽い方が良いな。」
「武器は私が持ってるので大丈夫です!」
「…どれだ?見せてみろ。」
すると、指輪が光った瞬間杖が現れた。
「ジャジャーン。エウル製法のエルポケット!便利よ。ポケットは、大きくないけど。」
「魔導具か。」
「…あんまり使い勝手がよくないことで有名な魔導具か。」
「何よ!悪い?」
「ちなみにどれくらい入る?」
「…自分の体ピッタリ入るくらい。」
「少なくねえから、魔導具の割に優秀だけど…」
「魔法具と比べたら…しょぼいな。」
魔法で作る道具つまり、魔法具は馬車くらいが優秀とされている。
人間が入るサイズは普通にあるということだ。
「うるさいー!」
「で、コイツは誰だ?」
「私はエウル。ただの平民よ。」
「分かった、ルナディオルド家の末っ子だな。」
「一瞬でバレてるじゃねえか。」
「えー!?何でー!?」
何故ならエウルという名前はルナディオルド家のエウルしかいないからだ。
「…おい、お前何があった?」
「カクカク云々…」
「カクカク云々言われても分からねえよ!言う気ねえだろ!?ああ…もう分かった!お前、此処には当分戻れねえんだろ!」
「ああ。」
「なら、これを持っていけ。」
「何だ…?」
「お前の義手だ。左腕のな。」
金属でできた腕だ。
関節はちゃんと曲がるように作られている。
「…いいのか?」
「ああ。昔から、お前とは関わってきた。…名前は知らないがな。」
「エレスト。…俺はエレストらしい。」
「…そうか。エレストか。あまり目立った事をしたがらないお前が、こうなるなんて思わなかった…とは言い切れなかったよ。何をしでかすか分からない奴だった。」
「……そうかもな。」
「…この機会だ。色んなところに行ってこい。お前なら、どこに行っても大丈夫だろ?」
「ああ。そうだな。」
「ちゃんと帰って来いよ。」
「当たり前だよ。」
二人は装備し、店を出た。
「ありがとう。行ってくるよ。」
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