雷撃の紋章

ユア教 教祖ユア

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1章 雷撃の少年は目覚める

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特に何もなく、終わってしまった。

「怪我人はいなかったみたいねー」

「ああ、そうだな。」

エレストとエウルは酒場に行ってご飯を食べていた。

(…流石にエウルと一緒に盗む訳にはいかないからな…盗んで食べる事が、当分無くなりそうだ…)

エウルの食べ方は明らかに酒場に合わない程綺麗だった。

流石に、汚く食べろとエレストは言えなかった。

「…教養は仕方無いな。」

「何か言った?」

「何も言ってねえよ。」

此処は色々な人がいる。

「…俺はウルフを10匹殺ってやったぜ!」

しょうもないマウントを取る男。

「…うう…俺は倒すどころか、逃げた最低な男だぁ…」

泣きべそをかいてる男。

「えー!凄ぉい!筋肉ムキムキで羨ましぃ~」

明らかに媚びている女。

「え、ああ…そうだろ?」

満更でも無い男。

色々居る。

だから、貴族がいてもおかしくない…流石にそんな訳は勿論無い。

「ちょっと味が濃いわ…」

「そりゃあ酒が進むような味付けにしてるからな。」

「…ワインには合わないわよ。」

「ビールだよ。あとジンもあったっけな…」

「そっちなのね…ビールは貴族用のお酒を飲んだ事があるけど、それでも口に合わなかったから多分値段関係なく飲めないわ。」

「お前…何歳だ…?」

「19歳よ。」

「俺より歳上かよ…」

「え?」

「俺は17だ。」

「ギリ飲めるわね。」

国によって変わるが、基本的に18前後で飲むことができて、エレスト達がいる場所は15歳で飲める。

まあ、14歳が飲んでも罰則は無いが、無理やり飲ませると場合によっては平民の資格すら剥奪される。

「俺は飲んだ事が無い。予定も無い。」

その言葉を言うと、周りの人達が急にエレストを見た。

「おい、あんちゃん。本当か…?」

「…あ…?ああ……」

「此処は酒場だぜぇ?」

「はぁ…?ああ…」

「飲めぇ!!!」

「ああ!飲め!姉ちゃんの分まとめて全部奢ってやるからよぉ!」

「はぁ…!?それ…うぐっ…!?」

「あー…これはもうどうしょうもないわ…ね…」

エレストは潰れるまで飲まされた。

「…う……俺…は、限界だっ……」

「宿屋までもう少しだから!歩いて!私だけじゃ担げないからぁ!」

「エウルゥ……俺…死ぬかも……」

なんとかエウルは宿屋まで引きずった。

「一つの部屋しか空いてないけど良い?」

「はい!なんでもいいです!(エレストを放り投げれるなら!!)」

そして、部屋に放り投げた。

「グフへっ…!?」

「はぁ…はぁ…水…を…飲め…」

「もう……お腹が…うぐっ…!?」

介抱が終わり、エレストが寝息を立て始めた。

「スー…スー………」

「やっとだ…私疲れた…」

一人ではしたことが無かったシャワーを浴びて、一人ではしたことが無かった服を着替えた。

「…合ってるのかな?合ってるか。流石に…」

蝋燭の火を手で払って消す。

エレストは寝ている間何かを言っていた。

「ア……クア……」

「……アクア??……聞いたことが……」

しかし、所詮寝言だ。

エウルは固いベッドの上に倒れこんだ。

「皆がふかふかのベッドに寝れる世界は、どれくらい平和なのかしら?」

そう言いながら眠りについた。

「おはようございます、昨日はよく眠れましたか?」

「ああ、記憶が消えかけてるくらいな。いつの間に宿屋にとまったんだ…」

「お連れの方に迷惑はかけないようにね。どうせ無理に飲まされたんでしょうけど。」

エウルを見ると明らかにドヤ顔をしている。

「か、感謝してます…」

代金を払い、宿を出た。

頭がズキズキと痛む。

「大丈夫?」

もちろん大丈夫ではないが、エレストは追われている。

早くここから離れないといけない。

「ああ……行くぞ。次の町はシュバルッツ家から避けられない場所だ。」

「あそこね。国を渡るには確実に通らないといけないから…」

二人は町を出て、次に向かった。









「あのクソガキ!!!よくも俺の腕を!左腕をおおおおおおおおおおお!!」

クロウ・シュバルッツ・ロワードは目が覚めてからずっと荒れていた。

「その上逃がした?ふざけるなああああああああ!!!」

侍女に酒瓶を投げつけた。

バリン!!と派手な音が部屋中に響く。

隣の兵が身を挺して守っていた。

「あ……」

「ルナディオルドの娘が人質にされてしまい、逃がしてしまったとのことです。我々も総力を挙げて探しているので必ず見つけて見せます。」

「見つけ次第殺せ!首を持ってこい!!」

「し、しかし……法律で正式な裁判無しに貴族が勝手に裁いてはいけないと……」

「うるさい!!!俺が殺せと言えば殺せ!大した罰を食らわない、俺は貴族の中の大貴族、シュバルッツ家の当主だぞ!!」

「…………承知しました。」

すると、急ぎ足で一人の女性が入ってきた。

「クロウ様!!」

「マリー!」

「おいたわしや!!マリー、貴方を思うと涙が止まりません!!」

クロウの妻であるマリーは涙をこぼした。

「クロウ様。この者達を下がらせてよろしいでしょうか。マリーは二人っきりで貴方と居たいのです。」

「あ、ああ!もちろんだとも!」

クロウは急いで従者を下がらせた。

「見てください。貴方の好きな薔薇です。」

美しい赤い薔薇がクロウの手に渡った。

「嗚呼、なんておいたわしや。」

マリーの左手がクロウの顔に触れる。

「散々威張ってた貴方がこんなにも簡単に『紋章無し』に落ちぶれるなんて。大貴族?だから何??」

マリーの左手から大量の茨が現れ、クロウの顔を覆った。

「豚みたいな顔を好きになるわけないでしょ??神の紋章である『雷撃の紋章』を手に入れようなんて浅はか。貴方如きに手に入るわけないのに。」

クロウは徐々に動きが鈍くなっていく。

「貴方がこんなにも簡単に私に殺されるなんて思わなかったわ。安心して。私が当主となるわ。」

マリーは、扉を開けた。

「可哀想に、クロウ様はあの男によって、弱った挙句死んでしまったわ。」

周りの従者はざわついた。

「あの男を探しなさい。勿論生け捕りよ。見つけたら報告して。私がそっちに行くわ。」

「え!?わざわざ……」

「良いのよ。貴方たちにこれ以上仕事を背負わせられないわ。それに……私の元夫のせいで怪我をさせてしまったし。」

「あ……」

「これから、この家は荒れるわ。それでも、私に着いて来て欲しい。」

「は、はい!!」

従者は散り散りに去っていった。

「こんなにも簡単に…………ウフフフ…そうよね、クロウあの豚は、疲れるくらい無能で、暴君で、傲慢で、身の程知らずだもの。可哀想にクロウ様。紋章に選ばれたのは、誰よりも欲しかった貴方ではなく、その姿を隣で見て見下していた私のようですよ。」

マリーは笑った。

とても上品に。故に恐ろしく。

口元を抑えていた左手には薔薇が、『薔薇の紋章』が映し出されていた。







その頃、ルナディオルド家では暗い空気に包まれていた。

「本当か?」

「…………はい。」

「シュバルッツ家当主の腕を切り落とした男と一緒にいる!?あいつは何を考えているんだ!!」

「あの子、本当に何を考えているか分からないわ。」

ルナディオルド家の長女であるルミナは溜息を吐いた。

「少なくとも、エウルは逃げようと思えばいつでも逃げれる筈よ。私の妹は弱くない。」

「ルミナが言うのだから間違いは無いのだろうが……じゃあ尚更何故だ!!」

「さあね、まあ、あの子の人選で失敗したことは無いのだし、帰ってくるまで待てばよろしいのでは?」

「いや無理だ。」

「親バカねえ。じゃあ、こうしましょう。私がエウルに直接会いに行きます。そこで直接聞くわ。私の『魔法の紋章』があれば、すぐに行けますわ。」

「座標が分からないと意味がないだろう!?」

「知ってますわよ??あの子、妨害系の魔導を一切起動してないから。」

「はあ!?何故教えなっかた!?」

「エウルは私が教えないと、安易に探してこないと思ってしているのよ。試しているんです、私たちを。」

「試すとは生意気な……はあ。ルミナ、行ってくれるか?」

「ええ。仰せのままに。」

ルミナは部屋を出た。

(最初は攫われたと思ったけど、いつでも外出できるように、長期滞在できる荷物を持ってたみたいだったし、あの子の侍女に聞けば平民について調べ物をしてた。確実にタイミングを見計らったわね……)

ルミナは微笑んだ。

(硫石ね。面白い事をしてくれるじゃない。久しぶりに会いたいし、良い機会ね。)

そう思いながら、侍女に言う。

「私は今から行くわ。外出の用意してちょうだい。」

「は。」

ルミナは早々に出発した。
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