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二人は、獣道を歩いていた。
「あの一撃をエウルがもらった時はマジで死んだんじゃ…って思ったぜ。」
「私の魔導具を舐めてもらったら困るわ。…マオに殴られるまで存在を忘れてたけど。」
「魔導具のお陰だったんだな。忘れてたのはどうかと思うけど。」
防御の魔道具ではなく、そもそも魔導具を作り始めた頃に、遊びでダイラタンシー現象に基づいた魔導具を作ったらしい。
数年後に、防御系の魔導具を作る課題が学園で出されたときに、そのおもちゃを改良して物理攻撃のみ防ぐ魔導具が完成したということらしい。
「手を抜いた魔導具だったから、めちゃくちゃ忘れてたんだよね。無いよりましだと思って着けてたけど。でも、今考えると、普通に防御の魔導を起動させた魔導具よりも、こっちの方が守ってくれたんだよね。」
「やべえな……」
「でも驚いたのは、こっちもよ!エネディート剣術を使えるし、怪我の手当ての仕方も完璧だし…!」
「俺が驚いたよ。まさか、この剣術が俺くらいしか使えないなんて。」
「元々ある貴族が生み出した剣術の筈よ。」
「貴族が…?……そうか。」
「一体誰に教わったの?」
エレストは目を細めた。
「…さあな。」
「さあなって…まあ、良いけど…じゃ、じゃあ怪我の手当ては?」
「鍛冶屋のおっちゃんに行けば包帯とかあるからな。途中から放り投げられて自分で手当てさせられた。」
「何かと世話になってたのね。」
「…確かにそうだな。」
「で、いつになったら、獣道から脱出できるの?」
「さあな。」
因みに、怪我は完治していない。
特に、エレストは出血が酷かったので、そろそろ限界が来そうだ。
「ここで、魔物が来たら困るんだけど……」
「そう言うのはやめとけ。」
「え?」
「来るから。」
その言葉とともに、足音が聞こえる。
「あははは……はあ。」
魔物が四体現れた。
「ほら、言ったろ。」
「疲れたのにー!」
エレストは左腕を構える。
「『雷撃』…!」
一匹にヘッドショットを撃ち、一撃で倒した。
エレストは痛みで顔を顰める。
「エレスト!もう限界よ!」
「でも…!」
すると、魔物の頭が矢で射抜かれた。
「情けないわねー人間って!」
「クスクス……燃えろ。『火球』。」
二匹を燃やし尽くした。
二人は木の上を見上げる。
「エルフ……か?此処はまだエルフの縄張りじゃない筈だけど…」
「うるさいわね。先に言うことじゃないでしょう。」
「あ、ああ。そうだな。森の守人よ。お救いいただき感謝します。精霊のご加護があらんことを。」
「エレスト……それも知っているのね…」
エウルもしゃがむ。
「森の守人よ。精霊の名のもとに感謝を告げます。」
「ふ、ふん!分かったらいいのよ!」
「エルフのの挨拶知ってるんだねー人間なのに!」
エレストはきれいな言葉を使いながら話す。
「本当に助かりました。ここ一帯に泊まれる場所はありますでしょうか?」
「何で貴方に教えないといけないのよ。」
「ウフフ。私たちが知ってるわけないもの。さっき君がエルフの場所じゃないって言った通り、私たちはここを知らないもん。」
「ち、ちょっと!」
「私の魔法で、建物の場所は分かるけど……一緒に来る?」
「良いんですか!?」
(珍しいな。エルフがこんなにも人に協力的なんて…)
エルフはプライドが非常に高く、多種族を見下している傾向にある。
それでも、エルフ自身は魔力が非常に高く、精霊族になれてない妖精族を守ったりするので、威張り散らしているだけの貴族とは全然違うといえるだろう。
(…何か目的があるのか?マオみたいに…いや、考えるのはやめよう…そんなこと考え始めたら一生終わらない…)
二人はエルフと同行することにした。
「お二人の名前は?」
「そっちから名乗りなさいよ。」
相変わらずプライドが高い。
「失礼しました。私はエウル。こちらはエレストと言います。」
「エレストです、よろしくお願いします。」
慣れない口調を知り合いが見たら、恐らく二人を笑っているだろう。
「…フフ。私はアレイ。こっちはクレイア。」
「…ええ。」
クレイアの方が態度が冷たいようだ。
(…この口調はいつまでしないといけないんだ?口が腐りそうだ…)
エレストは思いながら、口に出さず黙っておく。
アレイはクスクスと笑いながら言った。
「もう直ぐ着くみたい。」
「……この街は……」
「不死人の街よ…全世界唯一の。」
不死人…その名の通り死なない人である。
唯一死ぬのは老衰で、魂の概念が無いので魔力を持つ者は例外無くいない。
治癒能力がある訳ではなく、死んだ瞬間復活する。
痛覚は人と変わらない。見た目も人と変わらない。
「……エルフ的には、絶対に行きたくなかったけどね。…今はそんな事言ってられないけど。」
「……ウフフ。そうね。」
どうやら、二人には事情があるようだ。
「エウル。…エルフの二人はまだしも、俺達は人間だ。不死人に見られるけど、簡単に死ねない事を忘れるなよ。」
「分かってる。それに不死人だって痛覚はあるんでしょ?お気楽に死ぬ事なんてあっちにも無いでしょう。」
「それもそうだな。」
「さ、行くわよ。」
四人は街の中に入っていった。
何故不死人だけの街があるのかというと、不死人だけで集まった歴史がある…というだけで、それ以外の事は分かっていない。
そもそも、不死人を自覚する事なんて普通は無い。
何故なら見た目は人類と変わらない為である。
「…そういえば、不死人って不死人にしか使えない力があるんだよな。」
「そうね。未知の力だけど。」
「不思議だよな。」
「……」
「…?二人共…顔色が悪い…」
「…き…気にしないで…」
明らかに顔色が悪い。
「えへ…大丈夫じゃ…無い…かも…」
二人が急に倒れた。
「ちょっ…!?おい!」
近くに宿屋があって助かった。
「こいつら休ませてくれ。」
「え!?エルフ!?」
「良いから!」
「わ、分かりました!」
二人をベッドに横たわらせる。
「うー……魔力がぁ…」
「魔力ぅ?」
「エルフは魔力が多くて、エルフの里も魔力で満ちているから…」
「無意識に放出しまくってたのか。ここは魔力が無いから。」
エウルは何かを思い出した様子でカバンから何かを取り出した。
「じゃじゃーん!」
「なんだそれ。」
「マオの魔力。の、塊。」
「はあ!?」
「一応私も魔導具を作る身だからね。魔力を封じ込める道具は試作品程度にはあるのよ。ただ、容量は滅茶苦茶少ない。でも、二人が動ける程度には回復すると思うよ。」
「一体いつそんなこと…」
「私も別に意図があった訳じゃないわ。だって、本当に少ない魔力量を保存したって仕方無いもの。ただ、放出された魔力があまりにも多くて、勝手にこうなってしまったの。…まあ、お陰でこの二人が助かるなら良いじゃない。」
エウルは魔導具を使う。
「…うう…」
エレストが先に起き上がった。
「……いや、これは言うべきね。……ありがとう。助かった。い…じゃなくて、アレイも助けてくれてありがとう。アレイに変わって礼を言うわ。」
(…エルフが礼を言うのも驚きだが…他人の代わりに礼を言うなんて、もっと驚きだな。意外と言うときは言うのか。)
「困った時はお互い様なので。」
「そう。」
すると、二人の傷が急激に治った。
「もう魔力のコントロールは出来るようになったわ。」
どうやら治癒魔法をかけてくれたようだ。
だが、確実にその魔力量は魔導具には無かったはずだ。
「…これがエルフの力なのか…」
「まあね。エルフは自然の力を借りれる。つまり、魔力を自然に貰うことも出来るって訳。」
「…ウフフ…ふにゃぁ…」
「アレイは寝てるようだし、このまま放っといてもいいわ。」
エレストは、クレイアを見つめた。
「……聞いて…良いか?」
「命の恩人に、騙すことはしない。」
クレイアも二人をしっかりと見ていた。
「あの一撃をエウルがもらった時はマジで死んだんじゃ…って思ったぜ。」
「私の魔導具を舐めてもらったら困るわ。…マオに殴られるまで存在を忘れてたけど。」
「魔導具のお陰だったんだな。忘れてたのはどうかと思うけど。」
防御の魔道具ではなく、そもそも魔導具を作り始めた頃に、遊びでダイラタンシー現象に基づいた魔導具を作ったらしい。
数年後に、防御系の魔導具を作る課題が学園で出されたときに、そのおもちゃを改良して物理攻撃のみ防ぐ魔導具が完成したということらしい。
「手を抜いた魔導具だったから、めちゃくちゃ忘れてたんだよね。無いよりましだと思って着けてたけど。でも、今考えると、普通に防御の魔導を起動させた魔導具よりも、こっちの方が守ってくれたんだよね。」
「やべえな……」
「でも驚いたのは、こっちもよ!エネディート剣術を使えるし、怪我の手当ての仕方も完璧だし…!」
「俺が驚いたよ。まさか、この剣術が俺くらいしか使えないなんて。」
「元々ある貴族が生み出した剣術の筈よ。」
「貴族が…?……そうか。」
「一体誰に教わったの?」
エレストは目を細めた。
「…さあな。」
「さあなって…まあ、良いけど…じゃ、じゃあ怪我の手当ては?」
「鍛冶屋のおっちゃんに行けば包帯とかあるからな。途中から放り投げられて自分で手当てさせられた。」
「何かと世話になってたのね。」
「…確かにそうだな。」
「で、いつになったら、獣道から脱出できるの?」
「さあな。」
因みに、怪我は完治していない。
特に、エレストは出血が酷かったので、そろそろ限界が来そうだ。
「ここで、魔物が来たら困るんだけど……」
「そう言うのはやめとけ。」
「え?」
「来るから。」
その言葉とともに、足音が聞こえる。
「あははは……はあ。」
魔物が四体現れた。
「ほら、言ったろ。」
「疲れたのにー!」
エレストは左腕を構える。
「『雷撃』…!」
一匹にヘッドショットを撃ち、一撃で倒した。
エレストは痛みで顔を顰める。
「エレスト!もう限界よ!」
「でも…!」
すると、魔物の頭が矢で射抜かれた。
「情けないわねー人間って!」
「クスクス……燃えろ。『火球』。」
二匹を燃やし尽くした。
二人は木の上を見上げる。
「エルフ……か?此処はまだエルフの縄張りじゃない筈だけど…」
「うるさいわね。先に言うことじゃないでしょう。」
「あ、ああ。そうだな。森の守人よ。お救いいただき感謝します。精霊のご加護があらんことを。」
「エレスト……それも知っているのね…」
エウルもしゃがむ。
「森の守人よ。精霊の名のもとに感謝を告げます。」
「ふ、ふん!分かったらいいのよ!」
「エルフのの挨拶知ってるんだねー人間なのに!」
エレストはきれいな言葉を使いながら話す。
「本当に助かりました。ここ一帯に泊まれる場所はありますでしょうか?」
「何で貴方に教えないといけないのよ。」
「ウフフ。私たちが知ってるわけないもの。さっき君がエルフの場所じゃないって言った通り、私たちはここを知らないもん。」
「ち、ちょっと!」
「私の魔法で、建物の場所は分かるけど……一緒に来る?」
「良いんですか!?」
(珍しいな。エルフがこんなにも人に協力的なんて…)
エルフはプライドが非常に高く、多種族を見下している傾向にある。
それでも、エルフ自身は魔力が非常に高く、精霊族になれてない妖精族を守ったりするので、威張り散らしているだけの貴族とは全然違うといえるだろう。
(…何か目的があるのか?マオみたいに…いや、考えるのはやめよう…そんなこと考え始めたら一生終わらない…)
二人はエルフと同行することにした。
「お二人の名前は?」
「そっちから名乗りなさいよ。」
相変わらずプライドが高い。
「失礼しました。私はエウル。こちらはエレストと言います。」
「エレストです、よろしくお願いします。」
慣れない口調を知り合いが見たら、恐らく二人を笑っているだろう。
「…フフ。私はアレイ。こっちはクレイア。」
「…ええ。」
クレイアの方が態度が冷たいようだ。
(…この口調はいつまでしないといけないんだ?口が腐りそうだ…)
エレストは思いながら、口に出さず黙っておく。
アレイはクスクスと笑いながら言った。
「もう直ぐ着くみたい。」
「……この街は……」
「不死人の街よ…全世界唯一の。」
不死人…その名の通り死なない人である。
唯一死ぬのは老衰で、魂の概念が無いので魔力を持つ者は例外無くいない。
治癒能力がある訳ではなく、死んだ瞬間復活する。
痛覚は人と変わらない。見た目も人と変わらない。
「……エルフ的には、絶対に行きたくなかったけどね。…今はそんな事言ってられないけど。」
「……ウフフ。そうね。」
どうやら、二人には事情があるようだ。
「エウル。…エルフの二人はまだしも、俺達は人間だ。不死人に見られるけど、簡単に死ねない事を忘れるなよ。」
「分かってる。それに不死人だって痛覚はあるんでしょ?お気楽に死ぬ事なんてあっちにも無いでしょう。」
「それもそうだな。」
「さ、行くわよ。」
四人は街の中に入っていった。
何故不死人だけの街があるのかというと、不死人だけで集まった歴史がある…というだけで、それ以外の事は分かっていない。
そもそも、不死人を自覚する事なんて普通は無い。
何故なら見た目は人類と変わらない為である。
「…そういえば、不死人って不死人にしか使えない力があるんだよな。」
「そうね。未知の力だけど。」
「不思議だよな。」
「……」
「…?二人共…顔色が悪い…」
「…き…気にしないで…」
明らかに顔色が悪い。
「えへ…大丈夫じゃ…無い…かも…」
二人が急に倒れた。
「ちょっ…!?おい!」
近くに宿屋があって助かった。
「こいつら休ませてくれ。」
「え!?エルフ!?」
「良いから!」
「わ、分かりました!」
二人をベッドに横たわらせる。
「うー……魔力がぁ…」
「魔力ぅ?」
「エルフは魔力が多くて、エルフの里も魔力で満ちているから…」
「無意識に放出しまくってたのか。ここは魔力が無いから。」
エウルは何かを思い出した様子でカバンから何かを取り出した。
「じゃじゃーん!」
「なんだそれ。」
「マオの魔力。の、塊。」
「はあ!?」
「一応私も魔導具を作る身だからね。魔力を封じ込める道具は試作品程度にはあるのよ。ただ、容量は滅茶苦茶少ない。でも、二人が動ける程度には回復すると思うよ。」
「一体いつそんなこと…」
「私も別に意図があった訳じゃないわ。だって、本当に少ない魔力量を保存したって仕方無いもの。ただ、放出された魔力があまりにも多くて、勝手にこうなってしまったの。…まあ、お陰でこの二人が助かるなら良いじゃない。」
エウルは魔導具を使う。
「…うう…」
エレストが先に起き上がった。
「……いや、これは言うべきね。……ありがとう。助かった。い…じゃなくて、アレイも助けてくれてありがとう。アレイに変わって礼を言うわ。」
(…エルフが礼を言うのも驚きだが…他人の代わりに礼を言うなんて、もっと驚きだな。意外と言うときは言うのか。)
「困った時はお互い様なので。」
「そう。」
すると、二人の傷が急激に治った。
「もう魔力のコントロールは出来るようになったわ。」
どうやら治癒魔法をかけてくれたようだ。
だが、確実にその魔力量は魔導具には無かったはずだ。
「…これがエルフの力なのか…」
「まあね。エルフは自然の力を借りれる。つまり、魔力を自然に貰うことも出来るって訳。」
「…ウフフ…ふにゃぁ…」
「アレイは寝てるようだし、このまま放っといてもいいわ。」
エレストは、クレイアを見つめた。
「……聞いて…良いか?」
「命の恩人に、騙すことはしない。」
クレイアも二人をしっかりと見ていた。
応援ありがとうございます!
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